廊下を真っ直ぐに歩く。

 こつり、こつりとわたしの足音が反響する。暫く進むと足音はいつの間にか二つ重なるようになっていた。あの三人のものならば背後から響いてくるはずだけど、重なる足音は前方から聞こえてくる。前から誰かがこちらへ歩いて来ているようだった。

「……スバル」
「チッ、お前か」

 前方から近づいてきていたのはどうやらスバルのようで、真っ赤な瞳がわたしを認めて立ち止まった。たぶんスバルは匂いや気配でわたしだって分かっていたと思うんだけど、わたしは近づいてみるまで誰かすらも分からない。そろそろここの住人には気配を消すのは止めてほしいものだ。

「なあにその顔。ああ、スバルお兄ちゃんって呼んだ方がいいんだっけ?」
「気持ち悪いから絶対やめろ」

 どうやらお気に召さなかったらしい。ぎろりと睨み付けるスバルの眼光はこの廊下に満ちる空気すら切り裂く勢いだった。スバルは相変わらずのようだ。
 リビングにいる間ずっと苦い顔で黙していたスバルと言葉を交わすのも久しぶりな気がしたけれど、そういえば彼と学校で出会いを果たしたのも今日一日の出来事なんだ。そう思えば、自分の事ながらに随分濃い一日だった気がする。彼はわたしにいい感情は持っていないみたいだけど出会いがあれでは仕方がない。


「つーかこんな場所で何してんだよお前。レイジに部屋に案内されたんだろ」
「その部屋をライト、カナト、アヤトの三人に占領されてね」
「なるほどな。ククッ、お前も面倒なやつらに目をつけられたらしいな」

 兄弟の目から見ても、あの三人は随分な厄介者と解釈されているみたい。
 それからスバルと少しだけ会話をした。といってもわたしたちの共通話題といえば目下のところ例の三人についてくらいのものだったので、あの三人が実は三つ子なんだとか、そういうちょっとした情報を教えてもらっただけ。別にわたしは情報収集をしたかった訳じゃないけれど、わたしの心に穿たれた暗いものが、わたしをひと肌恋しいような気分にさせていた。鬱陶しそうにしていたけど一応は付き合ってくれるスバルは、他の兄弟よりかは幾分も優しいのかもしれない。
 ふと廊下に備え付けられた窓から外を覗けば、空はもう濃紺から群青へと変化を遂げていて、少ししたら夜が明けるみたいだった。もうそろそろ、部屋に帰っても大丈夫かもしれない。わたしは群青からスバルへと振り返る。


「ねえ、スバル」
「あ?」
「愛って、なんだと思う?」

 スバルは一瞬理解に苦しむような顔をしてから、下らねぇ、と小さく吐き捨てた。

20130510

   
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