じわじわ友だちの輪



体操服から制服に着替えて教室に戻ると、今日はもう授業や行事はないらしく先生はいなかった。

既に何人か固まって談笑しているが、さっきの体力テストで個性を使い指を負傷していた緑谷くんの姿だけが見当たらない。
「百ちゃん、さっき怪我してた緑谷くん、やっぱりアレって骨折れてたのかな?」
「そのようですわね、どういった個性なのか気になりますわ」

ボール投げの際にプロヒーローのイレイザーヘッドだと判明した(けど私はイレイザーヘッドの名前も知らなかったのでいまいちピンと来ない)相澤先生は「個性を制御できない」と言っていた。制御できれば怪我をすることはないのだろうか。

「使うたび骨が折れるとか…、私だったら怖くて使えないや」
「由有さんなら折れても個性でもとに戻すことができるのでは?」
「ううん、分裂させたりはできるけど、外傷で折れたりしたら自分では戻せないんだ」

私は個性により外骨格に近いものなども形成できる。筋肉の外側に骨を露出させ、盾のようにすることで肉体の防御力が格段に上がる。
私の骨は常人と違う構造になっていて、理論上は衝撃にものすごく強い。が、むき出しの骨を直接殴られるのをちょっと想像してみてほしい。
痛いというか、神経にめちゃくちゃ響くのだ。ゴイ〜ンって感じで。脊髄が震えて脳みそまで揺れ、しばらく体全体がビリビリと痺れて動けなくなった。
骨自体が丈夫なおかげで骨そのものにダメージはないのは確かだが、あの感覚はしっかりトラウマとして私の中に根付いている。

それからは一度も防御の手段として外骨格を作ったことはないし、骨への衝撃がものすごく怖い。
ちょっと叩かれただけであの衝撃、「骨が折れる」なんてことになったらどれだけ痛いのだろう。想像するだけで血の気が引く。
「骨折」は確実に私の怖いものベスト5に入っている。
というような話をすると百ちゃんは納得したように頷いていた。



私の住むマンションと駅は反対方向にあるため、駅へ向かう百ちゃんとは校門前で別れる。
ちょっと寂しいな、と思いながら歩きだそうとした時、後方にもっさりとしたワカメ頭が見えたので思わず方向転換して駆け寄る。

「浅いぞ!!蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回…」
「コペ?」
よく見たら飯田くんとボブの子と3人で話しているようだ。なんだか難しい話っぽいけどこれ入っていって大丈夫なやつだろうか。

「緑谷くん!」
「はっはい!?あ、君は…えっとなんかすごい身体が変わる…」
「あ、うん…正直さっきのはあんまり思い出して欲しくないけど……乱架由有です、ねえ指怪我していたよね?大丈夫かなって」
「あっうん、リカバリーガールが治してくれて」
「そっか、よかった、骨は大事にしないとだよ」
痛々しく包帯を巻かれた指を労るように握ると「うわわわわわ…」と既に赤かった顔から湯気を出し始めた。初心か。かわいい。
そうだ可愛いといえば、こっちを見ているボブの子に話しかける。
「乱架由有です、ねえ、名前なにかな?」
「麗日お茶子です!よろしくね乱架さん」
にへっ、とまさしくうららかな笑顔を返してくれた美少女。
うららか!!おちゃこちゃん!!!!!

「なんて可愛い名前なんだ…名は体を表すってか…」
両手で顔面を押さえて天を仰いだ私を不思議そうに見つめるお茶子ちゃん。かわいい。うららか。
目も当てられないほどにうららか。

「よろしくね、お茶子ちゃん」
ぎゅっと手を握ると、お茶子ちゃんは驚いてあわわと焦り出した。なんだろうマジ可愛い、と思うか思わないかのうちに私の体は宙に浮き上がっていた。
「あれっ」
「わー!!ごめんね乱架さん!!私の個性なんだ!」

握っているお茶子ちゃんの指先にはぷにぷにとした肉球がついていた。これに触ると個性が発動してしまうらしい。
「いや急に握っちゃった私が悪いよ。ごめんねえ……しかしこれすっごいきもちいいな…」
浮いているのも気にせず柔らかな肉球をぷにぷにして癒されていると、お茶子ちゃんはわたわたと余計に慌てる。
「パンツ!パンツ見えちゃうよ!!あかんて!」
「えっ、わわっ!」
入学初日に校門前でパンツ丸見えはやばい。
握っていた手を離して慌ててスカートを押さえると、お茶子ちゃんは私を地面に降ろして個性を解除してくれた。

