仁義なき騎馬戦



ミッドナイトの声がかかり、それぞれのチームが騎馬を組み始める。私達は2人騎馬なのでハチマキを巻いた峰田くんを私が肩車するだけでいい。簡易、かつ不安定だ。
「私めちゃくちゃ動き回るから、とにかくしっかり捕まっててね」
「オイラが女の身体から手を離すと思うのか?」
いつになくキリッとした表情で言い切った峰田くんの言葉には妙な説得力があったが、頼もしいと思えばいいのか、蔑めばいいのかわからなかった。


会場アナウンスから『さぁ起きろイレイザー!』とマイクの声が聞こえた。相澤先生また寝てたのか。
『フィールドに13組の騎馬が降り立った!!さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』
相変わらずプレゼント・マイクは盛り上げ方が上手い。15分間のチーム決めで障害物競走の興奮も治まって弛んできていた会場が、また一気に沸き上がった。

『いくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』
ジャージの前を開けて、タンクトップを胸の下までずり上げて固定する。靴と靴下は騎馬を組む前に脱いでおいた。
『3!!!2!!1…!』
START!の合図で一気に駆け出す周りの騎馬を尻目に、私だけが空中に跳躍した。一瞬間の後に膝から下を無くして、腰から安定感のある大きな羽を広げる。
滞空したままフィールドを見下ろすと、いきなり緑谷くんに向かっている騎馬が2組見えた。B組「てつてつ」くんと、半裸の透ちゃんの騎馬だ。

「やっぱり緑谷くん狙われてるねぇ」
「と、飛ぶなら飛ぶって言えよぉぉ…」
いきなり飛び上がったから吃驚したようで、峰田くんはガタガタ震えて頭にしがみついていた。
「動き回るって私言ったじゃん」
「普通xy軸だと思うだろ!まさかz軸方向に動くとは思わねぇだろ!?チビるかと思ったぞ!」
「やめてよ!?」
肩車している状態でそんなことになったら迷わず落とすからね。

2組に狙われ、退避しようとした緑谷くんの騎馬が大きく体制を崩した。どうやら緑谷くんに近い方、B組前騎馬の人の個性で地面が液状化したように見える。
「顔避けて!!」

「ん?ぅ、わっ!?」
緑谷くんどうするんだろうな、と高みの見物をしていたところ、急に緑谷くん騎馬がまるごと飛び上がった。浮上してきた緑谷くんと目が合って「えっ、乱架さん!?」と目を丸くされる。
彼らのほぼ真上にいた私はぶつかりそうになり、咄嗟に後退してすれすれで激突は免れた。

そう、すれすれで。
一瞬だけだったけれど、緑谷くんチームの前騎馬をしている常闇くんの顔が、目の前に現れた。
「(ひえええええ!?)」
真っ赤になって顔中から汗を吹き出す私を尻目に、下方から追ってきたじろちゃんのイヤホンを弾く常闇くん(の個性)。
「いいぞ黒影、常に俺たちの死角を見張れ」
「アイヨ!!」
しゃべった…!しかもちょっと陽気だ…黒影とかいうかっこいい名前なのに…

フィールドへと戻っていった緑谷くん達を呆けたまま見送り、なるほど、サポート科の彼女のアイテムか…と考えていると、峰田くんに頭を小突かれた。
「なにやってんだよ乱架ァ!今1000万取れるチャンスだっただろ!?」
「あ、いや…」
私は常闇くんがこれまでにない至近距離にいてそれどころじゃなかった。っていうか、
「緑谷くんチームは狙わないよ」
「はぁ!?」
「だいたい1000万Pなんて持ってたら狙われるだけじゃん、私と峰田くん2人だけで、向かってくる騎馬を全部躱して最後まで逃げ切れると思う?」
「いや…まあ、それもそうだけどよ」
「せっかく身軽なんだから、私たちが狙うべきはリスクのある1000万Pじゃない」


『さ〜〜〜まだ2分も経ってねえが早くも混戦混戦!!』
おっと、フィールドがいい感じにごちゃついてきたみたいだ。峰田くんにざっと作戦を話しつつ、下方に気を配る。
「そんじゃ峰田くん、そろそろ割り込むから準備しておいてね」
「おう、いつでもいいぜ!」

