わかってきた放課後



その後は順調に授業が進んだ。私は自身の反省点を踏まえて客観的に、様々な状況を想定しながらモニタリングすることに努めた。

「お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
尊敬するオールマイト先生の賞賛。嬉しいはずだけど、実践で何もできなかった私は素直に喜べなかった。
まだ、胸の内で悔しさが燻っている。

相澤先生の後で真っ当な授業を受けて拍子抜けしたと誰かが言った。先生はそれもまた自由だと語り、私たちは着替えて戻るようにと指示をしては、急いで緑谷くんのところへ行ってしまった。
バヒューンと去っていくオールマイトを指して、かっけえ、と漏らした妖精くんに、大いに頷いた。


放課後、切島と名乗ったツンツン男子が訓練の反省会をしようと提案した。
特に予定もないし、他人の意見も聞きたかったので参加する。ついでにクラスメイトの簡単な自己紹介があったので、みんなの名前がわかった。
ビームマント(仮)は青山くん、唇の厚い大柄な男子は砂藤くん、金髪メッシュは上鳴くんで、妖精くんは峰田くんだ。梅雨ちゃんと組んでいた鳥のような頭の男子は常闇くん…常闇くん、めっちゃかっこいいな。立ち振る舞いや言動が最高にクールだ。

クラスの大半が残っている中、問題児爆豪くんはさっさと帰ろうとしている。切島くんを始めみんなが止めるが、黙って出て行ってしまった。
「爆豪くん、ずいぶん落ち込んでるっていうか…なんか脱力してるね」
彼は行動こそ目に余るが、戦闘では緑谷くんを圧倒していたし、そこまで落ち込むことでもない…と思う。

「爆豪くん、デクくんと男のインネンがあるんだよ」
「そうなの?入学前から知り合いなんだ」
「そうみたいだね、緑谷くんも爆豪くんのこと『かっちゃん』って呼んでるし」
「かっちゃん!?」
なにそれ!!実は仲良しじゃんそれ!しかし、あの爆豪くんに「かっちゃん」という名前は可愛らしすぎる気がする。正直に言おう、似合わない。
というかよくそんな呼び方を許しているなあ。やっぱり仲良しなのでは?

反省では、それぞれ気になったチームの作戦や自身の実力の分析などを自由討議している。
私が何もできなかった、と言うと、あの状況では仕方ないと慰められる。でも、未知数の相手ならばもっと警戒するべきだったのだ。
そして轟くんをノーマークで油断していたことは、本人に見抜かれていた。
「初対面で個性のわかんねえ相手の力量なんか、分かんなくて当たり前だ。けど実践だったら通用しねえぞ」

轟くんに指摘されて、彼の実力を舐めてかかっていたと、かなり失礼なことをしたのだと自覚する。
謝罪すると、俺もお前が動けると言い出すとは正直思ってなかった、だからおあいこだと下げた頭をぽんぽんされた。


「!?」
……頭をぽんぽんされた!?
ばばっ、と頭を押さえて後ずさる。面食らったような轟くんの手が半端な位置にとどまっていた。
「〜っ、ぅああ…」
「え、悪い、」
妙な声を漏らした私に、「よくわからないがとりあえず謝ったほうがいい」みたいな感じで轟くんが謝るが、私はぶんぶんと首を振る。
「ちっ違うの、ごめん、びっくりしただけ」
言いながら、自分の顔が熱くなっていくのがわかる。
落ち着こうとするが、口元がにやけるし頬の紅潮は収まらないし、いたたまれなくなって照れ隠しに百ちゃんに飛びつく。

「百ちゃああああん」
「由有さん?」
赤くなった顔を隠すように抱きつくと、身長差のせいで顔がちょうど百ちゃんの胸の位置に来た。で、でかい。2つの意味で。あ、これ2回目だ。
頭ぽんぽんなんて、初めてされた…小さい頃は両親にされたかもしれないが。いや、深い意味はないとわかっている。でも不意にそんなされたら、顔がにやけるのを抑えられない。
なんだか女の子扱いされているようでむずがゆい、恥ずかしい、でも嬉しい、なんだこれは!これがあの胸キュンってやつか!!

「くそっ!!ちょっと美形だからって!イケメンテクを軽々しく使いやがって!別に嬉しくなんかないんだからね!」
百ちゃんの胸に埋まったまま轟くんに向き直って叫ぶ。真っ赤な顔で言っても説得力はないし、なぜかツンデレの鉄板みたいな台詞になってしまった。
「ああ、嬉しかったのか?」
「だから〜っ…!!」
だんだん!と地団駄を踏んで悔しさを床にぶつける。さっきから轟くんに負けっぱなしだ!!悔しい!悔しい!!轟くんはちょっと面白がっているし、更に悔しい!悔しいの無限ループだ!


ひとしきり悔しがって、落ち着いた頃に教室の扉が開いて緑谷くんが戻ってきた。
「おお緑谷来た!!!おつかれ!!」と切島くんが寄っていく。
「いや何喋ってっかわかんなかったけどアツかったぜおめー!!」
「よく避けたよ――――」
「一発目であんなのやられたら俺らも力入っちまったぜ!」
どわっと押し寄せるクラスメイトと賞賛に緑谷くんはうろたえている。

一方で少し離れた場所の常闇くんは「騒々しい…」と横目で眺めている。かっこよすぎか。しかし机に座っているのを飯田くんに見咎められて注意された。飯田くん、君は真面目が服を着たような人間だな…
その後ろで話しているのは上鳴くんとお茶子ちゃんだ。
「麗日、今度飯行かね?何好きなん?」
「おもち…」
ナンパである。入学2日目でクラスの女子をナンパ。飯田くん、常闇くんより彼を取り締まって欲しい。
というかそれよりお茶子ちゃん「飯行かね?」の回答に「おもち」って可愛い。可愛さが留まるところを知らない。

しかし緑谷くんを見つけたお茶子ちゃんは、上鳴くんを華麗にスルーして話しかけに行ってしまった。残された彼は悲しそうにお茶子ちゃんを眺めていて、その背中には哀愁が漂っている。
そばで見ていた切島くんがポン、と肩を叩いて「俺とメシ行くか?」と誘っていた。いいやつだ。
「おう…」
「肉食いに行こうぜ、肉」
「じゃあマックな…」
「おう!」
放課後マック、都会の学生っぽい…!私が中学の時下校中に寄り道したところといえば、商店街の駄菓子屋さんとかスーパーの前の大判焼きの出店くらいだ。
マックは隣町にしかなかったし、スタバは県内に数えるほどしか店舗が存在しない。アニメとかで都会の学生が学校帰りにファストフード店やコーヒーショップでおしゃべりするシーンを見ては、ものすごく憧れたものだ。
ちなみに、スタバはまだ足を踏み入れる勇気が出なくて入ったことすらない。呪文を唱えなければメニューが提供されない秘境だと聞く。恐ろしい…


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別に有名でもなんでもない東北のおやつ、あじまんは安くてそんなに美味しくないのがウリです



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