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ムーンフィッシュ:予想外の
我ながら、馬鹿げていると思う。数日前に会ったばかりだし、他の仲間と比べたって、まだマシな外見の男の方が多い。「あー……仕事、仕事………」襲撃計画で割り振られた位置取り、待ち伏せをする私の隣。拘束衣で開け放しにされた口から涎と譫言を絶えず垂れているこの男に、惚れてしまった、なんて。



トガヒミコ:通りすがりに楽にして
上司に理不尽に怒られた。責任を押し付けられた。顧客に土下座をさせられた。女子高生にぶつかった。「世の中生きにくいですよねぇ」…真っ赤に染まった視界。朦朧とする意識。動かない身体。鋭い八重歯と、縦長の瞳孔。最期に見えたその笑顔は、どこか猫を思わせた。ああ俺、来世は猫になりてえなあ。



骨抜と唇
自分にはないから気になると言った、骸骨に似た顔の級友。その指は、私の顔の一番やわらかい部分を弄んでいる。「俺にはよくわかんねーけど、剥き出しなのに、そんな大事な器官なのか?ここ」「そうだねぇ…少なくとも私は、好きでもない相手に触らせたりはしないかな」朱い骸骨とは、なんとも珍しい。



心操と理解者
みんなは心操くんを少し誤解しているのだ。私は知っている。撫でてくれる時の優しい笑顔、内緒だぞ、とこっそり私の好きなおやつをくれること、飄々とした態度の裏にたくさんの悩みを抱えていることは、私だけに打ち明けてくれた。「じゃあな」とまた頭を撫でくる彼に、いつものようにニャアと返した。



障子、if番外小ネタ
「目蔵くん、好き」知ってる。「目蔵くん、大好き」知ってる。「目蔵くん、ねぇってば」ちゃんと聞いてる。「目蔵くん、愛してるよ」俺もだ。「目蔵くんはなんにもわかってない!」少し顔を赤らめて、怒ったような、泣き出しそうな声。何もわかってないのはお前の方だ。愛してる、と言っているだろう。



フォースカインドと初恋
「わたしをおよめさんにしてください」その日助けた少女の舌足らずな口調が愛らしくて、「大きくなったらな」と頭を撫でた。よくある口約束。もう10年以上前のことだ。だから、新卒で事務員となった女子社員が入社式で「大きくなりましたよ」と婚姻届を突きつけてくるなんてのは、全く予想外だった。



障子、if番外のアレ
読んでいた本にキスシーンの描写が出てきて、ちらと横に座る親友を盗み見る。ソファの上にいながら膝を抱え、縮こまって本を読む姿勢は癖になっているようだ。目は夢中で文字を追っているが口許は脱力して、ぽってりした桃色が僅かに開いている。ふいに、触れてみたくなった。なあ、「キスしていいか」



ステイン:いえない一言
流れ続ける血を拭い、消毒をする。今日は少し手こずったと、あちこちに傷を作って帰ってきた。贋物だらけの社会を正し、英雄を取り戻すのだと言って、一途に、健気に罪を犯す。彼のそういう所が好きなのだけど、本当は、こんなのはもう。こみ上げた想いも覆い隠すように、包帯をぐるぐると巻きつけた。



ランチラッシュとおにぎり
かぶりつけば、空気を含んだご飯が優しくほどける。んん。思わず声を漏らすと、目の前のコックコートは力強く親指を突き立てた。「おいしい、絶品だわ」「そりゃ、まあ、君のには特別愛情を込めてるからね」軽口にいちいち振り回されるほど子供ではない。顔が熱いのは、ほかほかおにぎりのせいなのだ。




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