体育祭、午後の部



「…ねぇ、テレビカメラめっちゃこっち向いてる」
「やっぱりチアガールだし写したがるよねぇ、何か応援とかした方がいいかな」
「うう、お嫁に…お嫁に…」
「お嫁は諦めな乱架、大丈夫、トップヒーローになれば自分で食べていけるよ」
「全然フォローになってないよ三奈ちゃん!?」
項垂れる私の背をぽんぽんと叩いてにっかり笑いながら惨い言葉をかけてくる三奈ちゃん。やめて!乙女の夢を奪わないで!

「由有ちゃん逆に考えましょう、私たちはもうここでしか見せ場がないのよ」
「そうそう!目立つってことはどこかの事務所の目に留まる確率も上がるんだよ!」
「わ、私は実力で評価されたい!」
「でももう今から実力を見せられる機会はほぼないわ」
いつも通り感情の読めない無表情の梅雨ちゃんだけど、言葉の端々には諦めたような、あるいは腹を括ったような気概を感じる。落ち着いていて切り替えが早い。
「…そうだね、こうなっちゃったのは仕方ないもんね、恥ずかしがってるより楽しんだほうが絶対いいよね」

「そうそうその意気だよ!というわけで、フレー!フレー!い・ち・えー!!」
「フレー!フレー!い・ち・えー!!」
アクロバティックにポンポンを振り回す透ちゃんに便乗して腹を括った私は、大玉転がしのスタートラインにつく障子くんと口田くんにエールを送る。
2人共一瞬肩を跳ね上げ、こちらを見て口田くんは恥ずかしそうにアワアワとして(かわいい)、障子くんは無表情に見えるけどマスクの下で顔を歪めたのがわかった。

「わっ、笑われた!」
「ええ?笑ってる?」
「あんな遠くの見えるの?」
「というか、障子ちゃんマスクしてるからわからないわ」
「笑ってるじゃん!ほら!」
「イヤわっかんないわ…」
確かにちょっとわかりにくいけど、なんか雰囲気とかも笑ってる感じなのに…わかんないかなぁ?
うーんと首を傾げているうちに、スタートの合図がかかって選手達が一斉に走り出した。

個性使用アリなだけ、普通の種目であっても中学までの体育祭とはまるで表情が違う。大玉転がしひとつとっても、平面的に伸びた体で玉ごと転がっていく選手、玉乗りの要領で全力疾走していく選手など様々だ。
しかし皆本戦の準備に気を取られてろくに練習を重ねていないのだろう。個性の相性や息が合わずあちらこちらで予期せぬハプニングが起こっている。
見てる分にはたいそう面白いのだが。

「障子くん!口田くん!ファイトー!!」
障子くんの複製腕と口田くんの大きな手のおかげか(それから身長が同じくらいだから歩幅もあまりズレないのだろう)、玉転がしにおける1Aの安定感は抜群だが、いかんせん個性を生かしている組に比べるとスピードは落ちる。
応援は白熱したものの、障子くんと口田くん組の結果は4組中3着だった。

「障子くん口田くんどーんまい!次も応援するよー!」
「乱架…その格好は恥ずかしいんじゃなかったのか?」
「恥ずかしがるから恥ずかしいんだよ!熱中すれば自分の格好なんて気にならなくなる、はず!だからあんまり話題蒸し返さないで!あと笑わないでよ!」
「バレてたか」
不覚、といったふうに言うが、本当に悪びれている雰囲気はない。絶対悪いと思ってない。ちくしょう。


種目は変わって借り物競争。本戦出場の選手が多数棄権したので、手が余った予選落ちの生徒が代打で出場するところが多いらしい。体育祭前に種目決めたの、あんまり意味なかったなぁ。
「時計持ってる人!貸してください!」「あっギャラリーの人!その帽子借りてもいいっすか!?」などと色々な声が飛ぶ中、砂藤くんは真っ青な顔で「ネコ…ネコ…」と走り回っている。猫って、なんとも無茶苦茶なお題を出すものだ。

「乱架!乱架!」
そんな中、お題の書かれた札を持った切島くんがこちらへ走ってくる。私の持っているものが何か必要なようだ。
「なに?シュシュ?ポンポン?」
「ちげぇ!コレ出せるか?」
目の前に出された札には、「骨」とだけ。骨。また難易度の高い…出せるけどね。

「はい、これでいい?」
切島くんの差し出された手に自分の手をかざして、その掌からぽこんと骨を出してみせる。
ころりと転がった小さな指の骨を握って「サンキューな!」と駆け出す切島くんに、「あとでちゃんと返してね!」と声を張り上げた。

「乱架…乱架…オイラにも出してくれェ……」
「峰田くんも骨?」
「いや、背脂が欲しいんだ」
「出ねぇよ」


そんなこんなでどんどこと競技は進み(骨はちゃんと返してもらった。峰田くんは背脂が見つからず失格となっていた)、息抜きでは済まないレベルの白熱を呈し、最後まで渋っていた百ちゃんとじろちゃんまでもが熱気に当てられヤケクソでポンポンを振る頃になって、レクリエーション種目を終えたのだった。
休憩時間、他の組はそのまま控え室やギャラリーへ向かったが、チアの格好のままの私たちはもう一度更衣室へ戻って着替えてからギャラリーに行くことになった(更衣室ではちゃっかりみんなの写真を撮らせてもらった。役得である)。


「峰田くん、隣いいかい」
「おう乱架!是非来い!」
「ありがと」
嬉しそうにバッシバッシと隣のシートを叩く峰田くんの横に腰掛け、さっき来る途中に経営科の人から買ったジュースを差し出す。

「騎馬戦でごめんね?急に誘ったのに私がミスって負けちゃって、峰田くんにも作戦あったんでしょ?」
「あ?気にすんなよ!オイラ誘ってくれたの乱架だけなんだぜ!それにチームなんだからお前のミスはオイラにも責任があるんだ!そんなこと言ってたらキリないぜ!でもジュースはせっかくだからもらうとする!これでチャラな!」
気にするなと言いつつ、ここでお詫びを断ったら私が気にするということも見越して、笑って素直に受け取ってくれる峰田くんは男らしい。
彼はこういう頭が回って気のつくところが素敵だと思う。
スケベさえ治せば、きっとモテるだろうに…

「あと、障子くんもごめん、峰田くんとっちゃって」
はい、と峰田くんのひとつ向こうに座る障子くんにもカップを渡す。ちなみに障子くんのがアイスコーヒーで峰田くんはグレープジュースだ。なんか好きそうだと思ったんだ。
「いやそんな…気を遣うな、乱架が悪いわけじゃない」
「まーまー受け取ってくれよ、私これ飲めないんだって」
「…すまん、ありがとう」
「いーえ」


「……と、フィールドできたみたいだぜ」
「あ、ほんとだ」
グラウンドにはセメントス先生が築き上げた正方形のバトルフィールドができていた。
なんとなく、戦闘に使うならコンクリじゃなくて地面の方がまだ痛くないと思うのは私だけなのだろうか…

炎の立ち上るフィールドを中央にして響き渡る、プレゼント・マイクのアナウンス。
一回戦は緑谷くん対心操くんだったか…どちらも応援したいけれど、どちらが勝っても負けてもなんだかなぁ、という気持ちが拭えない。

『色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!
心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』

沸き上がるギャラリーの熱気を感じながら、自分は出ないものとわかっていても無意識に手のひらに滲んでくる汗をぎゅっと握りこんだ。
本戦が、始まる。



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