「ひゃー…ごめんね、ありがとう」
「いえいえ、私の指、いっぺんに全部触ると無重力になっちゃうから…触るときはひとつでも空けといてね」
「おっけー…ところでパンツ見えた?」
「ううん、私からは大丈夫だった」

「飯田くん緑谷くん、パンツ見えt「いっいや!!!???見てないよ!!」
「右に同じく!」
飯田くんと緑谷くんは律儀にも後ろを向いてくれていたが、揃って耳が真っ赤になっていた。
二人共嘘をつけない性格っぽいし、言うとおり見てはいないのだろう。けど、悪いことをしてしまった。

「ごめんねえ、もう大丈夫だよ」
「うん……」
「きっ君は女性なのだからもう少し気を払うべきだ!」
「うん、本当に申し訳ない。気をつけます」

どうやら3人も駅方面らしい。手を振って今度こそ自宅の方向に足を進めた。


いいなあ、私も誰か同じ方向の人はいないかな…と周りを見回しても、雄英は全国から生徒が集まる超人気高校だ。もともと地元出身だという人もそんなにいない。
私のように単身引越しでこの街に来ている人も多いが、駅方面は何かと便利だし、そっちに間借りする人の方が圧倒的多数だ。
私が駅とは反対方向に部屋を借りたのも、田舎者ゆえに、都会らしく人が過密している場所が苦手だからだった。

それでも同じ方向に歩く人がいないわけでもない。ちらほらと見える私と同じ制服の人を目で追うが、入学式にも出ていない私は今のところ同じクラスの人くらいしか知っている人もいないのだった。先輩か新入生かも、見ただけではわからない。

「あっ」
そんな中、前方を歩く見覚えのある背中が目に止まった。
頭一つ分抜けている巨躯に変わった髪型、顔の半分を覆うマスク、袖のない制服から伸びた腕と2本の触手。
間違いようがない。同じクラスにいたノースリーブの、ゴリラ呼ばわりされてた人だ。

「ねえねえ!」
「?」
後ろから駆け寄ってブレザーの裾を掴む。振り返って私を見下ろす両目は予想していたより鋭く、ちょっと尻込みしてしまう。
「1Aにいたよね?私、1Aなんだけど」
「「…ああ、変形する奴か」」
「?」
マスクに隠された口元がある私の頭上と、もう一方向。私の横から声が聞こえた。見ると、肩から生えた触手の先端に口がついている。
「おっふ…」

「「障子目蔵だ、お前は…」」
「あ、えっと……乱架由有です!障子くん、は家こっちなの?みんな駅の方行っちゃって寂しかったんだ、一緒に歩いてもいいかな」
二方向から話されるのでどっちに向いて喋ればいいのか一瞬迷って、顔を見たほうがいいと判断した。頭上の顔を見上げて話をする。
「「構わん」」

「へえ、障子くん地元かあ…実家から通えるのいいね、私は最近引っ越してきたばっかでこの辺まだよくわかんないんだ」
「家族は?」
「仕事があるからね、地元に残ってる。一人暮らしなんだ」
「「……知らない土地で初めての一人暮らしなら心細いこともあるだろう。このあたりのことはだいたいわかる、俺で力になれることがあれば頼ってくれ」」
「……ありがとう、障子くん…優しいんだね、じゃあちょっと私を全力で殴ってくれないかな」
「は?」
触手の先を耳と口、目にして私の方に向け話してくれる。
複製腕といって、先っぽに体の一部を複製することができる個性らしい。一瞬いかがわしいことを邪推してしまった自分をぶん殴りたくなるほど彼は紳士的で優しかった。見た目に反して怖くないし、本当に申し訳ないのでぜひ殴って欲しい。

お母さん、都会の人はみんな優しいよ。



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障子くんがチャリ通だったら可愛いと思ってチャリにしてたんだけど、風に煽られてうまく乗れないのかもしれないと考え直してやめた
チャリが苦手な障子くんってかわいい
そのうち別のキャラをチャリで出したいです



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