開戦のニーリフト



「敵ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
誰かが叫んだ。
その通りだ。教師陳は全員プロヒーロー、生徒も、全国から集められ倍率300を勝ち抜いたヒーロー志望のエリート。
自惚れではないが、その辺を歩いている一般人とは訳が違う。セキュリティも万全の箱庭にわざわざ攻め込んでくるとは、袋の鼠になりにきたようなものだ。

しかし、わざわざ不利な状況に自ら入ってきたということは、それなりの準備と勝算があるという可能性が高い。そもそも雄英のセキュリティを突破できている時点で、向こうの戦力は侮れないと考えた方がいい。
轟くんも同じような見解を示していて、侵入者用センサーが反応しないこと、私たちがUSJに集まる時間を狙ってきたことなどから敵は周到に画策してきていると話す。

「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の個性が妨害している可能性もある…上鳴おまえも個性で連絡試せ」
「っス!」
13号先生に避難と連絡の指示を出しながらも敵から目を離さない相澤先生。まさか、一人であの数を相手にするのだろうか…こうしている間にも次々と送り込まれる敵の総数は、10や20ではきかないだろう。

イレイザーヘッドの戦闘スタイルを熟知しているらしい緑谷くんが止めに入るが、先生は13号先生に声をかけて飛び出していってしまった。
突っ込んでいく先生に敵が狙いを定めるも、先生の個性によって攻撃を封じられる。反応が遅れた敵を素早く捕縛武器で搦め捕り、3人まとめて頭をぶつけ合わせて一瞬で倒してしまった。
パワータイプらしい異形型の敵が立ちはだかるが、顔面に一発。体勢を崩した敵の足に武器を絡めながら、殴り掛かる敵を躱して異形を投げつけ、一気に数人を行動不能に。
鮮やかな身のこなしに思わず見入っていると、「何してんの!」と尾白くんに手を引かれてはっとした。そうだ、私たちが避難できるように先生は戦っているんだ。見てちゃダメだった。

出口に向かい走る私たちの前に、黒モヤが立ちはだかった。
「初めまして、我々は敵連合。せんえつながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
丁寧な語り口でとんでもないことを話す。敵の目的は、オールマイトを殺すことだったらしい。
突拍子もない話だが、余裕たっぷりに語られるそれに不安感が増す。

オールマイトがいないことについて、カリキャラムの変更があったのかと問うが、それ自体にはあまり執着していないように思える。
ユラユラ揺れる敵は掴みどころがなく、得体の知れぬ恐怖を感じる。さっき白髪の男が言っていたように、私たちを殺してオールマイトをおびき出すつもりだろうか。
「私の役目はこれ、」動き出した黒モヤの前に、誰かが飛び出した。

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
切島くん、と、爆豪くんだ。
爆豪くんはどうだか知らないが……切島くんは冷や汗をかいていて、焦りと恐怖が少なからず伺える。怖いはずなのに、得体の知れぬ敵に真っ先に飛び出していった彼を格好いいと思った。
しかし黒モヤに二人の攻撃は効いていないらしい。「危ない危ない」と言ってはいるけど、さっきと変わらずユラユラ揺れているだけだ。
「ダメだどきなさい二人とも!」
13号先生が注意するが、遅かった。モヤはあっという間に広がってその場にいた全員を包み込む。
攻撃か、と思って皆が心配になったが、それぞれ手近にいるクラスメイトをかばったようだった。ほっと息を漏らすと、私の体は浮遊感に襲われた。


「!?……っでぇ!!」
どさっ、と落下したのは炎に包まれた建物が並ぶエリア、一瞬わけがわからなかったが、おそらくUSJ内の火災ゾーンだ。
そうか、モヤのモーションは攻撃ではなく、ワープで飛ばされたのか。
結構高い位置から落とされたために受身を取れずモロに体を打ち付けてしまい、息が詰まる。
「ッ〜〜!」
痛みに耐えて立ち上がろうとすると、いきなりコスチュームの首の布を掴まれ、身体を持ち上げられる。
「JKじゃねえか、お前に恨みはないがコレが俺らの役目なんでな」
私を捕まえたのは2mはゆうに超えているだろう大男の敵だ。片腕で胸ぐらを掴むようにして掲げられているので、足が地につかない。

