テイル・オブ・マシラオ



ばんっ!!と教室中に響き渡る音で机を叩いたのは私と透ちゃんの手の平だ。皆の視線がこっちに集まる。ていうか力が入りすぎて予想以上に大きな音を立ててしまった。

いきなり目の前にやってきて机を叩かれた尾白くんは、その細い目を真ん丸く見開いて挙動不審になり、私達を交互に見つめ返す。
「な、なにかな」
「尾白くん、お願いがあるんだけど」
「は、はい」
神妙な面持ちで迫る私達に冷や汗を流し、緊張した顔の尾白くん。私と透ちゃんは顔を見合わせ(透ちゃんの顔は見えないから正直無意味だったけど、多分見合わせていた)、息を揃えて言う。

「「尻尾触らせてもらえないかな!?」」
「……あっ、はい」
「やったあ由有ちゃん!お許し!」
「い、いいの?いいんだね??」
ばんざいと手を挙げた透ちゃんの横で何度も確認をとる私。

実はというと、尾白くんと戦闘訓練で一緒になった時から彼の尻尾に魅了されていた私は、同じ感想を抱いていた透ちゃんと触ってみたいねーと話していたのだ。
だってもう、彼の立派な尻尾は大きいわ目の前でくねくね動くわなんか先っぽにモフモフの毛がついてるわでものすごく興味というか好奇心がそそられる。とにかく視界に入ると気になって仕方がない。
でも異形系の人は見た目をコンプレックスにしていることが多いし、触れられたり気にされたりするのは嫌なんじゃないかとも思っていた。
しかし触ってみたい欲を抑え切れず、意を決して透ちゃんと示し合わせてお願いしてみたわけだ。

案外あっさりお許しが出たので、こんなことなら早く言うんだった、と思いつつじゃあ失礼して!と魅惑の尻尾に手を伸ばした。
「わああああっ、かたい!あったかい!」
「すっごい!おっきい!!」
「2人とも、言い方!」
手を触れてきゃあきゃあと騒ぐ私たちを尾白くんが窘める。だって触ってみたら予想外にあったかいし、思っていたより硬い。大きいのは見ればわかるだろうと言われるかも知れないが、触れることでその質量と重量がありありと感じられる。

「ね、ねえ先っぽも触っていいかな?」
「いいよ」
「わっわっ、フワッフワ!何これえ!すごーい!」
尻尾の先に生えた毛は、彼の硬そうな髪の毛の見た目からゴワゴワしてるものかと思っていたがとんでもない。柔らかくてフワフワして、触り心地が最高だ。
フワッフワしてる!フワッッフワしてる!!

「わああ、すごい、きもちー…」
「ここの毛もシャンプーしてるの?」
「うん、一応…あのさ、だから言い方…」
「だってこれすっごいよ!?尾白くんすっごいよ!超きもちいい!私にちょうだい!」
「あげないよ!?」
興奮して飛び跳ねながらほしいほしいと騒ぐ私。傍から見ればバカみたいだろうけど、欲しい。これは癒しグッズとして一家に一本置くべき代物だ。

「ぎゅってしていい?」
「…もう好きにして」
「えっ貰っていいの?」
「それはダメだよ!」
好きにしろというので嬉々として聞いてみたがどうしてもくれないらしい。ちぇっ。

お言葉に甘えて!とぎゅっと尻尾に抱き着く透ちゃんに便乗して私も抱きしめてみる。
じんわり熱が伝わってあったかいし太さも抱きしめるのにちょうどいい。ほ、ほしい…!
「かたい!太い!あったかーい!」
「尾白くん、やっぱりこれ欲しい…」
「ダメ!ていうか2人とも!その、あた、当たって…!」

「あいつらナニしてんだ…?」
「いかがわしい!いかがわしいぞ!」
遠巻きに話している峰田くんと上鳴くんを押しのけて三奈ちゃん、梅雨ちゃんがやってきた。

「尾白、私もいいかな?」
「私も一度触ってみたかったのよね」
「どうぞどうぞ、もうどうにでもしてくれ」
机に伏して尻尾で「どうぞ」のジェスチャーをする尾白くん。器用だな!
っていうか動くとまた尻尾の筋肉がモゴモゴしてなんともいえない感触…!
「うわあ、本当だあったかい!」
「もっと柔らかいのかと思ってたわ」
「あの尾白さん、私も…」
「ウチもいい?」
「あっ私も私も!」

A組女子がみんな集まってきてしまった。やっぱり皆気になってたんだ!
しかし机に座る尾白くんの背中に女子が集まって尻尾を囲んでいる絵面はかなりシュールだ。ともすれば寄ってたかって彼をいじめているように見えなくもない。
平和なA組にいじめなんてありません!

