虚無界に来てからの奥村燐は、こちらが驚くほどの上機嫌で振る舞ったり、かと思えば死んだように眠りについたり、その繰り返しばかりで。情緒不安定の見本標本のように、日々を過ごしていて。
「りん、」
今もまた疲れて眠っている彼を、ボクはどうしてやりたいんだろうか。
耳を澄ませば聞こえる猟奇じみた(じみた、というのは可笑しくて、これこそが猟奇そのものなんだろうけど)声とも鳴き声とも形容し難い音にまみれても、こんなにも静かに眠る彼。
煩わしそうな前髪にそっと触れ、瞼にキスをして、頬をそっと撫でる。いまのボクはきっと、さぞ哀しそうな顔をしていることだろう。
「燐、」
ボクは、人間にでもなりたいのだろうか。
考えても考えても吐き気がするけれど。この世界が、どうか奥村燐にやさしくありますようにとか。そんな言葉ばかりが、ボクの身体中をぐるぐると巡っている。
title/白群
110625