レッツ体育会系



体育祭まであと一週間、今日は日曜日だ。
昨日は生憎の雨で放課後の走り込みができなかったため、生物図鑑を読み耽ったり、過去の体育祭種目を調べ直したりして過ごした。

おかげですっかり身体が凝り固まってしまったので今日は昨日の分も合わせていっぱい走っちゃうぞ!ひゃっほい!と妙にテンションを上げてぬかるんだ地面を駆ける。


「………ここはどこだ…?」
何も考えずに走りたいまま行きたいまま走ってきたら、いつの間にか知らない浜辺まで来ていた。

「多古場海浜公園…」
ここは公園なのか。日曜日の午後とあって、散歩しているカップルが多い。
右も左も2人連れの中、汗だくで1人で走っている私がバカみたいだ。ちくしょう!リア充爆発しろ!
内心ですれ違うカップルに悪態をつきながら、流石に少し疲れたのでちょうどよく目の前に現れた自販機へと向かう。
スポーツドリンクを買って休憩所のベンチへと腰掛け、一息ついたところで私と同じように走り込んでいる人を発見した。
なんだ、他にもいるじゃないか…と安心していたら、その人は私を見るなり手を振って近付いてきた。
え、誰。

「よう!乱架もランニングか?」
「え、う、うん…?」
待って誰これ知らない人だ、と思ったが、目元の傷とギザギザの歯で判別できた。
「あ、あー、なんだ、切島くんか、髪下ろしてるから誰だかわかんなかった」
というか赤い髪の知り合いなんて一人しかいないのだから気付くべきだったけれど、髪型が違うと印象もだいぶ変わるものだな。
ごめん、と手を合わせると、今思い出したという風におでこにかかった前髪を摘んだ。

「そういえば前髪下ろしてたな、忘れてたぜ」
「なんか印象違うね」
「だろ?」
「そっちの方が可愛いよ」
「かわっ!?」

なんだか幼く見えて、雰囲気も丸く感じられる。素直な感想を言うと「いや、俺が目指してるのは硬派な男だから…」とグッと拳を握る。
切島くんはやたらと男らしさにこだわるけど、そのこだわりがむしろ男らしくないような気がするのは私だけだろうか。

「切島くんは、硬派じゃなくても優しくていいヤツだから、それだけでいいと思うなあ」
「いや、男らしい男はかっこいいだろ!?」
「男らしい男は自分から男らしいとは言わないんじゃないかな」
「そ、それもそうだ…!」
でも男らしくあろうとしなければ男らしくなれないし…男らしさを求めるのが男らしくないということは……あれ?男らしさってなんだっけ?と男らしさのゲシュタルト崩壊を起こし始めた切島くんの独り言を慌てて遮る。
「今のままでも十分男らしいからさ!大丈夫だって!かっこいいよ切島くん!」
「お、おう、そーか?」


「ところで乱架って家このへんなのか?近所で見たことねーけど」
「ん?ううん、夢中で走ってたらいつの間にかこんな所に来てしまって」
絶賛迷子中です、と言うと切島くんは苦笑いをした。
「大丈夫かよ、家どこだ?送るか?」
「雄英から徒歩20分ほどの住宅地」
「遠くね!?お前本当に走ってきたのか!?」
聞けば、ここから雄英に行くにはバスでまず駅まで向かい、その後地下鉄を乗り継いで40分ほどかかるらしい。マジで?

「うーん…よく考えたらもう午後だもんね…私9時くらいからずっと走りっぱだったから」
「タフだな!男らしいぜ!」
ビッ、と親指を立てて切島くん的には最上級の褒め言葉をいただいたが、ごめん、全然嬉しくないよ。

「お昼も食べてなかったや。お腹空いたなあ」
「そーいや俺も腹減ったな……どっか行くか?」
「私こんな汗だくじゃどこにも入れないよ」
「うーん…」
じゃあちょっとコンビニ行かねーかと言われ、ああコンビニなら別に格好を気にしなくてもいいな、と連れだって近くのコンビニへ行った。おにぎりやら軽食を買ってまた海浜公園のベンチへ戻ってくる。


「……あー、んまい、空きっ腹にしみる…」
もぐもぐとツナマヨおにぎりを咀嚼して言う私に、からあげ串にかぶりつく切島くんがおかしそうに笑った。
「乱架、ほんとにうまそうに食うな」
「ん、おいしーもん」
普段あまりコンビニに寄らないので、私がコンビニおにぎりを食べる機会は少ない。たまに食べると意外においしいんだこれが。
別に特別好きでもないのになぜかツナマヨに手が伸びるのはきっと私だけじゃないはず…

というか切島くんもそんなに変わらない気がする。ニコニコとからあげを食べている表情は顔全体で「うまい」と言っているようだ。
「からあげ好きなの?」
「からあげってか肉が好きだ!」
「ふぅん、男の子っぽいね」
「…!」
何気なく言ったのだが、切島くんはぱぁぁあっと顔を綻ばせて物凄く嬉しそうな顔をした。男らしい認定がそんなに嬉しいか。

