山の色もすっかりオレンジから茶色に変わって、あっという間に冬がやってきた。
水泳部はプールが使えない季節だから遙先輩は毎日通い道で海を眺めてはうずうずしてるように見える。入ろうとしたらそりゃ全力で止めようと思ってたけど、たぶんその心配はないっぽい。
いくら天然すぎる遙先輩でも、そこまで無謀なことはしない・・・と思う。証拠に、いつも眺めるだけで数秒経ったらあたしの方に向き直って、繋がっている手を温めるようにぎゅっと力を込めてくれるから。

遙先輩は最近、毎日のように飴をくれる。今日はバナナミルク味だ。ころんころんと転がしながら、遙先輩と手を繋いで橘先輩のお話に耳を傾けて、いつもの道を歩く。


「そういえばもうすぐクリスマスだけど・・・二人はどこか行ったりするの?」


首を傾げながら笑う橘先輩は、相変わらず男子なのに女子より可愛いしぐさだ。
クリスマス・・・クリスマスかあ・・・「どこか行くんですか?」なにも考えてなかったからとりあえず遙先輩に聞いてみる。
先輩はしばらく黙り込んで、「べつに、どこにも行かなくてもいいんじゃないか」うん、そういう返しが来るとは思ってた。


「クリスマスって、絶対どこに行っても人であふれかえってますもんね・・・」
「ええ、二人ともそういう欲ないの?渚がいたらそんなのもったいないよ!とかって言いそう」
「・・・あー、確かに」
「久遠がどこか行きたいならどこにでも連れてってやる。アフリカでもインドでも」
「(なんでその選択肢なんだろう)」


橘先輩と顔を見合わせて笑いをこぼす。それに遙先輩が不思議そうな顔をするのは今ではもう慣れたこと。

突然、強い風がびゅうっとふいてスカートや髪の毛が遊ばれる。反射的に握る力を強めれば、一回解かれたそれは指と指を絡める繋ぎ方にシフトチェンジされた。
いわゆる恋人、つなぎ。あ、なんか繋ぎ方変わるだけで少しの羞恥心・・・
いやたぶん、ていうか絶対遙先輩は何も考えずにこういうことしてるんだろうけど!

もぞもぞ、マフラーに鼻を埋めると遙先輩がふっと笑った気がして視線を動かす。目が合えば、やっぱり先輩は優しく笑ってて、繋いでないほうの手で乱れた髪の毛を梳いてくれた。


「・・・久遠の好きなケーキ買って家で一緒に食べるだけで俺は十分だけど、どこか行きたいか?」
「・・・!ううん、あたしもそれで十分です」
「ふふ、幸せそうだねハル。久遠ちゃんも」


嬉しそうに笑う橘先輩。
それは、その、今更なことだ。でも恥ずかしいから何も言わないでおく。「今更だろ、それ」遙先輩ってほんと羞恥心ってものがないのかな。
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