「肉!!」
「ほぎゃあっ!?」


突然わき腹を掴まれて、らしくない悲鳴を上げてしまった。
眠気の覚めない頭で周りを見る。寝る前となんら変わらない景色だけど、傍には赤茶の髪色をしたがたいのいいお兄さんが寝ぼけた表情でぼーっと座っている。
待て、状況が飲み込めない。

でもこの顔は漫画で見たことがあるぞ。確かテツヤさんの新しい相棒だった気がする。
名前は、確か、ーーー火神大我?だっけ・・・

勢い良く起き上がったせいでじくじくと肩が痛む。
反対の手でそっと押さえながら目の前でやっと目が覚めてきたらしい彼を見れば、「・・・わりぃ」と申し訳なさそうな表情で謝ってきた。
いや、うん、いいんだけれどもね。ていうか今何時なんだろう。

きょろきょろと視線を動かせば、彼は私が探しているものを察したのか「今は丁度七時半だ。朝の」と低い声で伝えてくれた。


「あ、ありがとうございます」
「おー。つーかまじで悪い。付き添いだったのに完全に寝てたわ」
「いえ、大丈夫です」


いや普通にびっくりして変な声出しちゃったけどね。
たぶん彼は覚えてないだろうから変なことは言わないでおこう。とりあえず、火神であってるか名前を聞いておかないと。


「あの、」
「火神大我だ。お前のことは聞いてる。肩、痛むか?」
「・・・少し」
「監督は治療のプロだし、たぶん安静にしてりゃその内絶対ェ治るから安心しろよ」


・・・そんな、不安そうな顔をしてただろうか。
初対面であっても遠慮しない火神さんが私の頭に手を置いて、少し乱暴に髪の毛をかき混ぜる。「あと丁寧語いらねェ」・・・そこは敬語じゃなかろうか。
まぁでもよしとして、私も遠慮なく遣いづらい敬語は控えさせてもらおう。


「私、どれくらい寝てた?」
「黒子が半日お前に付き添って、それから俺と交代したから丸一日くれぇだな」
「・・・そんなに・・・」
「・・・まぁ、しょうがねぇよ。ここに入ってまだ日も浅いんだろ?それなのにふたつも任務こなしたって聞いたからこっちが驚きだぜ」


こなした。果たしてこなせれたんだろうか。
秀徳との任務は私いなくてもほぼ完璧に遂行できただろうし、海常との任務に至っては本当にあんな策でよかったのかすら危うい。ていうか怪我したし、結果的に黄瀬は怒ってたみたいだし、赤司からの連絡は入らないし(入っても怖いけど)。

ていうかなんで私は、あの時咄嗟に黄瀬を庇うようなことをしたんだろう。
死ぬのも殺すのも、怖いくせに。


「ん、これ粥な」


ぼーっとしていたら、いつの間にかお粥をよそってきてくれた火神が白い器を渡してくれた。
右利きだけど、仕方ない。レンゲを左で持って食べるしかない。
小さくお礼を言って受け取り、ちまちまと口に運ぶ。

久しぶりに食べた温かいお米。ジ○リの千尋になった気分だ。あの時千尋は、こんな気持ちだったんだろうか。


「お、おい、なんで泣くんだよ・・・!?」
「ごめ、ん、っ」


火神の顔がぼやけてみえる。
ぱたぱたと自分の手の甲に落ちた雫は紛れもなく私のもので、止めずに口に運ぶ粥は美味しくて、また涙が出た。
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