偏るスタメン



グラウンド・βといっても、体力テストをしたような校庭ではなく入試の時の模擬市街だった。
私が着いた時にはもうみんなほとんど揃っていて、それぞれコスチュームに身を包んでいる。

一緒に来た百ちゃんが最前列へ行ってしまったため、あまりお尻を見られたくない私は百ちゃんから離れ最後尾に立っていた。
隣にはピチピチのスーツで恥ずかしそうにしているお茶子ちゃんがいる。
私のスーツも大概だが、全身を覆うぴったりとしたスーツも恥ずかしいだろう。なんとなく模様もギリギリな感じでエロい雰囲気を醸し出している。
しかし、宇宙服を思わせるヘルメットや、曲線を意識した大きなブーツに丸い手甲などがかわいらしい。エロくてかわいい。
サポート会社の方向性がなんとなくわかった気がした。
これは、いい。

後ろから足音が聞こえ、まだ誰か来ていない人がいたかと振り返ると、うさぎの耳のような長い飾りのついた緑色のジャンプスーツが小走りでこっちに向かっていた。
誰か一瞬わからなかったが、大きな赤い靴に見覚えがある。
「緑谷くん?」
「あっ乱架さん……うわああ!?」
両腕で顔を覆ってバッと目をそらす。うん、目のやり場に困るよね。ごめんね、パンチラどころの騒ぎじゃないもんね。モロだもんね。
でも私だって好きでこんな露出狂まがいのコスチュームを着ているわけではないんだよ。

「あ、デクくん!?かっこいいね!!地に足ついた感じ!」
「麗日さ…うおお…!!!」
今度は顔を覆いつつも凝視である。私の時は悲鳴だったのにお茶子ちゃんは歓声に近いって、ちょっと傷つくよ。
でもわかるよ、エロかわいい。私だってさっき見たとき歓声あげちゃったもの。

頭を掻きながら、パツパツスーツは恥ずかしいので要望をちゃんと書けばよかったと照れるお茶子ちゃんは最高にかわいい。
でも教えてあげよう。要望をちゃんと書いても恥ずかしいスーツを用意されるんだよお茶子ちゃん。

緑谷くんにススっと寄ってきて力強く親指を立て、「ヒーロー科最高」とのたまったのは百ちゃんの前の席の妖精くん(仮)だった。
お茶子ちゃん本人は気付いていないようだが、彼女のギリギリコスチュームを指しているのだろう。初心な緑谷くんはうろたえている。
そうか、彼はそういうキャラだったのか。たまにこっちを見て妙なリアクションをしていたのは、そういうことだったのか。
可愛い妖精的な、白雪姫に出てくる小人のようなイメージをしていた私はなんだか裏切られた気分だ。
でも、気が合いそうな予感はしなくもない。

「緑谷くん、それ」
「え?」
「頭のやつ、オールマイトの真似っこ?」
ちょいちょいと頭上を指差して、彼の頭で揺れる大きな2本の突起を示す。

「あっ!?あっえっと……これはそのッ、母がッ」
わたわたと少し照れくさそうに言う緑谷くんの頭上でぴこぴこと揺れる角を見ていると、うさぎを追いかけているような気持ちになる…
「かっこいいよ、オールマイトみたい」
「ヘアッ!?あ、ああありありありがが…!!!!乱架さんも、そのっ、そのコスチューム…!!!」
「いいよやめて、無理に褒めようとしないで」
似合ってると言われても微妙だし。

私たちを見回し「良いじゃないか皆カッコイイぜ!!」と褒めてくださったオールマイト先生に、フルアーマーで誰だかわからなかった生徒が挙手して質問を投げる。
「先生!ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」
ああ、飯田くんだったんだ。あのスーツいいなあ、かっこいい。

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」
統計では凶悪敵出現率が高いのは屋内である、真に賢しい敵は屋内にひそむと前置きして、私たちにはこの時間「敵」役と「ヒーロー」役に分かれ、2対2の屋内戦をやってもらうと主旨を説明するオールマイト。
ざわめいた一同を代表して梅雨ちゃんが「基礎訓練もなしに?」と疑問を伝えると、「その基礎を知るための実践さ!」といい笑顔。

確かに自分の課題点や不足部分もわからないまま基礎ばかりやるよりは、まず磨くべき部分を知り、目的を明確にした方が成長も早いと思う。
さらなる説明を求めて次々に質問する皆…なぜかビームの人はきらきらのマントの感想を求めていたが、その全てをさばききれず困った様子のオールマイトは「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!!」とうまいこと言っている。エンターテイナーだ。

