乗り越えて、飛び越えて、手を組んで



「爆発の威力は大したことない、このくらいなら…」
両腕の羽で十分だ。
剥き出しの腕を大きく広げ、薄い膜を張った羽を作る。頭上に飛び上がって羽ばたくと全体がよく見渡せた。
『後続もスパートかけてきた!!!だが引っ張り合いながらも…先頭2人がリードかあ!!!?』

先頭の轟くんと爆豪くんはお互いに腕を凍らせたり爆発で引き離したり妨害し合っている。いくらリードしているからって…
「バッッッカじゃないの―――――!!!?」

誰よりも高い位置にいる私の声はよく響いた。
「地雷原が関係ないのはアンタだけじゃないんだよ、爆豪くん!轟くんの氷だって、触られなければ怖くないもんね!!」
あっはっはっはっは!と高笑いしながらダンゴ状態の後続組を抜き去り、2人に迫る。
『おおっとォ!?中盤から追い上げてきてた1−A乱架、ここに来て先頭の2人に追いついた―――!!』

「せいぜい2人で2位争いしてな!このまま地雷パスで、私が1位d(BOOOOOM!!!)あああああああああああああああああああ!!!!!?」

2人を抜く寸前……後方で大爆発が起こり、モロに爆風を受け翼が煽られた私は、回転しながら吹っ飛ばされた。
後方に飛ばされる私の目にちらりと映ったのは、爆風に乗って追い上げる緑谷くんの姿。

『A組 緑谷、爆風で猛追――――!!!?』

…… お ま え か !!!!

「緑谷くん覚えてろよちっくしょおおおおおおぉぉぉぉぉ……」


受け身を取れず風に煽られるまま落下していく。これは落ちたとき痛いぞ、ときつく目を瞑った。
しかし、覚悟していた衝撃は思ったほど感じられなかった。そろりと瞼を開けると、困り顔の砂藤くんが目の前に。

「……??」
「大丈夫か!?とりあえず降りろ!結構抜かれてるからよ!」
「…あっ、あっ!砂藤くんキャッチしてくれたのか!ごめん、ありがと!」
状況を掴めず目をぱちくりさせていたが、彼に言われてやっと自分が砂藤くんの腕の中に収まっていることに気が付いた。
しかも話している間にも、周りを見れば何人かに抜かれている。
私を抱いているせいでかなり順位が下がってしまったみたいだ。これは申し訳ないことをした。

「よし、抜かれた分は抜き返そうか」
降ろしてもらった私は、周りを見て焦る様子の砂藤くんの手を掴んで、なんの前触れもなく走り出した。
「うおおおおおお!?」
無理矢理に彼を引っ張って地雷原を全力で駆ける。地雷の位置は、追い抜いていった人達が引っかかった場所が教えてくれていた。
厳密に何人抜いたかはよくわからない。とにかく前方を走る選手をぐんぐん追い越し、手を繋いだまま2人で一気にゲートへ突っ込んだ。

「はぁっ…は…」
「お前…なんか言ってから走り出せよ…」
「ごめんごめん、でも順位上がったでしょ?」
「あ、ああ…サンキューな…」
息を切らせてちょっと呆れた様子の彼にパンッ、と両手を合わせて言い訳をすると、あっさり許してくれた。案外気のいいやつだ。
しかし2日連続で男の子引っ張って走るとか、何か縁があるんだろうか。


『さあ続々とゴールインだ!順位などは後でまとめるからとりあえずお疲れ!!』
私たちの後にお茶子ちゃん、百ちゃんが続いてきた。百ちゃんはよろよろと覚束無い足取りで歩いていて、何事かまさか怪我でもしたのか、と思ったら背中に峰田くんがくっついていた。
「一石二鳥よ、オイラ天才!」
「サイッテーですわ!!」
「峰田くんサイッテーだよ」
彼は百ちゃんにひっついて彼女の運動能力にあやかったらしい。ひょおおお、と嬉しそうな彼を引き剥がして一発入れておいたが、満足げに親指を立てていた。


障害物をクリアした全員がステージに戻ってきたところで、順位がまとまったようでミッドナイトが結果を開示する。
私を蹴落とした緑谷くんは1位になっていた。くそっ、私があそこにいる予定だったのに…!!
私の順位は梅雨ちゃん、障子くんに続いて15位で、砂糖くんが16位だった。とにかく予選は通過できたのでまあよしとしよう。
予選通過は43名。わりとボロボロの人も多いけれど、43位ギリギリ通過の青山くんは険しい顔でお腹を押さえていて、いろんな意味で極限状態だった。彼に比べたら皆かすり傷程度のものだろう。
青山くん大丈夫か。

「残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!」
見せ場というのは恐らく事前に参加を決定した種目のことだろう。上位43名を広場に集めて「そして次からいよいよ本選よ!!」と続けた。

「さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど〜〜〜」
ドラムロールの後にバーンとホログラムに投影された文字は、「騎馬戦」。
「騎馬戦かぁ…」
「個人競技じゃないけどどうやるのかしら」
「あ、そっかチーム戦だね」

「参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが…先ほどの結果にしたがい各自にPが振り当てられること!」
「入試みてえなP稼ぎ方式か、わかりやすいぜ」
「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると!」
確かに目に見える数値を競うのならわかりやすいけれど、競技自体の難易度はかなり高いと思う。ひとりひとり違うP、個性の相性も加味して組み合わせを決めなくてはならない。

「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!」
説明の終わらないうちから話し始めた私達にミッドナイト先生が鞭を鳴らした。
「与えられるPは下から5ずつ!43位が5P、42位が10P…といった具合よ」
えっと、私は15位だから5、10…「1位に与えられるPは1000万!!!!」

自らの持ちPを計算し始めた私の思考を停止させる言葉。
「1000万?」
冷や汗を流し自分に与えられたP数を復唱する緑谷くんに、全員の視線が降り注いだ。
「上位のやつほど狙われちゃう…下克上サバイバルよ!!!」


「つまり…緑谷くんのPさえ獲れれば……」
ぼそりと呟いた私の言葉に緑谷くんが死にそうな顔を振り向けて見せた。…語弊が生じそうだけど、私、1位にならなくてよかった。

「上を行くものには更なる受難を…雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ、これぞPlus Ultra!」

騎馬戦は15分間で、チームメイトの合計Pを奪い合う。普通騎馬戦では首を取られた騎馬はそこで戦線離脱となるが、この騎馬戦は悪質なプレイによる退場にならない限り、点を持っていなくとも時間いっぱい戦えるらしい。
つまり、序盤で他チームを潰して強敵に集中するということができないのだ。15分間常に全ての騎馬が敵として存在する。そしてPを稼げば稼ぐほど狙ってくる敵が増える。
青山くんが険しい顔で「シンド☆」と呟いた。彼がしんどいのは、騎馬戦のルールだけを指したわけではなさそうだが。

「それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
ミッドナイトの掛け声により、ざわざわとみんなが動き始める。

メンバーを決め兼ねていたり、とりあえず強個性の人に当たっている人も多い中、だいたいこう動けたら理想的だというイメージは固まっていたから迷うことはなかった。私の個性をカバーできて、なおかつ有利に動ける人。組んで欲しいのは、あの人だ。さっきまで近くにいたのに…どこにいったんだろう。


「障子ィ…障子ィ…!!女と組みてえけどダメだ――――!!オイラと組んでくれェ!」
見つけた、と思ったら既にチームが決まりそうな雰囲気だ。アレッ、もしかしてもしかすると私出遅れちゃった?ピンチ!
「ね、峰田くんと障子くん組む感じ?」
「乱架?」

今にもチームができそうだった2人に慌てて割って入ると、峰田くんが勢いよく涙を噴き出した。
「うああああ!!なんだよチクショー!やめろよォ!障子とられたらオイラもう誰も組んでくれねーだろ!?」
お前らいつも一緒にいるんだから今回くらい譲れよー!とビャービャー喚いて大泣きする峰田くんは、見た目の効果もあって母親を見失った迷子のようだ。
かわいそうだけど、何か思い違いをしていないか。

「…私、障子くんじゃなくて峰田くんに声かけに来たんだけど」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」

峰田くんだけでなく、障子くんも自身に交渉にきたものと思っていたらしい。なんで?みたいな顔されたけど、むしろ私がなんで?と聞きたい。
「え、いや、普通に考えてそうじゃない?私と障子くんがチーム組んだって、お互い個性殺し合ってうまく動けないじゃん」
「な、なんでオイラと?」
涙こそ止まってはいたが、眉を寄せて不安げに問われる。なんだろう、可愛い。上目遣いにキュンときた。
緑谷くんもだけど、峰田くんもたいがい自己評価が低い。彼の個性は強力だし、もっと自信持っていいと思う。
「私馬やりたいし、普通に峰田くんの個性欲しいんだよね」
「オイラの?」
「作戦はあとで説明するけど……どうする?私と組んでくれる?」

捨てられた子犬のような峰田くんに目線を合わせて屈み込み手を差し出すと、峰田くんはゴシゴシと涙を拭いてぱぁと晴れた表情を見せ、力強く手を握った。
峰田くん、身体は小さいけど意外と手は幅が広くて大きいんだなぁ…
「いいぜ!作戦教えろ!」
「うん、よろしくね」


「………(ポツン)」
「障子ちゃん、私と組まない?」
「…ああ……蛙吹か、」
「梅雨ちゃんと呼んで」



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