おまつり開演



外から花火の上がる音が聞こえる。体育祭当日、私達はクラス毎で控え室に集められていた。
「はあああ、緊張する…」
ゴチン、と音を立てて机に額をぶつけた私の頭を百ちゃんが撫でてくれる。
「大丈夫ですわ、自信を持って」
「自信なんかないよ〜…」
「リラックスして、普段通りの実力を出せばいいのです」
「それができたら世話ないよ!させてよ!リラックス!」
「ええと…あ、これで如何ですか?」
言うや否や、百ちゃんは両手を広げてぎゅっと抱き締めてくる。
「ふおぉ!?」
「ハグにはヒーリング効果があると聞きますわ」
「百ちゃん天使かよ…ありがとう大好き…!」
「私もですわ」
百ちゃん、今日もいい匂いがする…柔らかボディとグッドスメルに包まれてだいぶ癒された。やっぱり女の子って素晴らしい。

「皆準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
「うわ、もうそんな時間か…」
学級委員長の飯田くんがざわつく皆に声をかける。真面目だなあ、ありがたいけど。

「コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
「私は体操服でよかったよ…」
三奈ちゃんはコスチューム可愛いからそんなことが言えるんだ。私はあんな格好で全国の電波に乗るくらいなら出場を辞退してもいい。
公平を期すためでもなんでも、着用不可のルールを決めた人に菓子折りを持ってご挨拶に伺いたいくらいには感謝している。

「緑谷」
「轟くん……何?」
ずっと黙っていた轟くんが緑谷くんに話しかけていた。珍しい組み合わせだな、なんだろう…となんとなく皆の意識がそっちに向かうのがわかった。
なんかあの2人一緒にいると、緑谷くんのぱっちりした目が余計に大きく見えるなあ。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっ、うん…」
いきなり何言ってんだ彼!自意識過剰か!?
いや、確かに体力テストも戦闘訓練も、轟くんの成績は緑谷くん…というかほとんどの人を圧倒していたし、個性も超強力な実力者だとは思うけど。
緑谷くんだって、戦闘能力と判断力は抜きん出ているし、個性だって威力を見れば相当のものだ。少なくとも私は、彼はすごい奴だと思っているのだが。

おまえには勝つぞ、と宣った轟くんに上鳴くんが「クラス最強が宣戦布告!!?」と驚いていたが、聞き捨てならないな。
轟くんがクラス最強とは誰が決めたんだ?ん?

1Aの良心・切島くんが轟くんの肩を掴んで諌めるが、あっけなく振り払われてしまう。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、わかんないけど…」
緑谷くんが拳を握って口を開いた。

「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ、僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ」
きっと今、緑谷くんが思い浮かべているのは心操くんの言葉だろう。昨日お互いに激励(と言っていいのか微妙なところだけど)し合った彼を思い出す。結局牛乳はもらってくれなかったな。

「僕も本気で獲りに行く!」
宣言した彼の大きな瞳には強い意思の光が宿っていて、すごく、かっこよかった。
やばい、惚れそう。じゃなかった、私も本気で挑もう。


『群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??』
入場ゲート前に並ぶと、ハイテンションなアナウンスをするプレゼント・マイクの声が聞こえてきた。
盛り上げ上手なパーソナリティに場内はワアアアア、と歓声に包まれ、落ち着いてきた心臓がバクバクとまた高鳴りだす。仏説摩訶般若波羅…あ、ダメだこれ落ち着けない無理。
今年は例外的に1年ステージに人が集まっているらしい、私たち目当てで。注目されるのはチャンスが広がることと同義だけど、緊張もそれだけ増すのだ。くそっ、みんな敵のせいだ!

『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
プレゼント・マイクちょっと持ち上げすぎじゃないかなあああああ???
「ああ、もうだめ、行きたくない…私お腹痛いから帰る!」
「バカ、落ち着け」
「バカ!?」
入場ゲート直前で怖気づいてくるりと踵を返した私を障子くんが捕まえた。バカって失礼な!
諦めて場内へと歩を進めると、カメラのフラッシュが一斉にたかれて目が眩んだ。

『ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』
「ぅ、わぁ…人多すぎ…」
しぱしぱと何度か瞬きをして視力を取り戻した視界に入ってきたのは、ギャラリーにごった返す人、人、人。
「大丈夫か」
「だいじょばない!」
手汗とか脇汗とかやばい。ノースリーブなのにやばい。
障子くんはポーカーフェイスを気取っているが、「だいじょばない」にちょっとツボったらしくマスクの下で口元がにやけている気配を感じた。この野郎。

でも私たちの後にB組以降のクラスが入場してくるとそっちに注目が移動して、少しほっとする。
歓声に混じって、ふと聞き覚えのある声が耳に届いた。
「由有ー!!」
「……!?」
きょろきょろと見回すと、ギャラリーから乗り出してぶんぶん手を振る大柄なおっさん…
「じゃじゃじゃ!!?」
「は!?」
障子くんが素で驚いていたけど、今はちょっとそっちにまで気を配れない。かああっと熱の集まった両頬を押さえる。あれ、あれって、あのおっさんは、

「お、おと、お父さん…!?」
「やーっと気付いたべや!由有!すばらくて!」
なぜかヒーロー姿の父がそこにはいて、満面の笑みで手を振っている。な、なんでいるの!いつも雄英体育祭はテレビで見てるじゃん!ていうか仕事は!?
「すばらくてでゃにゃっちゃや!なして居んべ!?」
「めんこい娘が雄英体育祭さ出んのに仕事してられにゃべ!」
「仕事しろダメ親父!!!」
「事務所からも行ってこかだらいだもの!母ちゃんも来でだぞ!」
「由有ー!あらぁ、まためんこくなったんでね!?」
「ああん、もう!お母さんまで!ばか!みんなバカ!!おしょすいべじゃ!!でぎゃ声で呼ぶんでね!」
「ごめんなあ、でも応援してっからな!頑張らいよ!!」
「わってりゃ!もう!せづにゃがらしゃってろ!」

観客席に戻った両親を見送ってもー、と熱を逃がすようにぺちぺちと頬を叩いていると、鋭い目をまん丸く見開いた障子くんと目が合った。
「今の……」
「えっあ…」
めっちゃ聞かれてたし見られてた。よく見たら障子くんだけじゃなくて皆こっち見てるし!は、恥ずかしい、消えたい…!!


「選手宣誓!!」
ピシャン、とバラ鞭がしなり音を立てた。壇上には18禁ヒーローのミッドナイトが立っている。今年の一年ステージ主審は彼女が務めるらしい。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
もっともな疑問を口にする常闇くん。確かに。私たちまだ15、6歳だし、法に触れていないか心配だ。


「静かにしなさい!!選手代表!!爆豪勝己!!」
「え〜〜、かっちゃんなの!?」
「あいつ一応入試一位通過だったからな」
緑谷くんの疑問に答えた瀬呂くんの言葉に、普通科の女の子が「ヒーロー科の入試な」、と聞えよがしに刺のある言葉を投げてきた。相変わらず、私たちは他の科の人たちに嫌われているらしい。

嫌われ者代表の爆豪くんは、ポケットに手を突っ込んだままふてぶてしい態度で壇上に上がり、ミッドナイト先生の前に立った。
「せんせー」と唱える彼になんとなく息を飲む。

「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
私もやると思った。

彼のとんでもない宣誓にひどいブーイングが飛ぶ。「A組」とひとまとめにされているが、勘弁してほしい。私たちの意思じゃない。
当の本人は意にも介さず、「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」とさらに煽る。このヘドロヤロー。

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」
ミッドナイト先生がホログラムを表示し、第一種目の発表を言い渡す。
「運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」
ばん、と表示された文字は「障害物競走」。説明に合わせてスタジアムの正面ゲートが開いていく。
スタジアムの外周コースを1周回って戻ってくれば、何をしてもいいらしい。つまり、何があるか予測できない。
障害物といえばネットやハードルなんかが一般的だと思うが、まあそんな常識は通じないだろう。

「さあさあ位置につきまくりなさい…」
ゲート上の信号が点滅し、カウントが始まる。チーターフォルムは短距離向けだし、直線コースでない限り有利に動けない。
最初はまあ、普通に…と、周りと同じように腰を落としてスタンディングスタートの格好をとった。
お父さんとお母さんが見ているのだし、狙うは1位だ。気合を入れて正面を見据える。

「スタ―――――――――ト!!」



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東北弁キャラと決めた時、絶対「じゃじゃじゃ」って言わせようと思ってました


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