ホーミングホリデー



「暇なやつは今すぐ駅前のマック集合!!!」

休日、部屋でゴロゴロしてアプリのゲームにいそしんでいた時、通知音が鳴って上鳴からメッセージが入ってきた。
いつもなら無視するところだけど、暇で暇で仕方なくて携帯をいじるくらいしかすることもなかったウチは暇潰しにはなるかな、と壁にかかったジャケットを手に取った。
つまんない用事だったらハンバーガーのひとつでも奢らせればいいし。


「…で、来てみたら」
なにしてんだ、こいつら。

駅前のマックはビルの2階にあって、全面張りの窓から駅前の様子を一望できる位置にあるのだが…
窓際のテーブルを陣取り、その大きな窓にへばりついて食い入るように窓の外を見つめているのは呼び出した張本人である上鳴と峰田…この2人が一緒にいるとろくなことがないのだが、そこにその2人の主な被害者である八百万も混ざっているのはどういうわけだ。
そして窓に張り付いてはいないものの席に座って一心不乱にシェイクをすすっているのは轟で、「シェイクにポテトをつけて食べるとおいしいらしいけど…」「えー!うそやん!ちょっとデクくんやってみてよ!」といちゃこいてるのが緑谷と麗日。

マジでなにこれ。帰ろうかな。

「おー、耳郎」
「切島、と芦戸じゃん」
「やっほ」
異様な光景に声をかけにくく立ちすくんでいると、後ろから肩を叩かれる。同じく呼び出されてきたのだろう2人が軽く手を挙げていた。

「なにしてんだ?あいつら…」
「よくわかんない、ていうか知り合いだと思われたくないから帰ろうかなって思ってたんだけd「おー!お前らも来たか!!ちょっと来いよ!」
見つかった。仕方がないので合流して呼び出した理由だけを尋ねる。もう奢りとかどうだっていいや、くだらんことだったら速攻帰ろう。切島と芦戸と遊びに行こう。

「見ろよあれ!障子!」
「障子?」
窓の外を指差し、向かいのビルのオープンカフェを示す上鳴の指の先を視線で追うと、前の席のクラスメイトの姿。遠くからでも目立つ風貌と巨体は一目で障子だとわかった。

「……障子がどうかしたの?」
「その向かい!由有と一緒だろ!」
「えっ、あー…本当だ、ちょっとお洒落してる」
ちょうど陽差しの影になって見えにくかったが確かに由有が向かいに座っている。

よく見ると、いつも下ろされている長い髪を緩く巻いて顔の横で束ねているようだ。さらりとしたカットソーとフレアスカートがよく似合っている。
今の由有が一人で歩いていてウチが男だったら確実に声をかけるだろう。まあ端的に言えば、
「かわいいなあ」
「かわいいですわね…私とのデートではあんなにお洒落してくださらなかったのに…」
ギリィと爪を噛む八百万。怒りのベクトルがおかしい。

「あれってデートかな!?だよね!?」
「あいつら付き合ってたっけか?」
「ちょっと前からな!」
「まさか上鳴、二人のデートを覗くためにウチら集めたわけ?」

輝くような笑顔でビッと親指を立てる。うっざ。
「呆れた…ウチ帰る」
「まー待てよ!せっかく来たんだし、要件も伝えてないのにノコノコ集まったお前らどうせ暇だろ!?」
「確かに暇だけどアンタにそう言われると最高にムカつく」
「あっ、あいつら移動するぞ!!急げ!」

バタバタ慌ただしく食い散らかしたゴミを片付けたりしているうちに、成り行きで全員で2人を尾行することになってしまった。どうしてこうなった。
総勢9人の大所帯でこそこそと街中を移動する様は傍から見れば怪しいだろう。というか雑踏に紛れてどうせ見つからないだろうし、こんなにこそこそしなくてもいい気がするのはウチだけか。


「本屋か…」
「あいつら本好きだもんなー」
「本なら私だって!」
「八百万うるさい」
10人弱でぞろぞろと本屋に入るというだけで結構視線を集めているのに、その上騒がしくしたら余計目立つ。最悪追い出されるのは避けたい。
八百万、普段は分別があるのに由有のことになるとほんとうるさい。

