ぅゎJKっょぃ



「調子に乗るなよガキが!」
両手が鈍器のような形状をした敵が、その大きな手を広げて挟み込もうとかかってくる。
さっと伏せてその攻撃を躱しては懐に潜り込み、鳩尾に掌打を一発。のけぞったその敵の身体を駆け上がり、腹を足場にしてバク宙、背後から向かってきていた2人の敵のうち1人の後頭部を蹴り飛ばす。
向かってくる勢いに蹴られた衝撃が加わって吹っ飛んだ敵は、前方の敵の群れに突っ込んで伸び上がった。今ので6人くらいは巻き込めたかな、と考えながら着地、と同時に後転倒立の動きで両脚を突き上げると、背後のもう1人の敵の顎にヒット。
顎の砕ける感触を感じて、しまった、と思ったのも束の間、宙を舞っていく敵が女性だったのに気付いて青ざめた。
ああ、やっちまった。冷や汗が頬を伝う。

まもなく、落下してきた女敵の顎は拉げて見るも無残な顔になってしまっていて、それを見た敵一同は顔を歪め一歩後ずさる。「この女マジかよ…」と信じられないものを見る目で私を見る視線に、いやごめんなさいわざとじゃないんです、ちょっと力加減を誤って…とオロオロしていると、敵を何人か倒した尾白くんがそばに来て「それ敵だから!倒していいやつだから!」とツッコミを入れられた。

「ていうか乱架さんめちゃくちゃ強いね!?」
「えっ…ほんと?そう思う?嬉しい、ありがとう!」
嬉しさに赤面し、満面の笑みを返すと尾白くんは面食らって、安心したような呆れたような顔をした。
「緊張感って知ってるかな?」
「失礼な…っと、尾白くん肩貸して!」
「えっ、うわ!」
尾白くんの背後に翼を広げて飛びかかってくる敵が見えた。
咄嗟に尾白くんの両肩に手を置いてそこを支点に転回し、敵の脳天からかかと落としを食らわせて叩き落とす。
いきなり体重をかけてしまって、尾白くんがバランスを崩さないか心配だったが、戦いぶりから武道家、もしくは経験者と伺える彼はさすがに体幹もしっかりしているらしい。姿勢を全く崩していなかった。

「サンキュー尾白くん!」
「うん、いやこちらこそ…すごいね、戦闘慣れしてるっていうか」
「ああ私ね、雄英来る前はしょちゅう地元のヒーロー事務所の人達と手合わせしてたから」
敵に囲まれた中で普通に会話をはじめる私たちに敵が怒って吠えてきた。

「おいふざけてんじゃねえぞ!」
「ぶっ殺してやるからな!」
鞭をしならせてかかってくる。ああいう軌道の不規則な武器は躱すのが難しいので、間合いに入る前に先手を打つのが定石…腕の布を解いて相手に巻き付け捕縛する。
これを使うのは初めてだが、さっき相澤先生がやっていたのを思い出しながら見よう見まねで布を引っ張り、2人の頭をぶつけ合わせた。

「おお、できた!」
目を回している敵を2人まとめて敵の中にぶん投げると、ひとかたまりの敵にぶつかって弾きあい倒れた。ストライク!
この布すごく便利。丈夫で切れる心配もないし、使えるなあ、工夫すればもっといろんな動きができそうだ。

今一度周りを見回すと、ざっと見て敵の半数くらいが倒れている。
あと半分、戦力的には問題ないが、正直この火災ゾーンは暑いし空気が乾燥していて喉が灼けるのでもうさっさと出たい。常に周りが燃焼しているせいいで、酸素が薄くて疲れてきた。

少し咳き込んで、早いとこ倒してしまおうと背中から羽を生やして飛び上がった。
手が欠損したため長さの余った布がはためく。
「なぁっ!?」
「アイツまだ個性使ってなかったのか!?」
「今まで地力だけだったのかよ!」
頭上を滑空する私を見上げて口々に驚きの声を上げる敵。

「そんなに上向いてたら、いい的だよ!」
「ぶべらっ!?」
こちらに向いている顔のひとつに両足で着地する。
上を向いていて歩きやすい顔の上をジャンプで踏みつけて回ると、潰れた顔から鼻血を出して次々に倒れていく。

上を見ていると踏まれるのに気付いた敵は慌てて正面を向くが、顔を狙わなくてもいい。肩車のように肩にどっかり座って、足で首をしっかり固定する。
「うおおJKの太腿めっちゃやわらk「えいっ」ぐああああ」
ふざけたことを言う敵に必殺、首四の字固め。ギブギブ!と叫んで脚をバシバシ叩かれるが、こっちだって遊びでやってるわけではない。そのまま締め上げて落としてやった。

