オイ飯行こうぜ



『早速上位4チーム見てみよか!!』
「っっは――――…」
聞かなくたってわかる、さっき持ちPは全部奪われたんだ。私たちは、予選敗退だ。じわり、滲んだ視界を振り払うようにぶんぶんと頭を振る。

『1位轟チーム!!2位爆豪チーム!!』
ああ、結局緑谷くんは1000万取り返せなかったのか、緑谷くんも悔しいだろうな。しかし轟くん、緑谷くんへの宣戦布告はほんとに回収したんだな…

『3位鉄て…アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?』
「へ?」
「は?」
は?
鉄哲くんチームは最後1分足らずのところで私たちのPを持っていったはずだ。残り数十秒でそれを全部奪われた?しかも心操くん…彼は一体何をしたというんだ。

『4位緑谷チーム!!以上4組が最終種目へ…進出だああ――――――――――!!』
あ、緑谷くんも結局予選突破したのか。おめでとうだな…うわ、すごい泣いてる水圧で地面にめり込んでるやばい。

「乱架」
「ヴぁっ…轟くん?」
「悪ぃ、寒かっただろ」
「現在進行形で寒いよ…立てない」
フィールドの氷を溶かして動きを止めていた騎馬を解放したらしい。未だかじかんで立ち上がれない私を引っ張り上げて、左手の炎をかざしてくれる。
「すまねえ…思いっきり凍らせちまったな」
「いや…まあ、いいよいいよ、仕方ない。それより1位おめでとう、頑張ってね」
「…ああ」

『1時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!!』
やっとこ動くようになった身体でまず向かったのは、鉄哲くんチームが固まっているところだ。
「ねえちょっと!!」
「…ああ、A組か…」
「A組って呼ぶのやめてよ!乱架由有だよ!さっきはありがと!助かった!」
「お、わざわざ礼に来たのか…?」
「それもあるけど違うわ!何負けてんだよ私たちのP奪っていったくせに!!あっさり取られてるとか私どんな顔していかわかんないじゃん!」
怒りのままにマシンガントークをぶつけると、肩車したままの峰田くんも「そうだそうだ!」と同調する。

「お、俺らだって何が起きたのかわかんねぇんだよ…いつの間にか0Pに…」
「あなた方のP、穢らわしい取り方をしてしまった罰でしょうか…」
おーっと一気にお通夜ムードだ。まあ彼らも敗退してしまって悔しいのだから、これ以上傷口をほじくり返すのはやめておこう…負のオーラから逃げるようにその場を離れた。

ぞろぞろと食堂へ向かう列に合流すると、後方から名前を呼ばれた。
「由有!」
「…え」
ギャラリー側からの出入口から、お母さんが顔を覗かせている。

「あ、あー…峰田くんごめん、私ちょっと用事できた」
「おう」
肩車から地面に下ろされた彼は、ウェイウェイしている上鳴くん達のところへ跳ねるように走っていった。
反対に、私は方向転換をしてお母さんのところへ。

「お母さん!」
「うん、お疲れ様〜!ってあら!なじょしたの、びしょ濡れで!!」
「あ、氷が溶けて…」
「あらあら〜」とどこから出したのかわからないタオルで濡れたジャージを拭くお母さんの陰から、「由有!父ちゃんも居っぺよ!」とひょっこり顔を出したお父さんに苦笑する。
普段は画面越しでしかあまり見ないヒーロースーツでバシっと決まってるのに、やってることがいつも家にいる時と変わらなくて全然かっこよくない。
「はいはい、お父さんも、久しぶり…ていうか開会式の!あんなでぎゃ声で呼ぶんでにゃぁよ!」
「あんれま、雄英さ入ったらちょっとはおしょすがりも治っぺがと思ってだのになぁ」
「あんっなの誰でもおしょしぃっちゃ!!」

「ほんで、意地っ張りも変わってねぇなあ」
茶化すような口調から、急に労りを含んだ優しい声色に変わる。濡れてはいない顔をがしがし拭きながら「悔しいんだべ?」と静かに言われ、さっき締め直したはずの涙の蛇口が勝手に緩むのがわかった。
「頑張ってたのになぁ、悔しいなぁ」
「む…」
「途中までいがったのにな、ポンとみんな取られでしまって」
「ゃ、やがますにゃ…、取られたくて取られたわけでにゃぁし…」
タオルに顔を埋められたまま反論しようとしても、涙混じりの上ずった声が恥ずかしくて尻すぼみの小声になってしまう。

