雄英高校ヒーロー科とは。



プロヒーローに必須の資格取得を目的とする養成校。

偉大なヒーローとなるためには雄英卒業が絶対条件、と過言0で言われるほどの超エリート。

全国のヒーロー志望である少年少女たちが目指す最高峰であり、倍率は毎年300を超える。


その、最も人気で最も難しい雄英高校ヒーロー科に、

「合格!!!合格だって!!お母さーん!お父さああああん!!!!」

この春から通うことになりました。

絶叫とともに部屋を飛び出した私の学習机の上には封を解かれた封筒と、ハイテンションに合格通知を読み上げるボイスヒーロー…プレゼント・マイクのホログラムが再生されたままの投影機があった。




春、高校生活初日。

ぱりっとノリのきいた新しい制服を着て、全身鏡の前で一回転。
「……うん、変じゃない、変じゃないはず、靴下も、うん、多分これがベスト」
靴下は昨夜悩みに悩んだ結果、膝上まであるオーバーニーソックスを選択した。
色々と履き比べてみると、鍛え上げた脚の筋肉を一番目立たなくするのはこの長さだったのだ。
タイツは筋をくっきり見せてしまうし、ハイソックスだと筋張った大腿四頭筋が丸出しで恥ずかしい。短いソックスは、余計に。

「……よしっ」
散々鏡とにらめっこしてから、ヒーロー科の証である2本のラインが入ったブレザーの襟を摘んでぴしりと整え、おろしたてのローファーを履いて玄関を出る。

「いってきまーす」
と家の中に声をかけても、にこやかに「いってらっしゃい!」と返してくれるお母さんはいない。
実家から毎日通うには地元は遠すぎるし、ともに地元のヒーロー事務所で相棒として働いている両親は地元を離れられないので、私は先日から雄英の徒歩圏内に部屋を借りて一人暮らしを始めたのだ。

正直、生まれてからずっと地元で過ごしてきた生粋の田舎っぺである私が一人でこんな都会に住むなんて不安しかない。
しかし、今日から憧れの雄英高生であるという嬉しさに自然と頬が緩み、学校へ向かう足取りは一歩進むごとに軽くなっていく。



雄英高校。学生証などの通行IDを持っていないと通ることが許されない巨大な門をくぐると、高層ビルのような巨大な校舎がそびえ立つ。

入試の時にも見たけど、あまりの大きさに本当に学校なのか疑わしく思えてくる。しかし曲がりなりにも全国トップの養成校、入試の実技試験で使った模擬市街のような施設がいくつもあるのだろう。
廊下は縦にも横にも広い。ガラス張りの壁や継ぎ目の見当たらない床は、ロボットが巡回しているのか職員か誰かが掃除しているのか、ぴっかぴかに磨き上げられていてチリひとつ見当たらない。
端から端まで全力疾走したら気持ちよさそうだなあとぼんやり考えながら1Aの教室を探す。

大きい人用なのかやたらでかい扉をひとつひとつ眺めて歩き、1−Aと書かれた看板を見つける。
誰かもう来ているかと耳を澄ましてみても、中から声は聞こえない。よく考えたらこれだけ立派な学校なのだから防音なのかもしれないな、と思い、意を決して扉を開ける。
すると教室にいた全員がぱっとこっちを向いて、口の端が引きつった。

当たり前だけど、知らない人ばっかりで緊張に掌がじわりと汗ばむ。
壁際の席に座っている、変わった髪型の小さい男の子がガッツポーズをしたのが見えたけど、なんなんだろう。
まだクラスの半分くらいしか登校していないようだけど、ほとんど席についているのでもう席順が決まっているらしい。防音とか関係なしに、おしゃべりしている人はそもそもいなかった。
静かな教室に足音が響かないように極力静かに歩みを進め、黒板に張り出されている席順を確認する。

「……えっ」
1−Aは全員で21人、席順は廊下側から五十音順の出席番号で5、5、5、6と机が並んでいる。
「乱架」は出席番号21番で、一番端の一番後ろの、ひとつだけはみだした席だった。

私は一応、教室に入ってまず隣の席の子に「席、隣同士だね!私乱架由有。これからよろしくね!」とか話しかけてナチュラルに打ち解けるシミュレーションをしていたのに。
隣がいない。なんだよ渡辺とかいろよ!
いきなり計画が瓦解するなんて、なんてこった、ぼっち確定じゃないか……

「おはよう!」
「はいっ!?」
先の不安に沈み込む私の背後から不意打ちで声をかけられて、びくりと縮み上がる。
何事かと振り向くと、一人の男子生徒が真っ直ぐ私を見下ろしていた。あれ、この人なんかどっかで見たことあるような……?と一瞬考えたが、そういえば今挨拶をされたんだ、と焦ってどもり気味に挨拶を返す。

「お、おはよう…!」
「俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ」
「……あ、もしかして受験番号7111の人?」
「む?いかにも、入試の受験番号は7111だった」
やっぱり。実技試験の説明の時に、プレゼント・マイクに質問してた人だ。
物怖じせずにハキハキと喋っていたので印象に残っていたらしい。その時マイクに受験番号7111と呼ばれていたのを思い出した。
なんだか怖そうな人だと思ってたけど、そうか、受かったんだ。

「私は乱架由有です。よろしく、飯田くん?」
「ああ、よろしく」
指先をビシッと揃えて差し出してきたその手を握ると、飯田くんはさっきの私のように肩を震わせてびっくりしていた。
「あれ、ごめん、握手じゃなかった?」
「ああいや!スマン!握手のつもりで出したわけじゃないが、嬉しく思うぞ!」
そういって両手でがっしり握ってきたのでつられて私も両手を握る。なんだこれ。教壇の真ん前で両手を握り合う私たちはさぞシュールに見えることだろう。

そんなことをしているうちにまた一人教室に入ってきて、飯田くんは「俺は私立聡明中学の……」と挨拶しに行ってしまったので、私は自分の席に向かう。
入ってきた人全員に挨拶しているのだろうか。真面目か。
でもその真面目のおかげでナチュラルに一発目の自己紹介ができて、だいぶ緊張がほぐれた。飯田くんには感謝しよう。


席に着くと、前の席に座っていたボリューミーなポニーテールの女の子が挨拶をしてきた。うわ、美人。
「ごきげんよう」
「ごっ……!?ご、ごきげんよう」
ごきげんよう!?

「乱架さんですの?はじめまして、私八百万百と申しますわ。どうぞよろしく」
「はッ…はじめまして、うん、乱架由有です、よろしく」
ボリューミーなポニーテール改め、八百万百さんに自己紹介を返す。
お嬢様口調はニュートラルなのか。いきなりごきげんようとか言われて、サイコロトークでも始まるのかと思った……さっきからクラスメイトが個性豊かすぎる。

「やおよろずさん……ごめん、八百万さんって言いにくい…百ちゃんって呼んでもいいかな」
「まあ…そのように呼ばれるのは新鮮ですわ」
「ダメ、かな?」
「いいえ、嬉しいですわ。構いませんわよ」
「やった、じゃあ私も由有って呼んでよ」
「えっと……由有さん」
「うん、百ちゃん」
キャッキャウフフ。少し照れたように微笑む百ちゃんの笑顔は美しい。
入ってすぐこんな美人と仲良くできるなんて。雄英サイコー。

また小人の男の子がこっちを見て親指を立てているのが見えた。なんだか不思議な子だな。
まあ小人だし、妖精か何かなんだろう。



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