ナイト・トゥ・リメンバー



きらきらと明媚なシャンデリアと、その光を反射するぴかぴかに磨き上げられたフロアが眩しくて、一瞬目をしばたかせた。大きなレッドカーペットの引かれた階段を下りると、もうほとんど皆集まっていてわいわいと騒がしい。

今日は雄英高校1年生のプロムである。プロムというのは一般的に卒業生がやるものという認識だが、雄英では修了時に学年毎で行われるものらしい。
理由はまあ、プロデビュー後にこういったパーティーにお呼ばれすることもしばしばあるのでその勉強のため、というのが半分。もう半分は、1年間の受難を乗り越えた生徒への慰労と、次の学年に上がる英気を養う意味での…ちょっとした学校側からのご褒美的なことのようだ。

プロム…舞踏会、とはいうものの、生徒の男女比の問題により参加にカップルの縛りはなく個人の自由参加型になる。ので、踊るも踊らないも自由。まあ、正式にお誘いして事前にカップルを組んで参加してくるという人もいるっちゃいるのだが。
ちょっと着飾ればランチラッシュの豪華なディナーにタダでありつけるのでそっち目当ての生徒の方が多い。実は私もそのクチである。あと、皆のドレス姿を見たいという下心も大きい。片手に持った携帯は既にカメラモードを開いている。

「あ、由有ちゃーん!」
ブンブンと二の腕丈のグローブを振って近寄って来る宙に浮いたドレス、ではなく透ちゃん。パニエのたっぷり入ったふわふわのスカートが動くたびに揺れて可愛らしい。
「透ちゃん、かっわいいー!」
「えーほんと?由有ちゃんも可愛いよー!髪型違うと別人みたいで一瞬わかんなかった!」
筋肉とおっぱいでわかったよ!と胸の前で半円を描くジェスチャーをするのを手で制す。やめなさい。
「ドレスも似合ってる!けど結構攻めてるね!」
「ああコレ…百ちゃんが選んでくれたんだ」
先日、ドレスの善し悪しなど全くわからない私が泣きついた先は頼れる親友であった。彼女に言われるままに購入したドレスは確かに可愛いのだが、いざ着用してみると段差カットの裾は角度によって脚が結構見えてしまうし、ハーフカップのトップはかなり胸元を強調しやがってくれる。
一体彼女は何をもってしてこれを私に勧めたのか、小一時間ほど問い詰めたい。

「まあ私の話は置いといて…透ちゃんのソレ、似合ってるよ!写真撮っていい?」
頭の位置に花の髪飾りがつけられているおかげで、いつもより彼女の動きが分かりやすい。髪飾りと揃いのコサージュが手首に付けられているのは、彼女がカップルを組んでいる証だ。
携帯を構えると瞬時にポーズをとってくれる透ちゃんはどこまでもエンターテイナーだった。きっと見えない表情もキメ顔なんだろう。

「ところで猿夫くんは?一緒じゃないの?」
確か猿夫くんは、事前に透ちゃんにカップルを申し込んでいたはずなのだ。
「ん、今飲み物取りに行ってくれてる」
指差した先には、確かにグラスを持ってこっちに向かう彼の姿。ライトベージュのタキシードの胸元には、透ちゃんの髪飾りのものと同じ花が一輪挿してある。
明るいイエローのドレスを着た透ちゃんと並ぶとどことなくお揃いに見えて、正しくカップルの様相だった。
「あれ、えーと…」
「やっほー猿夫くん」
「ああっ由有さんか!わかんなかった!」
「ねー!全然わかんないよね!」
「ええ…そんなに違う?」
確かにお化粧も気合い入れたし、美容院で髪もセットしてもらった。「よくわかんないんでおまかせで!」ってお願いした結果結構な盛り髪にされてしまったので、胸元の空いたドレスと相まってまるでキャバ嬢のようだと、今ちょっと後悔しているわけだが。
「変わるもんだなあ」とまじまじ見てくる猿夫くんの視線に耐え切れず話題を変える。

「そ、れより!2人踊ったの?次の曲始まるよ、行ってきたら?」
「あーほんとだ!尾白くん、シャルウィーダンスシャルウィーダンス!」
「ちょっと使い方違うしそれは俺の台詞なんだけどな!?」
透ちゃんに引っ張られてフロアの中央に連れ去られる猿夫くんを見送る。何気なくフロアに視線を巡らすと、よく知った顔がちらほらと見える。

