第二次セイチョウ期



私たちは先生方の指示で着替えて教室に戻り、別室で一人ずつ簡単に事情聴取を受けた。
大まかな説明によると、敵はだいたい小物ばかりでクラスの皆や先生によって返り討ちにあい、全滅させられていたそうだ。

「しかし…たった2人であの数を片付けちゃったのはすごいね、将来有望だよ」
「はい、あの…でも、私、一度油断して殺されかけちゃったし……情けない、です」
「そんなことはないよ。今回は皆それぞれができることをして事態が収束したんだ、捕まった君が情けないというのなら……言い方は悪いがね、セキュリティを突破された学校側はもっと情けないし、もちろん私たち警察も、こんなに大勢の敵が動いているのに気付かなかったのは情けないね」
今は自分が無事だったことを喜びなさいと言われ、釈然としないながらも小さくはい、と答えた。
最後に、加減ができずにやりすぎてしまった敵が何人かいるが無事か、と聞くと、一瞬目を丸くしたのちに苦笑が返ってきた。

「倒した相手の心配までしているのは君だけだよ。確かに敵を傷つけずに捕獲するのが理想とはいえ、君のしたことは間違ってないし、相手の怪我もまだ許容範囲のうちといえる」でも、と言いかけたのを柔らかく手で制されて、続く。
「それに、君は学生で、しかも高校生になったばかりの子供だ。敵と初めて対峙したのに、加減なんてできなくて当たり前だよ。それをこれから、ここで学んで行けばいいんじゃないかな」
顔の前で静止していた手をそのままポン、と頭に置かれて「じゃあ、君への事情聴取はこれで終わりだ。お疲れ様」と笑顔で送り出された。また頭を…!

なんで皆私の頭を撫でるんだろう。もしかして手を置きやすい位置にあるのか、と考えながら、こんなニヤついただらしない顔で教室に戻れない、としばらく廊下で顔を冷やす。
収まってきたところで扉を開けて教室へ入ると、席について透ちゃんと話していた尾白くんと目が合った。やっぱり仲いいな。
「あ!由有ちゃんおつかれー!」
「乱架さん…」
「うん?」
「ごめん!」
「へっ?」
突然立ち上がり、バッと頭を下げた尾白くんに驚いた。なんだなんだ。

「お、俺がついていながら……あんなことになって…俺は、何もできなかった…辛かったと思う、本当にごめん…」
「い、いやいやいや、油断して捕まったのは私だし!仕方ないって、個性の相性が悪かったから、攻撃効かないのは尾白くんのせいじゃないし、だから頭上げて…」
「いや、俺があの時何かうまいこと立ち回れていたら……」
「いいんだって、私こそほんと、すっごい迷惑かけたし、ごめんね?」
「でも、」
「でもじゃないよ!最終的に私無事だし、敵は倒したし、尾白くんいなかったら私火災ゾーンで酸欠で死んでたかもしんないんだよ!ほんとに助かった、重かったよね?ほんとごめん!」
「うん……いや重くはなかったよ、大丈夫」
「あと胸とか触って申し訳ない!なんかハイになってたみたい」
「うん、胸はほんと今後やめてね」
「む、胸?」
聞いていた透ちゃんが戸惑ったようなはしゃいだような声を上げた。何か変なこと考えてるなこの子は…

「あれ!?ていうか由有ちゃん、首!」
「ん?」
透ちゃんがビシっと腕をこちらへ伸ばした。おそらく私の首を指差しているのだろう。何かついてるのかと触ってみるが何もない。
「痕、痕やばいよ!!」
「えっ、なになに…」

痕、とは首を絞められた痕だろうか。そういえば私の全体重がかかった上に、男の力で締め上げられたんだから痕くらい残っても不思議ではないな…
透ちゃんが手を伸ばしてきてよく見えるように髪を持ち上げる。見えないけれど実体のある手が首にかすって、くすぐったくて肩を震わせて笑っていると、私の首を見た尾白くんが傍目に分かるほど青ざめた。
え、そんなにひどいの…?

