障害は乗り越えるもの



スタートしたはいいものの、11組総勢で狭いゲートに押し寄せるものだからギチギチに詰まってつっかえてしまい、ダンゴ状態の生徒の塊は全く進まない。

そんな中で、1人混雑を抜けて前に進んだものがいた。あの紅白ヘッドは、轟くんだ。
轟くんが走り抜けた後ろの地面が一面氷漬けになり、地面に足をついていた生徒が次々と地面に縫い留められていく。
その中でも氷結を避けて進んだ者が、足止めされた生徒を乗り越えて先頭に踊り出る。A組は大半が避けて通れたようだ。

「そう何度も凍らされてたまるかっての!」
「もう足の裏痛いの嫌だもんね!」
ぴょん、と同じタイミングで飛び上がって、氷を避けた私と透ちゃんはいえーい!とハイタッチを交わす。
氷漬けで動けず悲鳴や怒号を上げる生徒を尻目に、先頭の轟くんを追いかけた。

通路を抜けて広場に出ると、入試でポイント稼ぎに使われた仮想敵が大量に現れ、プレゼント・マイクの実況が響く。
『いきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門!ロボ・インフェルノ!!』
障害物っていうか、まんま敵じゃん!
広場一面をひしめく0P敵を避けて通るのは難しそうだ。さてどうするかな…と思っていると先頭の轟くんが凍らせて足止めした。
隙間を軽快に走っていく彼に続いた生徒の上に、薄い氷で仮止めされていただけの巨大な鉄塊が降り注ぐ。
『1−A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!』
鮮やかな手際にプレゼント・マイクの熱狂的な実況が飛ぶ。シヴィーとか言ってる場合じゃない。死人出たんじゃないかこれ。

0Pの下敷きになった人は大丈夫だろうか…と見ていると、瓦礫の中から「死ぬかぁー!!」と全身硬化した切島くんが飛び出した。それに続いて、もうひとり。
いつか来たB組の派手目男子だ。マイクの実況では「てつてつ」と聞こえたけど…てつてつ?
彼は切島くんの「硬化」と似たような個性らしい。

彼らはいくら潰されても平気だろうけど、ここを抜けるにはとにかく倒して道を拓くしかないな…
なんて言ってるうちに爆豪くんが先行し、瀬呂くんと常闇くんがあとに続いてロボの頭上を駆け抜けていった。
「あー、いいなあ…」

障害物を気にせず進める彼らが羨ましい。が、正直この状況に高揚している自分がいる。
戦闘訓練ともUSJを襲撃してきた敵とも違う、「ブッ壊してもいい相手」に囲まれて、しかも入試では避けて通るべきとされた強敵も今回は壊していいときた。
興奮に震える身体を抱きしめる。オラわくわくすっぞ。

「乱架さん?大丈夫?」
私の様子を見て怯えているとでも思ったのだろう、お茶子ちゃんが声をかけてくれた。
「大丈夫、武者震い」
「むしゃぶるい…!」

肩を抱きしめていた腕を広げ、向かってきた1Pの首を狙ってラリアットで破壊する。1Pは機動性が高いだけで軽く脆いので簡単に潰せてしまって歯ごたえがない。
2Pは長い尻尾をとっ捕まえてジャイアントスイング。手を離してぶん投げると、遥か彼方でガラガラと儚く機体の崩れる音がした。
3Pは割とデカくて重いので上から潰すに限る。高く跳び上がり、2倍に増強した両腕を揃えて回転しながら遠心力と重力による勢いで叩きつけると、天板から半分ほどがひしゃげてブスブス黒煙を上げた。

「はぁ、あはは!気持ちいい…」
ああ、楽しい。元来、私は好戦的な性質なのだ。久しく味わっていなかった、全力で攻撃できる快感にゾクゾクと背筋が打ち震える。

「く、クレイジー…」
「緑谷くん何か言った?」
「いいや!?別に!」

唖然として失礼な感想を述べた緑谷くんを睨んだりしながら、その後も襲いかかってくる仮想敵を破壊しながら進んでいく。広場にひしめいていたロボットはだんだんと数を減らしていき、その代わりに、地面には無残にも破壊された鉄屑が散らばっていった。
広場の出口が見えてきた私の前に、ズシンと重い音を立てて0Pが立ちはだかった。
せっかくコレも壊せる機会だから、倒しちゃえ。
「来い、来い…」
私を叩き潰そうと腕を振りかぶる0Pの動きがスローモーションに見える。愚鈍な鉄塊の動きなんて、読むまでもなく避けられる。
攻撃に集中してバランスの崩れた足元に潜り込み、ジョイント部分を狙って破壊すれば、体制を整えようとした0Pの重みがかかって片足があっけなく崩れる。そのまま鈍い音を立てて倒れた0Pと同時に、近くのもう1体が尻餅をついた。
おや、と思って振り返ると、百ちゃんが煙を吐く大砲を傍らに立っているのが見えた。彼女が撃ったらしい。ああ、あの大砲はこの間図書館で見ていたやつだ。
ていうか百ちゃん、スポブラ?見えてるけどいいの?タンクトップなの?