ふらふらエロ本コーナーに吸い寄せられる峰田を切島がとっ捕まえたりしながら、本を選ぶふりをして2人を覗き見る。
周りの迷惑にならないようにだろうけど、障子の複製腕でひそひそと耳打ちし合う様はいちゃついているようにしか見えない。楽しそうにしやがって、爆発しろ。

お目当ての本を手に入れたのかほくほく顔で本屋を出て行く2人を追う。大所帯で入ってきてうろうろするだけで何も買わず出て行く迷惑な客に、店員の非難の視線が刺さった。
と思ったら峰田はちゃっかりエロ本を購入していた。こいつ…


「服屋に入るぞ!」
「そういえば由有、服欲しいって言ってたっけ」
今度はファッションビルに入っていく2人。もしかしなくてもショッピングデートなんだろうか。
「ここからじゃ聞こえねえな…耳郎、イヤホン!」
「バカ上鳴勝手に触んないでよ!」
ウチのイヤホンジャックの片方を勝手に携帯につないでスピーカー機能を立ち上げる上鳴。心音最大にしてそれ壊してやろうか…!
とはいえちょっと気になるので、悪いと思いながらももう片方のコードをそろそろと近づけた。スピーカーから声が聞こえてくる。

『…なあ、服を選ぶのに俺でよかったのか』
『ん?ああごめんね、私の服選んでもつまんないよね』
『いやそんなことはないが…八百万とか、もっと適任が…』
『んー、普段着る服なら百ちゃんセンスいいし、それでもいいんだけどさ』
答える由有はワンピースを2つ手にとって悩んでいる様子だ。

『でも今日は私、目蔵くんに選んで欲しいんだ』
『俺は、そういうのは得意じゃないぞ』
『センスとかじゃなくて、好みを聞きたいの。……次、一緒に出かけるときの服。目蔵くんは、どっちが好き?』
『……!』
首を傾げてはにかみながら尋ねる由有のあまりのいじらしさに、覗いているだけのウチらでさえ全員が赤面させられた。
あれを真正面から食らった障子は相当のダメージを受けただろう、大きな両腕を総動員して顔を覆って悶えている。

「い…言われてみてぇー!」
「なんだあのテク!なんだあのテク!」
「由有ちゃん、可愛すぎ重罪やね」
「シッ、聞こえねえだろ」
「轟くん、結構ノリノリだね!?」

『…こっ、ちの、方が……俺は、好き、だ』
『そっか、じゃあこっちにするね』
ぱぁっと花が綻ぶような笑顔を見せた由有の可愛さといったら。ウチ、男に生まれて由有と付き合いたかった。

『あとね、靴も欲しいの。選んでくれる?』
『ああ…』
『パンプス欲しいんだよね、黒じゃない色の…あ、これ可愛い』
『……それより、こっちの方がいいな』
『そう?目蔵くんそういう系好きなの?』
『俺が好きというか…』

靴を試着するためにかがんだ由有を手で制し、「スカート、気をつけろ」と裾を押さえてフッティング用の椅子に座らせる障子の彼氏力も大概高いと思う。
「うわぁ、障子イケメンすぎ」
「ああいうのを男前って言うんやね」
「いいなー、私もあんな彼氏欲しい」
「…いや、あいつ今……」
「ああ、スカート押さえるふりしてさりげなく由有の尻触ってたぞ」
「障子ェ…」

『いやいや!自分でやるよ!』
『いいから』
恥ずかしがる由有の前に跪いて甲斐甲斐しく靴を履かせる姿は、ちょっと愉しそうに見える。なんか見ちゃいけないものを見てるような…
いや、人様のデートを覗いてる時点でダメなんだけど。

『…ほら、由有にはこの色がよく似合う』
『………!!!!』
遠くからでも由有の顔が赤く染まったのがはっきりわかった。本人は気付いていないと思うが、照れた時に両手で頬を覆う癖をする由有はめちゃくちゃ可愛い。
『わ、かった、じゃあ、これ買う……』

「し、心臓が痛い…!?」
「デクくん、それが胸キュンってやつだよ」
「なんだかんだであの2人お似合いだよなあ」
「始終自然にいちゃこきやがって…」
「なあ、休日にこんなことしてる自分に虚しくならねえか」
「轟さん、それは全員が敢えて避けていた話題ですわよ」
「さっきまで一番熱心に覗いてた轟に言われたくないけどね」

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