「わ、すごいこれ!ムキムキだねえ!」
「確かにこれは欲しくなるなあ…」
「抱き枕にしたらすごい気持ちよさそうだよね!」
「尾白くんこれ抱いて寝たりしないの?」
「しないよ…」
「えー、もったいない!」

「いいなあ〜」
「乱架は尻尾生えるんじゃない?」
「ん?できるけど、こんなに立派なの生やそうとしたらどっかなくなっちゃうよ」
「ちょっと生やしてみてよ」
「えー…」
お願い、と両手を合わせる三奈ちゃんに負けてにょろっと尻尾を生やして見せた。脚の筋肉を使ったので脚が細くなってしまう。

尾白くんと並べてみると一目瞭然だ。彼の大きな尻尾に比べて私のはオマケ程度の細いもので、なんだか情けない。
「あーかわいいじゃん!乱架ずっとそれ生やしてなよ!」
「えーやだよ…」
「触っていい?」
「えっだっ、だめ、ひゃん!」
「え」

私の答えを聞く前に三奈ちゃんは私の尻尾に触れてきて、全く身構えていなかった私は変な声を漏らしてしまった。
しかも結構大きな声が出て、視線が集まる。咄嗟に口を覆って尻尾をしまった。

「び、尾骨のとこは、私弱いから、だめ、です」
「わあ、ごめん…」
三奈ちゃんはちょっと顔を赤くして謝ってくれた。うん、いや、むしろごめん。
私がくすぐったがりなのがいけないんだ、人によってくすぐったい場所は様々だが、私はやたらそれが多くてその程度も普通の人より敏感になっているらしい。首、鎖骨、脇、背中、尾骨、太腿、膝、足首、足の裏…と、わかっているだけでこの弱点の多さ。
とにかく少しでも触れられようものならくすぐったくって我慢ができない。お母さんもくすぐったがりなので、もしかしたら皮膚伸縮の個性のせいかもしれない。
尻尾は打撃に使うぶんには全く問題ないが、普通に触られるのが耐えられない。尻尾をあまり出さないのはそういう理由もあるっちゃある。

いくら触られても平気な尾白くんが少し羨ましくなって、腹いせに尻尾の先の毛をわしゃわしゃとかき混ぜた。
しかしフワフワの毛は私の指をすり抜けるばかりで全然絡まない。その指通りのよさに夢中になってしまいそうだ。
「わー!!やっぱりフワッフワ!!」
「あー私も触りたい!」
再び女子全員で尾白くんの尻尾を弄くりまわし始めた。それを遠巻きに見ている峰田くんと上鳴くんに、いつの間にかほかの男子も混ざっている。何か話しているようだが、尾白くんの尻尾にすっかり夢中になっている私たちには聞こえなかった。


「尾白モテモテじゃねーか!うらやましい!」
「…オイラも尻尾があったらモテるのかな」
「お前は無理じゃね?」
「確かに尾白じゃなかったらあんなに女子もたからねーよ」
「なんだよぉ!オイラと尾白と何が違うってんだ!」
「煩悩の差じゃねえか」
「確かにアイツ、仙人か僧侶なんじゃねえかってたまに思うぜ」
「全裸の葉隠と半ケツの乱架に囲まれて顔色ひとつ変えなかったしな」
「それどころかUSJでは乱架をお姫様抱っこだぜ」
「しがみつかれてたしな…」

「多分他の奴ならああはならねえだろうな」
「下心がないって思われてると女子も無防備なんだな」
「……(思い当たる節がありすぎる…)」
「峰田みてーにオープンエロスじゃ女子も警戒すんだろ」
「ラッキースケベを狙うなら純粋な振りしといたほうがいいんだな、緑谷みてーな!」
「ぼぼぼぼぼ僕!?いや僕はそんなっ、女子とあんまり話せないし!」
「麗日と仲いいじゃねーか、羨ましい!!」
「俺の周りに女が寄り付いたことねーんだぞ!」
「低俗な…」

「爆豪は悪人面だから女子寄らねーよな!」
「んだとコラ!前に誰だったかが話しかけて来たっつーの!」
「誰だよ」
「名前は知らねえ」
「なんて言ってたんだ?」
「布切れを爆破しろって頼んで来た」
「なんだソリャ」

「あー!そういえばオイラのパンティをこないだ爆豪がチリにしちまったんだ!」
「み、峰田パンティ履いてんのか?」
「そこまで変態だったとは…」
「ちげーよ!拾ったパンティだよ!」
「パンティ拾うとかありえねーだろ」
「付き添ってやるから、な、まだ間に合う、警察行こうぜ」
「おい!ちげーって!!泥棒したとかじゃねーよ!」

「神聖な学び舎で女子たちは何をやっているんだ!?破廉恥な!」
「おお飯田、けしからんよな、学級委員長として止めてこい」
「しかし副委員長の八百万くんも混じっている…!?ということはアレは学習のために必要なことなのでは…」
「駄目だこいつ」



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最後のボーイズトークは誰が誰だかわかりにくいと思いますがニュアンスでお願いします。一応尾白くんと青山を抜いた全員います。黙ってるのが障子くんです。口田くんは喋ってないけど輪に入ってはいます。多分アワアワしてます。かわいいです。青山ごめん。お前の扱いがわからないんだ。



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