4階の角部屋
白いカーテン
窓際のソファ
プレゼントした、万年筆
書きかけの手紙
あなたの寝息
秒針の音
目をこする仕草
「おはよう、獄寺くん」
風に溶ける声、声。


「十代目」
「どうしたの、獄寺くん」
十代目の第一声はかなりの確率でこれだ。どうしたの。「いいえ、あなたのその顔が見たくて一気に階段を駆け上がってきました。エレベーター?そんなまどろっこしいもの、待ってらんないすよ」昔の俺ならなにも考えずただバカみたいに言えていただろう台詞。あの頃の若さときたら、眩しくもあり、やはりどこか軽々しく、思い返す度に胸の奥がキリキリとよじれる。どこに出しても恥ずかしい青春をひきずることはするまいと、今は真っ先に上へとのぼるボタンを押す。4、3、2、1。光る数字を目で追いながら、いよいよあなたに会いに来た理由をでっちあげ、エレベーターに乗り込み、同時に「十代目、先日の件で」と、台詞の練習を始める。
窓際に立つ、凛々しくも儚い背を想い、敬愛を込めて。
獄寺隼人は、いつもあなたのお傍に、と。







(十代目)
(じゅうだいめ、)
情けない右腕です。
冷たくなったあなたの頬に触れるこの瞬間も、思い起こすのは届かないと嘆いていたあの日々ばかりです。手を伸ばさなければ届くはずもないと、わかっていながら何もできなかった日々のことばかりです。

「なーんかさ、今にも起き出しそうなのな。遅刻しちゃう、とかってさ」
「おい、そりゃいつの十代目だよ」
「あの頃の」
「アホか」

棺の中で眠るあなたの頬に触れ、今更になって、この想いの一欠けでも伝わればいいのにと心から思います。
哀しみに蓋をするように、やわらかく閉じられた瞼の奥で、いまどんな景色を見ていますか。世界は、やさしく輝いていますか。隣に、獄寺隼人はいますか。

「十代目、」

あなたが俺を忘れてしまわないよう、触れる箇所から願いを込めています。

「さよなら」

恋をしていましたと、叶わぬ想いを込めています。









「泣かないで」
素敵な企画に愛を込めて
20070721
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