おやすみ、またあした。
眠れない夜は嫌いではない。開けた窓の隙間から夜の匂いがして。胸の奥がすっと冷たくなって、夜がひろがって。星が、たくさん見えたらいいのに。カーテンは開けないまま、空を思う。目をつむれば、教科書で見た銀河がいつでもそこにあるのに。僕の知る夜は、数えるほどの星しかなくて。

「兄さんは星がすきだね」
「夜」
「え、」
「夜だな、すきなのは。星はたまたまあるんだ、そこに」
「むずかしい話?」
「カンタンだぞ。雪男がいて、世界がある。そんなかんじ」
「ふうん」

小さな頃、兄はよく夜の中にいた。半袖のシャツから伸びる腕がひんやりつめたくて、鼻水も出たりして。それでも夜は兄さんを離さなくて。なんだか不安で、僕は必死で、手を繋いで。

「なあ雪男」
「なに、兄さん」
「いつか大人になったらさ、」
「ん?」

眠れない夜は嫌いではない。伸ばした腕の先に兄さんがいなくても、いっしょにすごした幾つもの夜が、僕を包んで、月は兄さんみたいに暖かい色で。








20111008
やすらはで寝なましものをさ夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな
素敵な企画「きみとぼく」に愛をこめて

120119
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