猛るモチガール



私たちが戻った頃、切島くんと鉄哲くんの試合が既に始まっていた。
個性がダダ被りの上、お互いにまっすぐな性分の2人は戦略もオペレーションも何もない…ひたすらに真っ向の殴り合い。
似たもの個性同士の意地とでもいうのか、どちらがより強いか決めたいという気概も見える。カンカンとおよそ人体から発せられるものではない音がフィールドから響く。

アツい激闘の果て、同時に倒れた2人の試合は引き分け判定となり、結果は回復後に持ち越しとなった。

「引き分けアリなんだねぇ」
「そりゃまあ、同時にダウン判定出たら仕方ねぇよ」


清々しいほどに輝いた試合だったが、一回戦最終の次の組はそこからのギャップもすさまじく、不穏な気配を漂わせ始まった。

『中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねえ ヒーロー科 爆豪勝己!! 対…
俺こっち応援したい!!ヒーロー科 麗日お茶子!』

…うぅん、心配だ。お茶子ちゃんは決して弱いわけではないが、一対一の戦闘で爆豪くんと相対する、その対抗手段があまりに少なすぎる。
彼女の個性はほとんど自分以外に作用するもの。障害物の存在しないフィールド上では、相手に直接触れることでしか勝ちの目が見えない。
方や、爆豪くんは戦闘センスの塊である。あと多分、「遠慮」とかそういう下らないことはしそうにない。火器を装備した軍人に、丸腰で挑むようなものだ。

お茶子ちゃん、トーナメント表が決まった時からずっと怖がっていた。毅然とした表情でステージに上がるが、きっとすごく怖いはずだ…いや待て、なぜクラスメイトを相手にしているのに、敵と対峙しているみたいな評価を。
でも爆豪くん、怖いしな。

『START!』
開始の合図とともに速攻、お茶子ちゃんが突っ込んでいく。少し驚いたが、恐らく最善だ。爆豪くんに先手を取られたら、近付くこともダメージを与えることも困難になる。最悪一発で場外に吹き飛ばされて終わる可能性もある。
何より、まず1対1では相手に触れなければ…

BOOM!!
「ぶわっ!」
迎撃。モロに爆炎に飲み込まれたお茶子ちゃんを見て、試合前に「見たくない」と身震いしていた耳郎ちゃんが咄嗟に顔を覆ったのが、視界の端に映った。

煙の中からスウと這い出てきた影に、すかさず追い打ちをかける爆豪くん……の、後ろからお茶子ちゃんが現れた。
「んっ!?」
「あっちは囮だろう」
混乱する私と峰田くんに、障子くんが爆豪くんの押さえつけている影を指した。煙幕がうっすらと晴れてようやくその正体に気付く。
「…ジャージ」
『上着を浮かせて這わせたのかぁ、よー咄嗟に出来たな!』
NINJA!と興奮するマイクの声を聞きつつ、内心では更に驚いていた。
あのふわふわで朗らかなお茶子ちゃんが、爆豪くんを相手に戦略を以て立ち回っている。

身体能力は決して低いわけではないが、訓練でもその個性ゆえにサポートに回ったり、救援で活躍することが多かった。イメージとしては、本人も憧れているという災害救助の13号先生だ。
戦闘で果敢に相手に向かっていく彼女の姿は、そのイメージとのギャップがかなり大きい。

しかし爆豪くんの反射は遥かに上回っている。触れようと手を伸ばすお茶子ちゃんを爆風で跳ね除け…また突撃するお茶子ちゃんを、もう一度。


「おらあああああ!!!」
「まだまだぁ!!」
吹き飛ばされては突っ込んでいく、ヤケにも見えるその繰り返し。この距離からだとちょうど直線的に見えるせいか…無限に湧いてくる敵キャラを中距離武器で延々倒し続ける、ゲームの単調な作業のようにも見えた。

『休むことなく突撃を続けるが…これは……』
しかしお茶子ちゃんは一人で、無限に増えるポリゴンデータでもない。疲労で動きは徐々に鈍くなり、その身体にはダメージが溜まる。
段々とボロボロになっていくお茶子ちゃんを何度も何度も吹き飛ばす爆豪くんは、端から見ると…

「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
…遊んでいる。ポーズだけ見ればそう見える。のはわかるが、放たれた野次に多少イラッとした。
それはまあ、私たちが爆豪くんの性格や人間性を他の人より少しわかってるからかもしれないが…
本当に遊んでいると思うのだろうか。

舐めプ、彼が一番嫌うものだ。彼はふざけたりしない。いつだって真剣だ。
それにあのお茶子ちゃんを前にして、誰が「遊んでやろう」なんて思うものか。
そして観客席の私たちは気付いてしまった……お茶子ちゃんの策。


『シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』
「相澤先生…!?」
「先生…」
今まで自分からあまり喋らなかった先生が自らマイクを取った。

『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう
本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねえんだろうが』
先生、怒っている…気がする。いつも声色が変わらないからわかりにくいけど、なんとなく怖い。
ギャラリーの野次にイラついたのは私だけじゃなかったみたいだ。


と、丁度。体勢を立て直したお茶子ちゃんの両手が合わせられたのが見えた。あれは、個性解除の合図だ。
「勝あアアァつ!!」
怒号とともに、お茶子ちゃんが今まで囮となって爆豪くんに作らせていた、その武器が大量に降り注ぐ。

『流星群ー!!!』

低姿勢の突撃によって地面を攻撃させることで、瓦礫を生み出す。少しずつ浮かせて空中に蓄えておきながら、突撃とその迎撃による煙幕で爆豪くんには見えないよう仕向ける。そして何度も攻撃を繰り返すことで隙を与えず、警戒させて時を待っていた。
動きが鈍くなっていたのは多分、疲労だけではなく彼女の許容量の問題もあったかもしれない。

彼女にこれほどの画策ができただろうか。策、といえば緑谷くんだが…ちらりと一瞥した彼は大きな目をまん丸く見開いて驚いている……ので、やはりお茶子ちゃんが自分で、これを編み出したのだ。

「……!」
背筋が震えた。ゾクゾクする。あのお茶子ちゃんだ。可愛くて、ふわふわで、にっこり笑った顔が麗らかな、あのお茶子ちゃんが。
その気迫、あの猛攻、この秘策!

降り注ぐ瓦礫もお構いなしに、爆豪くんに捨て身で突っ込んでいくお茶子ちゃん。
体育祭前、「私頑張る!!」と意気込んでいた彼女の顔がふと過ぎる。きっと何か、懸ける思いがあったのだ。

しかし。


B O O M ! ! !

超高威力の爆発。瓦礫を全て吹き飛ばすほどの爆風と爆熱はこちらにまで届いてきた。

お茶子ちゃんは再度吹き飛ばされて、フィールド上を為す術なく転がる。
「ああっ…」
『会心の爆撃!!麗日の秘策を堂々―――正面突破!!』

これほどの策を、たった一撃で跳ね飛ばす。開始から…ダメージを受けながら、自らを囮にしながら、積み上げて完成させた策だ。
爆豪くんの実力は知っていても、通用しなかったショックはきっと大きいはず。
「お茶子ちゃん……」

それでも、それでもまだ。起き上がり突っ込んでいく……その動きが、止まった。
地面に倒れこんでいくのが、まるでスローモーションのように見える。

「………許容重量」緑谷くんの呟きが耳に入った。

個性の限界だ。身体機能の100%を上回れば、身体はいうことを聞かなくなる。

フィールドに割って入った主審ミッドナイトの声が上がった。
「麗日さん…行動不能 二回戦進出、爆豪くん――!」



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