「チョロいですわ!」
「チョロいね!」
『オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?』
私たちの言葉にマイクが煽りを入れる。…あのカメラロボ、音声も拾うのか。

『落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ―――ル!!!』
長い階段を駆け上がった先に、ワイヤーで繋がれた無数の絶壁が現れる。底は暗くなっていてよく見えない。落ちたらヤバそうだ。

一瞬の躊躇もなくひたひたと進んでいく梅雨ちゃんは、もともと壁に貼り付けるので落ちる心配などないのだろう。
谷底を覗き込んでいると、背後から「ウフフフフフフフフFFF」と変わった笑い声。全身メカ装備でスチームパンクっぽいゴーグルをかけた女子が前に出てきた。
「私のサポートアイテムが脚光を浴びる時!見よ全国のサポート会社!」
サポート科の子か、おっぱい大きいな。ピンク色の外ハネした髪が可愛らしいが、スコープのようなレンズで目元が見えない。
フル装備の彼女に三奈ちゃんがアイテムの持ち込みを指摘すると、ヒーロー科に対抗するため、サポート科は自ら開発したアイテムに限り装備可能なのだと説明された。
ということはあれ、全部自分で作ったんだ、すごいなあ…

「むしろ…サポート科にとっては己の発想・開発技術を企業にアピールする場なのですフフフフ!!」
言うが早いか、胸元のベルトから鈎のついたワイヤーを射出し壁に固定。「さあ見てできるだけデカイ企業―!!」と叫びながら飛び出していった。ワイヤーを巻き取り、メカブーツで衝撃を緩和しつつ着地する。
「私のドッ可愛いぃ…ベイビーを!!」

あのメカ(曰く、「ワイヤーアロウ&ホバーソール」)もすごいが、巻き取りの空気抵抗と慣性に反して足の裏を着地させる彼女の運動能力もそこそこ高いのでは…?
やはり、侮れないな、ほかのクラス。
サポート科の彼女を追いかけてお茶子ちゃんと三奈ちゃんも走り出す。
『さあ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!』
マジか。やばいやばい早く行かなくちゃ。

「あのサポートアイテムに劣る個性じゃないしね」
お尻から、関節の細かな大きな尻尾を生やす。尻尾といっても100%骨なので、お尻に恐竜の化石をくっつけたような、アンバランスな見た目になってしまっている。これは百ちゃんと勉強した後練習を重ねて習得した、密度を減らして欠損することなく作った骨の尻尾だ。
両腕を欠損し肥大化させた足にぐっと力を込めて、地面を蹴った。

「あっ!王子様のカンガルージャンプだ!」
眼下で綱渡りをしていた三奈ちゃんが声を上げたが、何その名称。いつの間にそんな名前が付いた。
ちなみに食堂での教訓を踏まえ、お尻側ではなく太腿とふくらはぎを中心に増強したアップグレード版だ。
骨の尻尾を生やした理由は推進力の補助とバランスをとる役目を担うためである。カンガルーの尻尾って、移動するとき結構大きな役割を果たすものなのだ。

「ほっ、ほっ」
ぴょんぴょんと足場を移動し、綱渡りをしている人たちを飛び越えて抜かしていく。
ロボ・インフェルノでは破壊してる間に結構抜かれていたためここで追い上げておかないと。

中盤あたりまで抜いたところで、マイクの実況により先頭が最終関門に入ったことを察する。
『かくしてその実態は――――…一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚 酷使しろ!!』

ザ・フォールを抜けて変形を戻し、地雷原を見回す。あちこちで地雷に引っかかった人が吹っ飛んでいるのが目に入った。音と見た目がすごいけど、大きな怪我をしている様子はないので大した威力ではないのだろう。
先頭は未だ轟くんだったが、地雷に手こずってわりとゆっくり進んでいるようだ。
「はっはぁ俺は――関係ね――――!!」

そこに飛び出して先頭に躍り出たのは爆発力で浮いて地雷原に触れず、かつ爆速で前進する爆豪くんだった。ホバリングとブーストを左右の手それぞれで行える彼のバランス感覚と才能のポテンシャルは一体いつ底が見えるのか。

『ここで先頭がかわった――!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!』
ひときわテンションの上がったマイクが叫ぶ。きっと会場も沸き立っていることだろう。

確かに2人は凄いが、あの2人にばかり注目が行くのは釈然としない。
私は幼稚園の頃から、運動会では一等賞しか獲ったことがないんだってことを教えてやる!



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