状況は、「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている、という設定らしい。
核兵器を隠し持っている敵とか現代日本にそうそういないと思う。アメリカン。

時間内に核兵器の保有、もしくはお互いの身柄を捕らえた側の勝利となる。コンビ・対戦相手の決定はくじ引きだ。
2対2、と言ったが21人のクラスなので、どこか1つが3人になる。私たちのIチームが3人編成だった。透ちゃんともう一人、大きな尻尾の生えた男子、尾白くんが同じ組になる。

「透ちゃん、あのさ」
「うん?どうしたの由有ちゃん、わあセクシーだね」
「いや、うん、セクシーっていうか…透ちゃんスーツは??」
「これ」
「あのね、なんか、何も着てないように見えるのは私だけかな?ねえ尾白くん、尾白くんには見えてるのかな」
バカには見えないスーツとかそういう感じだろうか。私、勉強は人並みにできるつもりだったけど、実はバカだったんだろうか。
「…俺にも見えないよ」
「手袋とブーツは見えてるでしょ?」
「ああやっぱり?やっぱり手袋とブーツしかないんだね?」
「葉隠さん、ちょっとそれは、倫理的に…」
「だって私の個性、服着てたら意味ないし」
「そうなんだけどね…」

透ちゃん、恥じらいとかそういうものはないのだろうか。大胆すぎる……
これじゃ尾白くんがあまりにかわいそうだ。半ケツと裸の痴女二人に囲まれた柔道部みたいな絵面だもの(彼はファーのついた胴着のようなコスチュームを着ている)。さっきからあんまり見ないように頑張ってくれているもの。
本当にごめん。

最初の対戦はAチーム対Dチーム、緑谷くんとお茶子ちゃんのAチームがヒーロー、爆豪くんと飯田くんのDチームが敵だ。
私たちはモニターで観察しながら学ぶということで、2チームが対戦するビルの地下モニタールームへ移動した。


戦闘訓練の開始だ。
敵の二人を映したモニターには、飯田くんが止めるのも気にせず一人で飛び出していく爆豪くん。いきなり連携がうまくいっていないが、大丈夫か。
一方ヒーローチームは二人がビル内に潜入、探索しているところだった。

死角の多い屋内を慎重に進むヒーローチームに、曲がり角の陰からいきなり飛び出して奇襲を仕掛けたのは先ほど独断先行した爆豪くんだ。妖精くんが「いきなり奇襲!!!」と驚いている。
飛び出した勢いのまま空中で爆発混じりに殴りかかる。緑谷くんはお茶子ちゃんをかばって避けたが、爆炎がかすったらしくスーツの頭部が焼失し、角が片方なくなってしまった。
あのスーツは耐久性に問題があるんじゃなかろうか。そういえばさっき「母が」とか言っていたし、もしかしたらサポート会社ではなくお母さんの手作りなのかもしれない。
かっこいい角が消えたのを寂しい気持ちで眺める。

爆発の威力により壁がガラガラと崩れる。あれ、まともに食らったら怪我じゃ済まないんじゃないか。背筋を悪寒が駆け上がり、思わず二の腕をさする。
ツンツン頭で右目に傷のある男子が男らしくないと憤る。その通りだもっと言ってやれと思ったが、オールマイトは奇襲も戦略だと教える。
三奈ちゃんは緑谷くんがよく避けたと興奮気味だ。たしかに、不意打ちで殴ってきたのをかわして、その上お茶子ちゃんもかばっているのはすごい。
2撃目を振りかぶる爆豪くんに息を呑むが、緑谷くんはその腕を掴んで背負い投げる。床に叩きつけられた爆豪くんが苦しそうに咳をしたのが見て取れた。
モニタールームに衝撃が走る。私を含め、絶対に今度こそ直撃だと皆思っていた。緑谷く
ん、地味だと思っていたけど実はすごい人なんじゃないか…!

体勢を立て直す爆豪くんに何か叫んでいるようだが、こちらに音声は届かないので何を言っているのかはわからない。しかし、緑谷くんの何かが爆豪くんの逆鱗に触れたらしく、ものすごく怒って何事か吠えている。
爆豪くん、もともと怖い顔をしているけど怒ると更に怖い。
敵役、かなり似合ってると思う。

モニターで見ている私たちでさえ怖いのだから、真正面に対峙して怒りをぶつけられている緑谷くんの恐怖とはいかほどのものか。プルプルと震えて涙目になってしまっている彼は、さながら恐竜に襲われる小動物のようだ。
もうかわいそうなのでやめてあげてほしい…



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