「お、俺は、俺はなんてことを…女の子の首に痕を残すなんて…せ、責任を…!」
「お、尾白くん?」
「すまない乱架さん…君がもしその痕のせいで嫁の貰い手を失ったら……その時は俺が……!」
「おおおこれってプロポーズ!?」
「ちょっとやめてよ!!何の話!?透ちゃんはしゃがないで!」
「乱架さん……俺、家族を養えるような立派なヒーローになるから……」

がしっと私の両手を掴んで迫ってくる尾白くんは正気を失っているようだ。どうみても混乱しているし、そんなわけのわからない宣言を私にされても困る。
というか嫁の貰い手とか尾白くんに心配されたくないんだけど!さっきから地味に失礼だな!
後ずさろうにも、背後には私の髪を持ったままの透ちゃんがいるので無理だ。
「尾白くん落ち着いて!尾白くんには透ちゃんがいるでしょ!!」
「え!?由有ちゃん何言ってんの!!」
「なっ……俺と葉隠さんはべべ別にそんなんじゃ…!」
私を挟んであわあわと照れる2人はまさしく青春の二文字を体現しているようだ。
透ちゃんの方は見えないのだが、2人揃って真っ赤になっているのはわかる。
かわいらしい反応に口元が緩む。仲良しだと思ってたけど、そういう感じか。
なんだ、2人共まんざらでもないんじゃないか…


「ていうか私の首どうなってんの?誰か鏡持ってない?」
「あっ私持ってるよ!はい」
「ありが、……なんで持ってんの?」
透ちゃんがごく自然に鏡を貸してくれたが、彼女は姿が見えないのに鏡が必要なのだろうか。
「女の子として鏡くらい携帯しておくべきでしょ!」
「えっ、うん、いや、そうなんだけど…?」
深く考えない方がいいらしい。鏡に映した首は、輪を描くように重なり合った赤い痕がくっきりと残っていた。
食い込んだ布の繊維の模様までプリントされていてところどころが青黒く、確かにひどい。

「あーーー、ほんとだ」
「そんなになるまで絞められたとか…由有ちゃんよく死ななかったね」
「ん〜…いや一瞬こりゃ死ぬかなーとは思ったんだけど」
「俺も…乱架さんが痙攣して動かなくなったときは目の前で人が死ぬのかと思ったよ……」
「いや!でもこのくらいならそのうち消えるでしょ!治んなかったらリカバリーガールに治癒してもらうし」
また落ち込み始めた尾白くんをなだめるようにわざと明るく話す。気にしないで、というのは無理かもしれないが、尾白くんが責任を感じるようなことじゃないのにな。

「由有さん!!首、首が……!!」
「あー百ちゃん、うん、痕になっちゃったみたい」
「あああああなんて、なんてひどい…!許さない…敵…、絶対に、許さない…!!」
「百ちゃん?落ち着いて、ねえ戻ってきて」
また取り乱し始めて殺気を漲らせる百ちゃんを押さえ込んで深呼吸させ、なんとか落ち着かせる。こわい。

「……ところで、もう体調はよろしいんですの?」
「うん、だいぶよくなったよ。百ちゃんもありがとうね、なんか迷惑かけてばっかりだね私」
「そんな、私が勝手にやったことですし、迷惑なんかじゃありませんわ…それに私、由有さんならどんな迷惑でも歓迎いたしますわ」
「ももも百ちゃん……!!」
なんて優しい、嬉しいことを言ってくれるのだろう。私はいい友達を持って幸せだよ…!

「百ちゃん大好き!!」
「私も大好きですわ」
ぎゅっと抱きつくと、同じようにぎゅっと返してくれた。ふおおおお百ちゃんなんかいい匂いする…!?戦いの後だというのに全然汗臭くない!これが女子力か…
「私も、百ちゃんのためならなんでもするよ!」
「まあ、嬉しいですわ」
抱き合ってにこにことじゃれ合っていると峰田くんが私たちを写メって「女子と女子……サイコー!」と親指を立てていたので、後でぶっ飛ばそう。
あと写真送ってもらおう。


そんなこんなしているうちに、教室にかわいらしいネズミのような校長先生がやってきて明日は休校だと告げ、私たちはそのまま帰ることになった。
それなら明日は溜まっているお洗濯をしようかなーなんて考えながら荷物をまとめていると、障子くんが私の席までやってきた。
「乱架」
「うん?なーに」
「帰るぞ」
いっしょに、ということだろうか。別に今日は買い物もないし、いーよと了承して並んで歩く。
教室を出るとき、両手を合わせてはしゃいでいる三奈ちゃんとじろちゃんが見えた。
だからそういうのじゃないのに……



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