待ち合わせの場所で、久々に一緒に出かけられる事実に凛には悪いけど少しうきうきしてる俺がいることは否めない。
温かくなってきた、季節はもうすっかり春だ。半そでは寒いし、かといって厚着しすぎるのも熱いと感じるこの季節は俺からしたら結構服装に困る。

パーカーはちょっと熱かったかなあと服を見下ろしていると、「真琴」と聞きなれた声。


「久遠!」
「久しぶり」


ひらひらと手を振る久遠に久しぶりと笑い返して、手を繋ごうとしてやめた。危ない、癖が出るところだった。今はもう彼女は凛と気持ちを通じ合った仲なんだった。
好きだけど付き合ってるわけじゃない、って報告を受けたときはなんだか驚きよりも久遠たちらしいなぁなんて笑ってしまったっけ。


「真琴が買い物に誘ってくるのって、珍しいね。いつもなら遙と行くんじゃないの?」
「それが、今日ハルが用事があるらしくてさ。最近久遠の顔見れてなかったし、ダメもとで誘ってみたんだ」
「ダメもとだったの?」
「だってもう久遠は凛のでしょ?」


俺より大分低い位置にある頭をそっと撫でる。髪の間から見えた耳はほんのり赤に染まっていて、「べつに、凛の、とか・・・そういうんじゃな、くもないけど、」もごもご言いよどむ久遠は随分女の子らしくなった。
ていうか、可愛くなったと思うんだよなぁ。自然に口角が上がるのを抑えられないまま頭を撫で続けてると、すれ違ったおばあさんに「仲のいい兄妹だねぇ」微笑まれて、久遠と顔を見合わせる。

兄妹。その響きはなんだかくすぐったいけど、すごくしっくりくる言葉だった。


「ふふ、俺たち兄妹だって」
「嬉しそうだね、真琴」
「そりゃあ嬉しいよ。だから、ちょっと寂しい」
「? なにが?」


久遠に特別な感情は抱いたことがなかった。それはハルも同じで、俺とハルは幼馴染みの枠に収まるけど、久遠はまた違うって少なくとも俺は感じてた。
特別よりももっと上。妹でもないけど、それに近いような。家族愛みたいな、そんな感じ。
だから、さっきみたいに言われるのはすごく嬉しい。同時に、今まで久遠が俺とハルにこぼしてきた弱音もわがままも甘えも、それら全てを受け止めるのが凛になった。その事実がほんの少しだけ、寂しいんだ。


「なんでもないよ」
「・・・そっか。今日は何を買うの?」
「春服!俺センスとかあんまないし、女の子に選んでもらったほうが外れはないかなって思って」


ゆっくりゆっくり、歩き出す。
縮まらない近すぎた距離を、まだ噛み締めていたいから。
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