アンダーとグラウンド



「ああ男の子だったね、あと1人かあ、さすがに次こそ女の子がいいなあ」
「男性はお嫌ですか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ…女子、少なくない?」

私は百ちゃんと、次に教室に入ってくるクラスメイトが男子か女子かというのを予想して遊んでいた。
それでわかったことだけど、圧倒的に女子が少ない。現在20人いる教室で女子は6人だ。なんとなく女子を期待してしまう私は、さっきから次こそ女子だと言い続けてほとんど外している。
さっき入ってきたのは大きなリュックを背負った気弱そうなぼさぼさ頭の男の子だった。これで百ちゃんの3連勝だ。
……なんだかあの人、ネクタイが巨大化しておかしなことになっている気がする。

まあ黒板に名簿が貼られているのだから、あれを見てくれば一発でわかることだが。それでは楽しみがないじゃないか。

「あ!そのモサモサ頭は!地味めの!!」
まもなく入口から顔をのぞかせた、最後のクラスメイトはボブカット?の女の子だった。
しかもかわいい!
いきなり歯に衣着せぬ物言いをしてのけたのが聞こえたけど、そんなことは問題じゃない。だってかわいいもの。

「よっしゃーって感じだね」
「ふふ、おめでとうございます」
「女の子みんなかわいいなあ、一人顔のわかんない子いるけど…眼福眼福」
「……由有さんは女性がお好きなんですの…?」
「エッ、いや違うよ?いやいや確かに女の子好きだけど、違うよ?そういうアレじゃないからね!」

疑惑の目を向けてくる百ちゃんに焦って弁解をする。別に同性愛者とかではない。
可愛い女の子は見ていて癒されるじゃないか。ほらあの子をごらんよ、うららかな笑顔がとても可愛いでしょう、さっきの男の子も真っ赤になっているよとボブの子に視線を移すと、その足元、廊下で蠢く影を見つけた。
芋虫、のような…なんだあれ。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
喋った!!

もともと騒がしくはなかったが、妙な人物の登場に全員の視線が集中し、教室内はシーンと静まり返る。
「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

廊下に横たわる芋虫のような影は、寝たまま10秒メシを一瞬で済ますとヌーっと立ち上がり、死んだような目で担任の相澤消太だと自己紹介をした。
雄英の教師陣は全員プロのヒーローだったと思うけど、記憶を辿ってもあんなヒーローは見たことがない。顔を隠したヒーローも多いし、スーツ姿ならわかるのかもしれないけど。
相澤先生は着ていた寝袋から体操服を取り出して巨大ネクタイの子に突き付け、コレを着てグラウンドに出ろと指示した。
あの体操着、絶対生暖かいだろ…

入学式もしないうちからいきなり何をするのだろうか。よくわからないけどとりあえず先生に従う。
「あの先生なんか怖い」というのは全員の共通認識として染み付いたらしく、みんな急いで着替えて駆け足でグラウンドへ向かった。

「由有さんの体操服、袖がありませんわね」
「あーこれね、私の個性の関係で……」
私の個性の特性上、露出は多い方が勝手がいい。ジャージの裾も膝下まで捲っている。
グラウンドに出ると、もうひとり体操服がノースリーブの生徒がいてなんとなく親近感が湧いた。
まあ見た感じ、腕が多いうえにそれぞれが膜でつながっているために袖のある服は着れなさそうだ。教室で見かけたが、彼は制服も袖がなかったような気がする。

グラウンドで既に待っていた先生は今から個性把握テストをすると言い出した。ボブの子が「入学式は!?ガイダンスは!?」と詰め寄るも、ヒーローになる私たちにそんな時間はないと超理論を展開する。
曰く、雄英は”自由”な校風が売り文句で、それは”先生側”も然り、だそうだ。
何を言いたいのか、よくわからない。新入生が入学式に出るも出ないも先生の一存ということだろうか。

個性把握テストというか、つまりは個性を使用した体力テストらしい。
いきなりで驚いたけど、こういうのは私の得意分野と言える。身体能力系はかなり自信がある。入学していきなり力を発揮できる状況が巡ってきたかと思うと、わくわくに口元が緩むのがわかった。

相澤先生がサンプルケースとして金髪の生徒を指名する。爆豪、という名前らしい。さっき教室で机に足をかけて飯田くんに注意されていた態度の悪いノーネクタイ男子だったと思うけど、確か入試1位の人もそんな名前じゃなかったか。
え、まさかあの人?
本当にヒーロー志望なのか怪しいほどのガラの悪さだけど、まあヒーロー科にいるってことはヒーローを志す正義の心が「 死 ね え ! ! ! 」……死ね?

「百ちゃん今あの人の掛け声おかしくなかった」
「低俗な言葉が聞こえましたわね」

本当にヒーロー志望かよ。市民の平和は俺が守る!みたいなタイプにはとても見えない。なんかもうむしろ敵に近いような気がする。
これでいいのか、雄英ヒーロー科。

でもさすがというかなんというか、爆豪くんが投げたボールは705mというとんでもない飛距離を記録していた。入試1位だけあって実力は十分あるらしい。すごい。
それでモチベーションがあがったのか、クラスが一気に沸く。「なんだこれ!!すげー面白そう!」「個性思いっきり使えるんだ!!」といった声が聞こえてくる。
確かに、これまで公共の場所で個性の使用を制限されてきた身としては、思いっきり個性を使えるのは気持ちいいだろうと思う。

でも相澤先生はそんな私たちの態度が気に入らなかったらしい。
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
「最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

はあああ!?と声が上がる。私も開いた口がふさがらない。
「生徒の如何は先生の“自由”」だという先生……校風を曲解した職権濫用じゃないかと言いたいが、下手に逆らったりしたら除籍にされかねない。黙って従うしかないと判断したが、ボブの子はそれでも理不尽すぎると食い下がる。

「理不尽を覆していくのがヒーロー」「これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」「“Plus Ultra”さ」と先生は話した。

「なるほど……相応の苦難を乗り越えなくちゃ、偉大なヒーローになる資格なんかないぞってことかあ、さすが雄英…」
入試の時にプレゼント・マイクも言っていた。「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行くもの」と。たしかナポレオン=ボナパルトの受け売りだったけれど。

「頑張って生き残ろうね、百ちゃん!」
「あんなのウソに決まってるじゃない…」
「え、嘘なの?」

めっちゃ感心して真面目に話したのに、恥ずかしい。
こっからが本番だ、という先生を見つめてみても、私に真意は読めない。嘘と言われればそんな気もするし、でも言われなければ本気のようにも思える。
嘘でも本気でも、私は私にできることをするだけだ。と再度気を引き締めた。



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