「ああ、皆かわいいなあ…」
ドレスアップされて普段とは違う格好の皆は一層輝いて見える。あ、百ちゃん発見。
ヒーローコスチュームのせいか百ちゃんといえば赤、のイメージだったが意外にも深いグリーンのロングドレスという出で立ちだった。いつもポニーテールの髪は下ろされていて片側に流し上品に緩く巻かれ、とんでもない色気と大人っぽさを醸し出している。
ドレスはマーメイド風のシルエットだが、深いスリットの入ったスカートは私よりも大胆に脚が見えてたいへんに危うい。轟くんと並んでいると美男美女でかなりきらきらしいけど、お揃いの花飾りはつけていないので2人共フリーなのだろう。しかしあの端麗な2人の間に入っていける猛者もいない気がする。
意外、といえば三奈ちゃんである。彼女はサイケデリックで派手なドレスを選択するかと思いきや純白のひらりとした、どちらかといえばシンプルなドレス。しかしそれが彼女の変わった肌の色をより映えさせていて、心底なるほどと思った。三奈ちゃんだからこそ、白はよく似合う。とりあえず連写モードであらゆる角度から収めておいた。
しかし一番意外なのは、彼女が踊っているパートナーが範太くんだということだ。あまり目立っていなかったけど、そういえば仲が良かったかもしれない。彼は彼で黒いタキシードを着ているので、三奈ちゃんの白いドレスがより目立つ。なかなかに素敵な組み合わせだった。

ああ、じろちゃんはなんだかんだで電気くんと踊っているのか、とか、お茶子ちゃんのドレスめちゃくちゃ可愛いしデクくんちょっと慣れない感じでエスコートしてるの初々しくて可愛いとか、峰田くんがなんかスーツをかなりお洒落な着こなししてるのが意外だけどなぜか似合ってるし、さらに梅雨ちゃんと踊っているのにびっくり、とか夢中になってシャッターを切りながら考えていると、突如視界に影がかかった。
「?」
「踊らないのか」
「うわっ」
ぬ、と顔の真横に口が来て話しかけられたのに驚いて顔を上げると、なぜか私より驚いた様子で目を見開いた巨躯の親友がいた。そこそこ上等なシルバーグレーのモーニングを着ているが、袖がないためにどうしてもフォーマルさに欠ける。あと、猫背。
よく見たら彼の後ろには圧倒的男女比の犠牲者達…つまりカップルを組んでいないフリーのA組男子が揃ってわいわいと料理をつついている。
だいたい皆スーツかタキシードなんだけど、こんな時でもノーネクタイで腰履きの爆豪は最早尊敬する。絶対近寄りたくない。
壁に身体を預けてグラスを傾ける常闇くんは燕尾服が似合いすぎてて怖いほどにかっこいいけど、あのグラスの中身がりんごジュースだとわかるとちょっとかわいい。みんなも後で写真撮らせてほしいな。うわ、青山くんのタキシードきらっきらで目がチカチカする。

「……あ、ああ、えっと、由有、だよな?」
「…そうだよ」
そんなに驚く程か。複製した目を近づけて観察するように眺め、「人違いかと思って焦った」と言う彼に唇を尖らせる。
「まあいいよ、自分でもわかってる、どこからどう見てもキャバ嬢だもんね」
「キャバ…い、いやそう見えなくもないが…」
やっぱり見えるんかい。自分で言うのはいいけど他人に言われると割とショックだ。ちょっとムカついたので彼の持っていたグラスを勝手に奪ってドリンクを飲み干してやった。
「…っぷはぁ」
「行儀悪いぞ」
「お黙り!」
「せっかく綺麗なんだから、それらしく振舞っていろ」
「ファッ!?」
なんて!?

「綺麗だ」
「なっなななんっなん」
視線を逸らすことなくまっすぐ言われたのに動揺して意味のない言葉を紡ぐ。照れ隠しにグラスのふちに少しついてしまったグロスを指で拭うと、キュ、と高い音がした。

「…えー、と…あり、がと?」
彼が心にもないお世辞を言うような人間でないことは、この一年の付き合いでわかっている。程度がどうであれ、僅かにでもそう思ってくれているということだ。
「で、お前は踊らないのか」
フロアを指さす彼は、私以外のクラスの女子が全員踊っていることを言っているのだろう。
「私はいーよ、ご飯目当てだし。皆のかわいいドレスアップ姿が見れて満足だし、ていうか誘ってくれる人もいないですしー」
所詮ゴリラと踊ってくれる物好きなどいないのだ。1人でいても誰も声かけてくれないし。
キュッキュッとグラスのふちを指で鳴らして(楽しい)いると、ふいにグラスを取り上げられる。そのまま近くのテーブルに置かれたグラスを追いかけた視界に、手のひらが差し出された。

「じゃあ、俺と踊ってくれ」
「え…」


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