どさっと倒れる敵から離れると、そのあいだに尾白くんも残りの敵を倒したらしい。この場に立っているのは私たちだけになっていた。

「これで全員やったかな?」
「うん、早く皆と合流しよう。皆広場に集まるはずだからとりあえずそこを目指そうか」
「もうここ酸素薄いし苦しいし、早く外に行こう…」
気温のせいで汗だくになってしまった顔をパタパタ仰ぐ。背後の炎が揺らめいた。
「そうだ、見てた限りじゃ心配なさそうだけど、怪我とかしてないよね?どこか痛いとかくじいたとかは?」
「大丈夫だよー、尾白くんは?」
「俺もへい、き……、乱架さん!!」
「なん、っ!?」
言いかけて動きを止め、私の後ろを凝視し表情を凍らせた尾白くんにどうしたのかと声をかけようとしたら、炎の中から伸びてきた腕に拘束された。

「熱っ、あっ、なに、」
「暴れても無駄だぜ、お嬢ちゃん」

私の背後、炎の柱の中から敵が現れた。しまった、また油断していた…!
チンピラ敵は私たちを疲弊させ油断を生むためのいわば囮…全滅させたと思わせて、気の抜けたところをこうして叩くために最初から伏兵が潜んでいたのだ。
相手は周到に計画してきた頭があるのにこの程度のこと、考えないわけがない。そこに気付くべきだった、と歯噛みしても、もう遅かった。

首巻きの両側を掴まれて持ち上げられ、私の足が地面から離れる。
「あっ…ぐ、げほッ」
首が絞まって苦しい。後ろ足で力いっぱいに蹴ってもがくが、全く効いていないようで敵はびくともしない。
さらにギリギリと布で絞め上げられる。

「乱架さん!おい、離せよ!!」
「おじ、ろ、く、……はっ、…」
ここに飛ばされた時とデジャヴを感じる。しかし、さっきとは違う、これはまずい。
私の力で蹴ってもびくともしないということは、打撃が効かない可能性が高い。つまり、私や尾白くんの体術では通用しないということだ。
「動くんじゃねえぞ小僧、俺の皮膚は衝撃吸収性でな、ついでに耐熱だから炎の中に隠れていられたんだが…ずっと見てたからわかるぜ、お前らは打撃以外の攻撃手段がねえ、衝撃吸収の俺には攻撃が効かねえってこった」
やはりそうか、しかしまずい。これじゃあ文字通り手も足も出ない。

「くっ……」
「コマではあったが仲間が皆やられちまったからな、生かして返すわけにはいかねえよ」
「〜ッ、〜〜〜っ!!」
首を絞める力を更に強められ、今度こそ嘘泣きではなく生理的な涙が頬を伝った。
苦しくて声が出そうになるが、もう喉には音が通る隙間さえないらしく、声にならない喘ぎが漏れるばかりだ。

「やめろ!彼女じゃなくて、俺をやれよ!頼む、彼女は見逃してくれないか」
「はあ?何言ってんだ、2人共殺すんだからどっちが先でも変わんねーだろお前バカか?言っとくが、どちらか1人でも逃がすつもりはねーからな」
尾白くんと敵が何か話しているのが、だんだんと遠のいて聞こえる。目の前が暗くなってきた。
もがいていた手足は意思に反してビクビクと何度か痙攣し、その後力が入らなくなりだらりと垂れ下がった。

よく見えないが、尾白くんがものすごく焦っているのがなんとなくわかる。
「さっきまでお前ら勝った気でいたのになあ、形勢逆転ってやつだな」


意地悪く笑った敵の体は次の瞬間、私の背中から生えた無数の棘に穿たれていた。

「……は?」
何が起こったのか分からない様子の敵は反応が遅れた。一拍置いて「いってえええええええ!?」とのたうち回る。
解放された私は崩れ落ちて激しく咳き込んだ。
「乱架さん!!」
尾白くんが駆け寄ってくる。肩と両脚に刺突を叩き込んで健を切断したので、敵はしばらく動けないだろう。

「っはは、秘技・ハリネズミってね……舐めすぎだって言ったじゃん、バカはそっちよ」
「んだ、テメエの個性……羽生えるだけじゃねえのかよ…」
「私の個性は骨と筋肉の変形、これは骨を露出させて作った角。打撃がダメでも刺突や斬撃は効くみたいだね…正直一か八かだったけど、決まってよかった……」

地面に伏したまま動けない様子の敵に安心して角を引っ込めると、ふっと気が緩んだ。
力が抜けて、私はその場に倒れ込む。

尾白くんが吃驚して私に呼びかけるのが聞こえて、今日はいっぱい尾白くんに名前を呼ばれるなあと場違いなことを考えた。



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