払われた灰は燻って



「……なんだこれは?」
なんだかやけに静かだな…と不思議に思いながらギャラリーに戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、空を覆う……氷の塊?

「あっ、遅ぇよ乱架!もう終わっちまったよ!」
「ええ?」
私、10分も離れていなかった気がするけど…

「2戦目って誰だっけ?」
「轟と、瀬呂だ」
「瀬呂が速攻仕掛けたんだけどな、轟にカウンター食らって瞬殺よ」
カウンター…にしては規模がでかくないだろうか。

会場を突き抜け天に伸びる氷の塊、その中心には両腕を突き出した格好の瀬呂くんが凍み付いていた。
「うっっわ、エグ」
午前の騎馬戦で氷結を食らい、あの辛さが記憶に新しい身としては現在の瀬呂くんが不憫でならない。思い返したのは私だけではないようで、ちらほらと身震いする生徒が目の端に映る。

轟くんが左の炎で自らの氷を溶かしている間、会場中から瀬呂くんに向けてどーんまい、どーんまい!とコールが続いた。


ギャラリーに戻ってきた瀬呂くんは「どんまい!」「どんまい瀬呂!」と男子たちにバシバシ肩を叩かれて励まされていたが、最早「どんまい」に辟易しているらしく「うるせぇよ!」と歯を剥き出して怒っていた。どんまい。

ロボがぐるぐると回り濡れたフィールドを乾燥させている間、中央のモニターを眺める。
「次は、上鳴くんと…塩崎さん」
「塩崎さん」はさっき覚えた、鉄哲くんチームだった髪が植物のツルのような子だ。
あの髪は骨のかごを掻い潜り峰田くんのハチマキを掠め取れる程度の操作性…つまり自由自在。でも強度は不明だし、上鳴くんの放電を食らったら焼き切れてしまうような気もする。

「でもなあ上鳴くんアホだしなあ」
「急になんだよ」
「あいや、どっちが勝つかなって考えてて」
「あー、上鳴はアホだしなあ」
「でも強いよ」
「でもアホだぞ」
「……始まるぞ」

『ステージを渇かして次の対決!!
B組からの刺客!キレイなアレにはトゲがある!?塩崎 茨! 対 スパーキングキリングボーイ!上鳴電気!!』

「申し立て失礼いたします 刺客とはどういうことでしょう 私はただ勝利を目指しここまで来ただけであり…『ごっごめん!!』
マイクの言葉に引っかかったらしい塩崎さんがサッと身を翻し放送席に意見を唱える。…真面目、というか、几帳面?だろうか。
謝罪のあともつらつらと喋るのをやめようとしない塩崎さんの話を遮るように、食い気味にマイクが開始の号令をかける。

同時に、上鳴くんが仕掛けた。「体育祭終わったら飯とかどうよ?」

「…ナンパだ」
「ナンパだな」

「俺でよけりゃ慰めるよ…多分この勝負、一瞬で終わっから」
上鳴くんの身体を電流が迸る。不意打ちの放電で決めるつもりだろう、多分上鳴くんの現時点での有効打はそれしかないのだ。
上鳴くんを中心に電光が閃いて、一瞬何も見えなくなった……次の瞬間には、塩崎さんの前には大きなツルの壁が聳えていた。

表面はやはり少し焦げ落ちたようだが、何重にも編み上げたツルはその程度では崩れない。そうでなくても、あとから継ぎ足すことも可能だろう。
「ウェッ!?」
上鳴くん(顔が若干崩れている)は全くダメージを与えられていないことに焦ったようで、壁を破壊しようと更に放電をする。が、そんなことをしているうちに足元からツルに絡めとられて…

「ああー…」
「ウェ…」
『瞬殺!!』

行動不能、敗退だ。
「アホだなぁ」
「ねぇ」
「B組の…強いな」
「うーん、ああなっても放電で焼き切っちゃえばまだ行けたと思うんだけど…」
「ぶっ放してたからな」
「早い段階で許容量使い切っちゃうと何もできなくなるし…特に上鳴くんは」
「操作できねえのも痛ぇよな」

そんなこんなと考察と策など話しているうちに、次の対戦だ。
飯田くんと…あれはサポート科の…
『ザ・中堅って感じ!?ヒーロー科 飯田天哉! 対 サポートアイテムでフル装備!!サポート科 発目 明!!』
「飯田くん何かつけてない?」
「サポートアイテムか?」
入場した飯田くんは発目さんのように、全身にものものしいサポートアイテムを装備していた。

「ヒーロー科の人間は原則そういうの禁止よ?」
ミッドナイトが注意するが、飯田くんは食い下がり熱い説得を始めた。

「申し訳ありません!だがしかし!彼女のスポーツマンシップに心打たれたのです!!
彼女はサポート科でありながら、『ここまで来た以上、対等だと思うし対等に戦いたい』と…
俺にサポートアイテムを渡して来たのです! この気概を俺は!! 無下に扱ってはならぬと思ったのです!」

「青くっさ!!!」

「青臭い」はミッドナイトが気に入った証。飯田くんのアイテム装備は許され、試合はそのまま開始される運びとなった。
「あのアイテム全部発目さんが作ったんだ、サポート科ってすごいねえ」
「自作のアイテムってなんか仕掛けてあったりすんじゃねえの?罠かもしんねえぞ」
「え…」
発目さんは少し俯いていてよくわからないが、確かにその口許は含みのある笑顔を形作っていた。

『START!』


……結論から言えば、飯田くんと発目さんの対戦は発目さんの独壇場であった。
10分間、セメントス先生謹製のコンクリート台は対戦フィールドではなく、発目さんのアイテムお披露目ステージへと変貌したのだ。

アイテムフル装備の対戦者が模擬戦闘を行い、その際活躍するアイテム効果を製作者がアナウンス。
全ての解説を終えた発目さんは自ら場外へ立った。

要するに、飯田くんは利用されたわけだ。
飯田くんのただでさえよく通る声が、腹の底から晴天の空にむなしく響いた。
「騙したなあああ!!!」

「まあ、飯田くんは運が悪かったよね」
「いや逆によかったんじゃねえか、勝ってるし」
「サポート科は俺達と目的が違うわけだしな」
「ああ、まあ…」
利用させてもらいました、と発目さんは笑うものの、結果だけ見ればWIN-WINと言えなくもない。
発目さんはアイテムの売り込みができて、飯田くんは二回戦に進出できた。

全国中継、ギャラリーへの売り込みで将来を拓ける大きな舞台へ立つという意味では、発目さんのようなアピールもあって然るべきだ。
実力を見せられなかった分、釈然としないのもわかるけど…言ってしまえば発目さんの方が上手だったというだけなのだ。

「あーあ、くっやしいなあ」
「なんだ?」
「やー…みんな色んなこと考えて色んな戦い方しててさ。私、予選落ちだもんなあ…あそこに立つだけの実力が私に足りなかったってことが……」
「お前それな、ここにいる全員に刺さるからあんま言うな」
「…そだね」

悔しいのは私だけじゃない。みんな同じくらい悔しいはずで、みんな出し切れなかった部分を持て余している。
でも、でも、思っちゃうもんは思っちゃうんだなあ。

「あーーー!!くやしいなあ!!!」
「やめろっつの!次言ったらオッパイ揉むぞ!」



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