チョコレートパフェをつつくカナトくんはまるであどけない子供みたいで、見ている者全てを癒す力が秘められていると思う。しかも、向かいの席に座ったこのカナトくんは、正真正銘わたしだけが独り占めしていいカナトくんで、あのカナトくんのくちびるの端についているクリームも、パフェスプーンをつまむ細い指先も、幸せそうに細まった目元も、わたしが奢ったパフェから生まれたものなのだ。
 いつもは不快感しか抱かないファミレス特有のざわざわと煩い店内の喧噪すら気にならない。こうやってカナトくんと一緒の席でパフェを食べられる日がくるなんて、まるで夢のようだ。こればかりは、初めてライトくんに感謝しなくちゃって気になった。
 カナトくんは「勘違いしないで下さい、デートじゃなくてパフェを食べに行くだけです」なんて言っていたし、確かにこれはデートじゃないのかもしれないけれど、カナトくんと学校以外のプライベートな時間を共有出来るってだけで、わたしにしたら本当に価値のある一時だ。
 時刻は既に深夜一時を回っていたけれど、眠気なんか全く訪れない。それはカナトくんも同じみたいだ。

「カナトくん、おいしい?」
「ええ、おいしいです。僕をここまで連れてきておいてこれで不味かったら、君を八つ裂きにしていた所ですよ。誉めてあげます」

 幸せそうな顔に、わたしも幸せにな気持ちで、オレンジジュースを飲み込んだ。カナトくんの笑顔を見ているだけで、ドリンクバーの果汁三十パーセントの安っぽいオレンジジュースでさえ、とても美味しく感じられる。カナトくんにはチョコレートパフェとドリンクバーで、わたしはドリンクバーのみ。深夜料金は高いのでわたしのお小遣いでは自分の分のパフェは用意できなかったけど、でも満足だ。そういえばライトくんはどうしてこんな時間帯にわたしたちを呼び出したのだろうか。いくら夜間学校に通っているとはいえ、休日まで深夜に出掛けなくたっていいのに。

「あ、カナトくん、口の端、チョコレートクリームがついてるよ」

 なんて指摘して、ふと、まるでデート中のカップルみたいだなと思って、照れてしまう。わたしたちが本当のカップルだったら、カナトくんのぷるりと柔らかそうなくちびるをナプキンで拭ってあげたり、あわよくばクリームを舐め取ってあげたり出来たのだろうか。なんだろう、それ、素敵すぎて顔がにやけちゃう。だらしなく緩む顔を諌められないのは困った事態だけれど、カナトくんはチョコレートパフェに夢中だったので、見られる心配は無さそうだった。

「……!」

 いや、カナトくんに見られる心配は無かったけれど、わたしが心配すべきなのはもっと別の事だったようだ。カナトくんの座るソファーの背後、つまりわたしたちの席の隣の席、わたしの席から見たら正面、カナトくんの席からしたら背後の席に座った“彼”が、カナトくんの背後からわたしたちの席の方を覗き込んで、わたしのだらしなく緩む顔まじまじと見つめてにやにやしていた。途端にわたしの顔が凍り付いたのは言うまでもない。
 ――ライトくん。
 声にならない声で叫ぶ。こんな場所にまで付いてくるなんて。ずっと通路の方を警戒していたのに、気が付かなかった。いつのまに隣の席に陣取っていたのか。

「どうしたんですか、変な顔をして」
「あ、な、なんでもないよ!」

 ふと顔をあげたカナトくんが凍り付いたわたしの顔を見て不思議そうにしていたので、慌てて笑顔を取り繕う。カナトくんの後ろではライトくんがぴらぴら〜っと手を振っている。自分の顔はひきつった表情にしかなっていない事が容易に想像できたので、笑うのは止めてオレンジジュースを飲む事で誤魔化しておいた。
 やたら甘ったるく感じるそれを一気に飲み干すと、わたしは慌てて立ち上がる。

「わ、わたし、新しい飲み物とってくるね! カナトくんも、何か飲む?」
「クリームソーダが飲みたいです」
「わかった、ちょっと待っててね!」

 ドリンクバーコーナーに向かうふりをして、早足でトイレに駆け込み、携帯を取り出す。何をするのかは決まっている。“愛しのライトくん”を呼び出すのだ。メールを打つ指先の速度は早送りをかけたみたいに早かった。

   
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