「友達の前だがらって片意地張って我慢してたんだべ」
「………」
じわり、じわり。だんだんと視界がぼやけていく。
「悔しかったなぁ」
「……ぅ、うぇ、おか、おかぁさ…私っ…」
「うんうん、よーしよしよし」
タオルを顔にかぶせたまま、ぎゅうと抱きしめ頭を優しく叩く掌。そのリズムに急かされるように、ぽろぽろと涙が零れてはタオルに吸い込まれていった。
「ふ、…っぐ、おかあさぁあ…」
「泣け泣け!だーれも見でねぇがら!」
「うぇええええっ…」


ひとしきり泣いたあと、またタオルでがしがし顔を拭かれて「よし、めんこい!」と雑に両頬をベシッと叩かれた。痛い。
「けんどちょっとまなぐっこ赤ぐなってっぺがら、顔洗ってから戻った方が良いべよ」
「ん…」
「午後もなんかあんだべ?応援してっがらね」
「うん、ありがと」
タオルを返そうとしたら「いらにゃ」と突っ返されてしまった。今日はウチに泊まるから、終わってから返せと背を押されてよたよたと食堂の方へ足を進める。ってちょっと待って、泊まるとかなにそれ聞いてないんだけど…!

反論しようと振り向いたら、さっきまでそこにいたはずの両親は忽然と消えていた。個性で逃走を謀ったらしい。ちくしょう、確信犯か。


未だぐすぐすと鳴る鼻を擦りながら、一度顔を見ようとお手洗いへ向かうと突然声をかけられた。
「泣いているのかい?」
「ん、ぇ、…青山くん?」
「可愛い顔に、涙は似合わないよ。マドモアゼル」
ス、とふちにフリルのついた上等なハンカチを差し出してくれたが、お腹を押さえて険しい顔をしながらそれをやるのも似合わないと思うよ。

「えっと、ありがと…だ、大丈夫?」
「心配ご無用さ、ちょっと…ハリキり過ぎちゃったかな」
個性のネビルレーザーを使いすぎて、お腹を壊してしまったのだろう。内股の脚をプルプルさせて、綺麗な顔にだらだらと冷や汗を流す彼の姿は同情を禁じ得ない。
「ていうか、これ使うんじゃないの?」
受け取ったハンカチ(なんとシルク100%のようだ)を返そうかとすると、ポケットからもう一枚綺麗なハンカチを出して見せた。
「男のたしなみだよ、問題ないさ」
「…そっか」
どっちかというと、女子力高いな。もう一度礼を言うと、いよいよ限界らしく「では僕はちょっと失礼するよ、オ・ルヴォワール☆」と星を飛ばしてトイレに消えていった。


顔を洗ったものの、まだ少々残る目元の赤みは完全には消えなかった。まあ目立たないだろうと諦めて食堂へ向かう。もうほとんどの人が席を確保している、もしくは食べ終わっているようで、注文の列はわりと空いていた。
氷漬けで身体が冷えたし、温かいものがいいなぁ…とうろうろする私の鼻が、おいしそうなスープの匂いを嗅ぎ取った。そうだ、ラーメン食べよう。

ラーメンの受け取り口には、先程上鳴くんたちと一緒に行ったはずの瀬呂くんの姿があった。
「瀬呂くん、先に行ってなかったっけ」
「おお、乱架…」
ずいぶん遅いね、と言いながら食券を出してほかほかのラーメンを受け取る。うう、おいしそう…空きっ腹を刺激する出汁と醤油と脂の匂い…
「いや、さっきちょっとした事故があってよ…」
「ご飯ぶちまけちゃった?」
「そうなんだよ、ったく峰田と上鳴の奴らが…」
私が来る前に何かあったらしい。聞きながらなんとなく空いているテーブルに向かい合って座り、いただきますと手を合わせる。

まず湯気を立てるスープをすすると、冷えた体にじんわりと熱が染み渡っていくのがわかる。
「はふぅ…おいしい…」
「っふ…乱架、本当にうまそうに食うんだな」
瀬呂くんが顔を伏せて肩を震わせだした。表情は見えないが、大きな口に並びのいい歯を剥き出す独特な笑顔が容易に想像できる。
ていうか、似たようなことを結構最近切島くんにも言われた気がする。私は一体どんな顔をしてご飯を食べているのだろうか。ちょっと不安になってきた。
「おなかすいてたもん!あと寒かったし!」
「そういや凍らされてたっけな、大丈夫か?」
寒かった、という言葉に心配そうな色の含んだ声になったが、その口元は依然弧を描いている。そんなに面白い顔をしていたのか…

がっつり氷漬けだったよなー、と思い返しているらしい彼の丼は未だ手をつけられていない。
「まぁまぁ大丈夫、てかラーメン伸びちゃうよ」
「お、おおそうだった」
少し焦って麺を啜った直後、「アッチぃ!」と吃驚して肘からテープを飛び出させた彼に、今度は私が笑い出すことになった。



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