侵入を許しても、そこから出ることは簡単には許されない。
そんなことは承知済みだ。罠だと最初から分かった上でこいつを奪還しにきたのだから。

目の前に現れた蛇に、どうせ苦い思い出を植えつけられたのだろう、久遠の表情が若干だが強張った。
それを察したのはこいつを挟んで向かい側にいるデイダラも同じようだ。
起爆粘土に手を伸ばすデイダラを制し、適当に傀儡を引っ張り出す。
こいつらから逃げるのは、飛行が可能なデイダラの能力のほうがいいだろう。
戦闘はオレに任せておけばいい。そういう意味をこめてデイダラを見れば、察したのかわずかに頷いて久遠の手を取った。


「行くぞ久遠」
「え、サソリさんは」
「旦那は後からだ。行くぞ」


ひるむことなく向かってくる無数の蛇を殺しながら、オレは足で久遠の背中を蹴った。いたっ、と呻く久遠を担いだデイダラが、瞬身で消える。

とりあえず一安心だ。


「雑魚が・・・消えろ」


だいたいオレは、蛇が大嫌いだ。


***


「サソリさんに蹴られた背中が熱を持ってる・・・」
「変態をさらけ出すのは後からにしてくれ。突っ込み切れねぇから、うん」
「スルーされるのは一番傷つくからそうする」


久遠はやっぱり久遠だった。
なにもされてない元気そうなこいつを見て柄にもなく酷く安心してしまった、なんてことは口が裂けても言わないが(ていうかむしろ言えるわけねぇし)、きっと旦那あたりも同じ事を思ってるのだろう。
そして共通の思いがあるからこそそのことはお互い筒抜けだ。

証拠に、旦那は逃亡できる可能性が高いオイラにこいつを託した。


「でもデイダラちゃんに掴まれてるとこも熱を」
「それ以上言うな、吐き気で目の前がくらむ」
「ひどい!!」


言うわりに、その声音は楽しげで。
見えないのを良いことにオイラも若干口角を上げた。

アジトに帰ったら、こいつがいる。
"当たり前"じゃない"当たり前"を取り戻すために、こんなに必死になれる自分が少し人間らしくて笑えた。

だから、


「邪魔すんな・・・うん」
「悪いけど、その子は返してもらうよ。すばらしい実験素材だからね」


気持ち悪ぃ笑みを浮かべるこいつに、負けるわけにはいかねぇ。

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