そのひとは、とてもとても難しい。
だけれど、わたしはそのひとのひとつひとつを、とても暖かく愛おしく思っていて。


きょうは天気がよいので、花壇へ水をたっぷりとあげる。きのう覚えた歌を口ずさみながら、アスベルの帰りを待っている。午後には戻るよと笑ったアスベルは、わたしの髪をくしゃくしゃっとかき混ぜて、また笑った。
たいようは、もうすぐてっぺんだ。
そうだ、きょうはクッキーを焼いてみよう。じょうずだよって笑うシェリアの笑顔は、アスベルのあたたかさに、とても似ている。


「こんにちはソフィ」

水やりを終えて立ち上がると、あのひとの声がやさしくわたしを呼んだ。ほんとうはずうっと前からそこにいたのに。わたしの水やりが終わるまで、ベンチで待っていてくれた。
わたしの歌と風の音、花がそよぐその向こうに、本をめくる音がまざって。わたしはとても心がうきうきして、いまにも空に走り出しそうだったの。
だけどわたしはぐっと我慢して、きのう覚えた歌をうたったの。

「いらっしゃい、ヒューバート。アスベルはね、いま留守だよ」
「そのようですね」
「あのね、ヒューバート、わたしいまからクッキーを焼くの」
「ソフィがクッキーを?」
「シェリアにね、教わったんだよ」
「そうですか」
「手伝ってくれる?」
「いいですよ、僕でよければ、ですが」

普段は唇をきゅっとむすんでいるけれど。わたしの歌をきいているときのヒューバートは、きっときっとアスベルやシェリアみたいなやさしさで、笑っていてくれると思うから。








title/蘇生

120213
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