こまった。折角の休日だというのに、やる事がない。
そもそも今日、わたしは幸せな一日を過ごす予定だったのに、どうしてこんなことに。理由は簡単。一時間前、憎きわたしの携帯が、彼から『行けなくなった』とだけ書かれたメールを受信してくれたからだ。久しぶりに手を繋いで一緒に歩いて買い物をするんだと妄想を繰り広げていたわたしの喜びは、あのカレンダーの今日の日の一マスのように、真っ黒に塗りつぶされてしまったわけだ。もちろん腹いせにカレンダーを塗り潰したのは一時間前のわたし。
今から新たな予定を入れようと友人にメールをしてみたけれど、女の子の週末は恋人のためにあけられた一日という事を忘れてはいけない。誰からの返信もこない。友情よりも愛。太古の昔より定められし人間の性は如何ともしがたい。
携帯を握りしめながらソファーの上で寝返りをうち、お腹を撫でる。痛い。こんな憂鬱な日をあらわすように、予定よりも早く生理の日が来てしまったようだ。爪の先で引っ掛かれているような、疼痛。こんな日に慰めてくれる人が誰もいないなんて、ついていない。変化の無い待受画面をぼんやりと見つめたあと、メールを立ち上げる。
『ライト、いま暇?』
宛先はライト。ビッチちゃんとのお楽しみ中だったら申し訳ないから、暇じゃなかったら返信は要らないという意味も込めて。返信はすぐに帰ってきた。
『なあに? 今日はキミ、タローくんと久しぶりのデートじゃかった?』
『行けなくなったってさ』
『んふ、あんなに喜んでいたのにねぇ』
そういえばライトに、久しぶりにちゃんとしたデートが出来るんだと散々自慢した覚えがある。恥ずかしい事をしたものだ。今ごろライトは、画面の向こうでわたしを笑っているかも。
『わたし、しばらく立ち直れないかも』
『そんなに落ち込まなくても、ボクもさっきビッチちゃんに振られたばかりだよ』
『今回は何をやったの?』
『メールじゃとても言えないコ・ト』
『ああ……』
わたしとライト、お互いのお互いへの無頓着さを現すように、やりとりを続けるたびにタイトルには「Re:」の字が増えていく。わざわざタイトルをつけるような実のある会話をした事なんて、一度だってないし、きっとこれからもそうなのだ。けれど、こうして意味の無いやりとりをしていると、お腹の底を抉るような痛みも、今日と言う日の憂鬱も、少しは紛れるような気がする。