「乱架さん!」
「!」
尾白くんの声がして見回すと、あたりは一面敵だらけで私たちは囲まれていた。切羽詰った表情の尾白くんがこっちを見ている。
彼は私の近くにいたため、一緒に飛ばされたようだ。

「おい!その手を離せ!」
「やなこった、せいぜい吠えてろよ、お前もすぐ死ぬんだから」
尾白くんが私を持ち上げている敵に叫ぶが、離せと言って離すような相手ではない。
弄ぶように軽々と私の身体を左右に揺らして見せつけ、力なくされるがままになっている私と歯噛みする尾白くんを見て、ニタニタと笑う敵は楽しんでいるようだ。
「やっ、だ、はなして、くるし、」
瞳にじわりと涙を浮かべ、私を掴みあげている敵の腕を両手で掴む。

「お?なんだよ結構可愛いじゃねえブェエ!!?」
私の顔を覗き込むように近づけた瞬間を狙って、私は腹筋で脚を持ち上げ敵の顎に膝突きを食らわせる。
不意打ちで、死角からモロに攻撃を受けた大男の敵は白目を剥いて卒倒し、手の力が緩んだ隙を見て腕から抜け出した私はその場に着地した。
うまく加減できなかったけど、顎砕いちゃったかも。

「ハァア!?なんだこのメスガキ!!」と周りの敵から声が上がり、さっきまで心配そうだった尾白くんも何が起こったのか把握しきれずぽかんとしている。
「隙だらけ…ガキだからって舐めすぎでしょ、バッカじゃないの?」
嘘泣きを止めてべろりと舌を出すと、さっきまでニヤニヤ眺めていた敵一同が冷や汗を流したのが見えた。
わざと大きな足跡を鳴らして尾白くんのそばに行き、話しかける。

「尾白くん、こいつらって多分私たちを始末する役目だよね?黒モヤが殺すって言ってたし、戦力を分断して、私たちを殺してオールマイトをおびき出すつもりなんだ」
「そのようだね、ていうか大丈夫……だよね、うん、なんでもない」
「私たちが火災ゾーンに送られたってことは、皆USJの各エリアに飛ばされたって考えていいよね」
わざわざUSJという隔離空間に侵入してきたということは、援護を呼ばれるのは敵も望んでいないはず。全員USJ内にいると考えるのが普通だろう。相手の狙いはオールマイトで、私たちは大物を釣るためのエサ、そしてこの敵たちはそのためのコマだ。

「つまりここは逃げて合流を急ぐよりも、それぞれの場所で敵の戦力を削っておいたほうがいいと思う」
「まあ、そうなるね…俺たちがこいつらにやられないとなると、敵の計画が破綻することにもなるし」
「つまり今やることは1つだね、こいつら全員ぱぱっと倒して、皆のところに行こう!」
「うん、それには賛成だけど…乱架さん、楽しそうだね?」
ニヤッと笑って好戦的な眼差しを敵に向ける私と、引き気味に私を見る尾白くん。

「何をゴチャゴチャと…」
「そんな簡単にやれると思ってんのか!?」
などと怒る敵だが、正直なところほぼ全員ただのチンピラみたいなザコ臭しかしない。
舐めてかかって轟くんの時みたいになる危険性もあるが、見たところ数の暴力みたいなゴリ押し戦法なのだろう。異形型の個性が多く見受けられ、それだけに見ただけでどんなものか大体分かってしまうのだ。
尾白くんの尻尾の邪魔になるため背中合わせ、とはいかないが、隣に並んでよろしく、と拳を突き合わせた。





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