B組の騎馬と攻防を続けている緑谷くんチームの背後に近付くのは、障子くんだ。ぴったり閉じられた触手と膜の隙間から何か伸びて、緑谷くんのハチマキをかすめた。
「あれ、梅雨ちゃんかな?なるほどねぇ…ああしてればハチマキ取られにくいね」
フィジカルの強い障子くんが、中遠距離攻撃をする梅雨ちゃんを守りつつ1000万に攻める。戦略的には私たちの騎馬と似たような感じか。
「それアリィ!!?」と緑谷くんの叫びがこだまするが、主審のミッドナイトがアリといえばアリなのだ。

『蛙吹チーム、圧倒的体格差を利用しまるで戦車だぜ!』
「…戦車がアリなら、爆撃機もアリっしょ!峰田くんどーんとやっちゃって!」
「任せな!!おらああああ爆弾投下だああああああ!!」
緑谷くんを囲う騎馬達の頭上を滑空し旋回しながら、峰田くんの粘着玉を投下していく。
私たちが狙うのは……1000万というでかい的に群がることに必死で自Pへの配慮が疎かになっている、その周りの騎馬の方だ。

突然の爆撃に連携の崩れた騎馬が、頭上から降り注ぐ無数のトラップを避けるのは困難なはずだ。
避けたとしても、地面にくっついた粘着玉は触れたらアウトのまさに地雷。下手に動けば危険が増すだけ。
「うわっ!?」
「んっだこれ、くっつくぞ!」
案の定、フィールドは阿鼻叫喚の様相を呈した。地面にくっついて動きの止まったてつてつくんチームと、粘着玉を引き剥がそうとガードを開いた梅雨ちゃんチームのハチマキを奪い去る。
「てめぇA組!」
「…由有ちゃん」
「ごめんね梅雨ちゃん、でも今は敵同士だから!」

『峰田チーム、緑谷を囮に一気にP回収で通過圏内に躍り出たァ!こいつぁシヴィー!』
緑谷くんが狙われるのは予想できた。ただ競争率の高いところにわざわざ混ざっていくより、緑谷くんを狙う騎馬を一網打尽にして一気にPを横取りしたほうがはるかに勝率が上がる。
そのためには、私の機動力を活かせる上に、複数の騎馬を低リスクでまとめて足止めできる人が必要だった。峰田くんは、間違いなくこの作戦にベストな人材である。
みんなどうして彼を騎馬に組まなかったのか不思議でならない…そのおかげで予定通り彼とチームを組めたからいいんだけど。

緑谷くんチームは逃げたようだが、もともと狙っていなかったし目的は達成したので追う必要はない。掠めたハチマキを峰田くんに渡す。
これで保持Pの合計は1300P、このまま形勢が大きく変わらなければ十分に逃げきれる。一旦上空に飛び、全体の戦局を観察することにする。
…なぜか爆豪くんが単騎で飛び回っているが、ミッドナイト、アレはアウトじゃないの?

『7分経過した現在のランクを見てみよう!』
マイクの声にちらりと電光板を見ると、予想外にも私たちのチームは3位だった。
「あれ?2位だと思ってたのに」
『ってか爆豪あれ…!?』
2位はB組物間チーム(1375P)と表示されていて、爆豪くんのチームは0Pだった。
…あ、「てつてつ」くんは「鉄哲」と書くのか。

恐らく爆豪くんのハチマキを奪った人が物間って人だろう。なんと物間くん(男子だった)はあろうことか爆豪くんを馬鹿にして煽っているようだった。爆豪くんからみるみる黒いオーラが沸き立っている。なにあれこわい。

近寄らないでおこう…と緑谷くん側に旋回する(他のところは0Pの騎馬が行ったり来たりしているので狙われやすい。緑谷くんの近くにいれば狙われるのは彼である。申し訳ないが、今しばし囮になって欲しい)。
緑谷くんは轟くんと対峙していた。もちろん彼らを狙っているらしい他騎馬もじりじりと距離を詰めている。
梅雨ちゃんチームは失うPがないためか障子くんが大きく腕を広げて攻めの構えを示していた。なんだかあの騎馬、上から見ると亀の親子みたいでかわいい。

緑谷くんを狙って一斉に騎馬が仕掛ける。
現在3位…ここでPが動けば圏外に押し出されてしまう可能性もある。隙あらばどさくさに紛れてどこか適当なチームのPを掠めよう……そう企んでそろり近寄ったのが、間違いだった。

B Z Z Z Z ! ! !