「ん、ついてるよ」
「ん?」
とんとん、と人差し指で口の端を叩くように指して食べかすを示す。切島くんは舌を出して探しているが、そっちじゃない逆だ。
「こっち」
見当違いなところをいつまでも舐めているので、手を伸ばしてとってやった。うおお、そっちか、という切島くんの眼前に食べかすを差し出す。
「ん」
「ん?」
「んっ」
「……え、食えっての?」
「うん」
「…えっ…と、その」
「早く」
「〜〜〜〜、」
ぱくり、と私の指を少しかすめて食べかすは切島くんの口内へ消えていった。

その指をコンビニでつけてもらったおしぼりで拭いていると、「それで取ればよかっただろ…」と多少赤らんだ顔で言われる。
「勿体ないじゃん、食べ物なのに」
「乱架が食えば…」
「何で私が切島くんの食べかすなんか食べなきゃいけないの」
「あっ、はい、そうっすよね」
そうっすよ。


腹ごしらえも済んでゴミをまとめたところではたと気付く。
「この公園ってゴミ箱ある?」
「確かあった筈だな…前はなかったらしいけど、最近設置されたやつ」
聞けば、以前はこの公園は不法投棄や漂着物のゴミだらけでとても人が寄り付くようなところではなかったという。それが最近急に綺麗になって、今ではデートスポットとして名高くシンリンカムイがスポンサーについているとか。海浜公園なのにシンリンカムイとは、なんかもっと適任者がいなかったのだろうか。
山と積まれた海岸線一帯のゴミを綺麗にした人物の正体は誰も知らないらしい。なにそれこわい。

そんなことを話しながら歩いていると、言っていた通りまだ新しいゴミ箱を発見した。と、その近くに見覚えのある人影。
「緑谷くん?」
「緑谷?あー、マジだ」
なんだか妙に海岸にいるのがしっくりくるなあ。何がとは言わない。髪型なんか見てない。海藻とか思ってない。
大きな袋を持って、ゴミ箱の前で何かしているようだ。
「緑谷くん!」
「ん?…うわあ乱架さん!と…えっと……ああ、切島くんか!」
「よっ」
やっぱり髪型が違うので一瞬わからなかったらしい。そうだよね、わかんないよね。
「こんにちは、緑谷くん何してんの?」
「ああ、えっとね、ゴミ拾い」
「え!?なにそれボランティア!?」
驚いて彼の持つ大きな袋を覗くと、確かにスプレーの缶や瓶などが入っている。習慣なんだ、と恥ずかしそうに笑って話してくれた。

「この辺って海流の関係で漂着物が多くてさ、あと最近人が来るようになったからポイ捨ても結構あるんだ、だから毎週日曜日にランニングがてらゴミ拾って回ってるの」
み、緑谷くん…君の奉仕精神が眩しすぎて見えないよ…!
「おめーすげぇな!一人でやってんのか?」
「うん、砂浜ってランニングにちょうどいいし、ついでみたいなものだよ」
軽く言ってのけるが、毎週ボランティアでゴミを集める男子高校生ってなかなかいないと思う。緑谷くんについて知るたび「すごい」という感想しか出てこない…

「2人は何して…あ、もしかしてデート!?ぼぼぼ僕、邪魔しちゃったかな!?」
「え?」
「は?」
緑谷くんの言葉に二人できょとんとする。
あ、そうか。デートスポットに男女が2人でいたらそう見えるのか。
「違うよ、こんな汗だくでデートとかどんなんよ」
「俺らそれぞれ走り込みしてて、さっきばったり会っただけだぜ」
「あ、そうなの…2人並んでるとお似合いだったからてっきり……あ、そういえば乱架さんには障子くんがいるもんね!」
「は!?ちょっとやめてよ!障子くんとはそんなんじゃないよ!?」
「えっ、マジか!ごめん!…でも仲いいよね?」
「それは認めるけど…やめてよほんと、私切島くんも障子くんも全然タイプじゃないし」
「乱架、さらっとひでえこと言うよな。傷つくぜ」
「ごめんね私嘘つけないんだ」

そんな風に軽口を叩き合ったあと、ゴミ拾いの続きをすると言った緑谷くんに揃って手伝わせて欲しいと頼むと快く了承してくれた。3人で一帯のゴミを集めて処分を終えた頃には、水平線が夕日で真っ赤に染まっていた。
「うわああ、きれー…このへんの人って毎日これ見れるんだねえ、いいなあ」
「そうだ!乱架お前家めっちゃ遠いじゃねえか!こんな時間まで大丈夫か!?送るぞ!?」
「え、いいよ、走って帰るよ」
「タフネスかよ!」
とんでもねえな!と騒ぐ切島くんに緑谷くんが不思議そうな顔を見せる。
「乱架さん、家どこなの?」
「雄英近く」
「遠ッ!?走れる距離じゃなくない!?」
「ところがどっこい私ここまで走ってきたんだよ」
「タフネス…!」

「2人共タフネスタフネスって人を爆豪くんみたいに…」
「おめーは爆豪を悪口の代名詞みたいに言ってやんなよ」
「かっちゃんは悪い奴だけどその…えっと、悪い奴じゃないんだよ」
「緑谷くん、フォローできないならしないほうがいいよ」
矛盾しかしてないし。
「ていうか気になってたんだけど、『かっちゃん』ってなに?仲いいの?」
「かっちゃんと僕、幼馴染なんだ」
「へえー!じゃあ爆豪くんも家このへんなの?」
「うん、近所だよ」
「そっか、じゃあ今後この辺近寄らないようにするわ」
「「乱架(さん)…」」
だって、爆豪くん怖いし。



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