「キミはほんとうに意気地無しで臆病な子だね。ほーら、大丈夫だから力を抜いて」



 強張った肩を抱く両手はいつになく優しげだ。いつも以上に愉快をたたえたライトくんが、耳許に直接息を吹き込むみたいに言う。形を確かめる様に溝の部分をゆっくりと這ってゆく舌先はまるで蛇みたい。消毒液を塗布するように耳朶を舐められて、そのまま穴の中に滑り込んできたそれが、私の全てを探るように動き回る。頭の中を覗かれてるみたいな感覚が恥ずかしくて、ぎゅっと目を閉じる。


「んー、ふふ、だめだめビッチちゃん。ちゃんとボクのほう、見て?」


 両の頬をひんやりとした手のひらで包まれて、そっと目をあければ、ライトくんの顔が視界全てをふさいでいる。息づかいすら感じる距離にくらくらする。ちゅっと軽く唇にキスをされて、やけに優しいその行為に驚いている私に向かい、いたずらが成功した子供みたいな笑顔を見せてくれる。ああ、この顔が好きだな。そんな風に思うようになったのは、いつからだろうか。すっかり目の前のヴァンパイアに傾倒している自分がおかしいなんて事、とっくに気がついていたけれどもうどうしようもない。
 近すぎる距離にある身体をそっと抱き締め返した。今度はライトくんが少しだけ驚いた顔をする番だった。だけどそれも一瞬、すぐにまたくすくすと笑いだす。まるでお城を一つ攻め落とした後みたいな笑い方。
 私がライトくんの物だという証が欲しい。身体中花束みたいに広がる噛み跡だけじゃもう足りない。耳許にライトくんの瞳と同じ色の宝石をきらきらと輝かせ、愛に包まれたお姫様みたいな顔で笑顔を浮かべるの。そうしたらきっと素敵な気分になれる。


「キス一つでその気になるなんて、君はほんとうに安い女だね。そういう所が凄く可愛いよ。ビッチちゃんの処女をもらうよ。ここの、ね」


 言いながらもう一度耳朶にキスを落とし、柔らかなそれを口に含んだ。何度か舌先で形をなぞった後、尖った牙の先っぽが中心部に宛がわれる。ごくりと無意識に唾を飲み込んだ。ぷちりと表皮を破る感触は一瞬、あとはぎっぎっと肉を左右に押し広げるようにして異物が耳朶に穴を開けていく感覚。肉を挟んだ向こう側の皮膚を貫く瞬間は、ぴりぴりしたような衝撃がはしる。心臓がどくどくと物凄い勢いで身体中に血液を送り出す。ライトくんの背中に回した腕に力が入る。


「ああ、鏡を見てビッチちゃん。ほおら、凄く可愛くなったよ」

   
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