「さて、秘密の作戦会議とかが必要だよね。ボクん家においでよ。誰にも邪魔されず二人きりの密な時間が過ごせると思うから、さ」


 というライトくんの提案によりわたしは今逆巻家にいた。誤解を生むような言い方はしないで下さい、とだけはつっこんでおいたけれど、大人しく彼の背中にほいほい付いていったのは、自分が脅されていたという事ももちろんあったけど、逆巻ライトくんの家イコールわたしの好きなひとの家であるからして、自分の好奇心に逆らえなかったっていうのが一番の理由だった。逆巻のお屋敷はいかにもな雰囲気を漂わせた大豪邸で、わたしのカナトくん好き度が更に高まったのは言うまでもない。


「お、お邪魔します……」
「いらっしゃーい。ライトくんのお部屋へようこそ」


 ライトくんに連れられて彼の部屋だという一室に入れば、ふざけたような言い種で迎え入れられた。こうしてライトくんの部屋の内装を眺めていたら、ろくに知らない男の子の部屋に付いてきてしまったわけだけれどどうしたものかという実感が沸いてきた。おろおろするわたしに向かいんふっ、と独特の笑みを浮かべ、ライトくんは手招きする。

「警戒しなくてもいいよ。ボクが自分の兄弟に惚れてる女の子に手を出すほど飢えてるようにみえる? とりあえずそこらへんに座って座って」

 それもそうかとライトくんが指し示した“そこらへん”であるベッドの上に座ったら、はい、と言って何かをてのひらに握らされた。

「とりあえず初めての作戦会議アンド逆巻家来訪を記念して、お土産をあげるよ。持ってかえって楽しんでね」
「……櫛?」

 渡されたそれは何処からどう見てもごく一般的な櫛のようだったけれど、ひとの家に来て櫛をプレゼントされたのなんて初めてだ。そもそもわたしとライトくんがプレゼントを贈り合うような関係である筈がないし、櫛自体も随分使い込まれ年季がはいったものにみえる。よくよくみれば隙間に紫色の短い毛髪が一本挟まってだらりと垂れているし、ひとに中古品をプレゼントするなんてどういう了見だろう。っていうかちょっと待って。まさか、この珍しい色をした絹のように綺麗な髪の毛は……。


「そう、カナトくんが毎朝髪を梳かしてる愛用の櫛だよ。キミなら喜んでくれるかなと思って、カナトくんの部屋からくすねてきたんだ」
「え、ちょ、な……」
「んふ、喜んでくれたみたいでボクも嬉しいよ。ああ、でも挟まった髪の毛をぺろぺろしたりして遊ぶのは自分の家でやってね」
「ちょっと、ライトくんはわたしの事、どれだけ変態だと思ってるんですか……!」
「ボク以上の変態だと思ってるよ」

 ライトくんがどれほどの変態かは知らないけど少なくともわたしは彼が言うような行為に及ぼうなんて考え、微塵も抱いてはいない。ぶんぶんと首をふったら、ライトくんが少しつまらなそうな顔になった。

「せっかく用意してあげたのに、なにその反応。なにか不満でもあるのなら別に返してくれてもいいんだけど」

 暫し考える。このひとに返したらカナトくんの大切な櫛が何に使われるか分かったものじゃない。わたしは櫛を自分のポケットにしまった。あくまで後でわたしの手でカナトくんの元へと返却する為であり、ぺろぺろだとかくんくんだとか、そういった変態行為に及ぼうなんて意図は一切ない。ないったらない。だからライトくんがそんなわたしを見てにやにやしていたのは彼の一方的な勘違いなのだ。絶対そう。

   
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