「〜〜〜〜〜ッ!?」
辺りが閃光に包まれ、身体中に痺れと痛みが駆け巡る。これは、上鳴くんの放電か。
感電した身体は自由がきかず、回転しながら墜落していく。
ビタンッ!と羽が地面に叩きつけられる。俯せの状態で落ちたため峰田くんを潰すことはなかった。安心したのも束の間、こっちが体勢を立て直すよりも、轟くんチームの追い打ちの方が早かった。
地を這うように迫ってきた氷に、一瞬で身体を縫い留められてしまったのだ。

「っなああああ!?」
い、痛い!冷たい!痛い!熱い!?いや冷たい!!なにこれ痛い!
「くっ…やばいやばい動けない!痛いし!」
剥き出しのお腹と羽を全面凍らされて全く動けない。このままでは、ハチマキを奪われてしまう。
焦って腕を強化し氷を割ろうと叩きまくるが、厚い氷はそう簡単に割れてくれない。
「やめろって乱架!下手したら身体割れちまうぞ!」
「うう、だってぇ…」
「Pは持ってるんだ!周りのチームも凍らされて動けねえ、奪われなければ逃げ切れる!」
「動けるチームがこっちきたらどうすんの!」
「梅雨ちゃんの騎馬見たろ!?お前の個性でオイラの身体を覆っちまえばいいんだよ!」
「…峰田くん天才」
とはいえ完全に密封してしまうと、流石に反則を取られそうだ。肩車(といっても私は地に伏せているので峰田くんが座っているだけなのだが)している峰田くんの周りを取り囲むように、骨を組み上げ峰田くんを覆う。円柱形のそれはまるで鳥かごのようで、これならハチマキに手は届かないだろう。

しかし、騎馬戦が終わるまでの残り数分間…私の身体が保つかどうかが不安で仕方ない。すっげー寒い。歯の根が合わなくなってきた。


緑谷くんチームと轟くんチームの攻防は見ごたえがあるなぁ…と寒さで回らなくなってきた頭でぼけっと眺めていると、「うわ!?」と頭上から聞こえた峰田くんの悲鳴。
首の後ろにいるものだから頭を回しても見えにくいのだが、視界の端に棘のあるツルがハチマキを引っ張っていくのがちらりと映った。
「………は!?」
「乱架!乱架すまねえ!!B組の奴だ!取り返された!!」
「なっ…」

かじかんで不自由になった両腕で無理矢理上体を反らせて顔を上げると、鉄哲くん騎馬の左翼をしている、髪の毛が植物のツルのような女子が「申し訳ありません」と本当に申し訳なさそうな顔をしていたのが見えた。そのツルは自在に動くらしく、さっきまで峰田くんの頭にあったのだろう3本のハチマキを鉄哲くんに渡している。そうか、鳥籠の目に手が入らなくとも、あの細いツルなら容易に入り込める。そんなの計算してないぞ!
「悪いなA組!って、顔色ヤベエぞおめェ…骨抜!」
「おう」
グ、と前騎馬の人が靴の先で氷を踏んだ途端、私の周りの氷が硬度を失い液体化し、身体が解放された。
「…あ、ありがとう…でもハチマキ返っ、せぇ…!」
凍えて思うように動かない身体は起き上がらないが、這いつくばったまま腕をぐりぐり伸ばして鉄哲くんのPを狙う。でも震えてままならない私の悪あがきなど簡単に躱されて、そのまま騎馬は行ってしまった。

くそっ、くそっ…!なんとか他のチームのPを、と震える身体を引きずるが、うまく動かずもどかしい。焦り苛立つ私の耳に、非情にもカウントダウンの声が届いた。

『TIME UP!』

「くっ、そ…!」
こみ上げる悔しさは、地面に叩きつけた両腕でも足りなかった。



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