この場所が、たとえば先輩と俺だけの秘密の場所だったらいいのに。邪魔するものは何もなくて、先輩の寝息だけが静かに耳に届くような。そんな場所だったらよかったのに。
だけど残念なことに、ここは運動部なら誰でも使う水飲み場で、ロマンチックの欠片なんて少しも感じられないただのベンチで。

「山本ではないか!休憩か?」
「まぁそんなとこ」
「よし、極限休め!」

先輩はといえば、体ぜんぶを休めるようにだらりと腰かけて、太陽をいっぱいに浴びてる。気持よさそうに閉じられた瞼、まるで隙だらけの手足、だらしなくひらいた口許。
(なんだか。)
(よからぬ事をしてしまいそうだ)

「どうした山本。座らんのか」

ぱくぱくと動く唇に焦燥。

「先輩」
「なんだ」
「いつか襲われても知らないっすよ」
「なんだそれは」
「なんだろうな」

いっそ、この人の警戒心の無さに付け込んでしまえたらいいのに。

「変なヤツめ」
「先輩には負けるけど」

ただ俺は、生憎そんな都合の良い度胸とかをひとつも持ち合わせてはいないし、嫌われてしまえば全てが終るとか、そんな事ばかり考えてる。
(それはこの場所が、たとえ先輩と俺だけの秘密の場所だったとしても同じことなんだろう)










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20061109
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