「だから、そうしてると危ねぇっつったろが!」


玉ねぎに包丁を当てていざ切り刻まんとしているところを、台所を覗いてきた凛に手首を掴まれて止められた。包丁を持っているほうの手を掴まれたから、本当にびっくりして思わず手の力を抜いてしまうところだった。
落ちたそれがどっちかの足に刺さったりしないでよかった、ほんとに、キッチンが血溜まりになるところだった。


「ちょっと、危ないじゃん凛」
「それは俺の台詞だっつの」
「今、包丁落としちゃうとこだったよ」
「・・・・それは危ねぇな」
「でしょ」


一瞬息を呑んだ凛に、そっと手首を離される。自由になった右手に握っている包丁を一度まな板の上に置いて彼に向けて手を伸ばせば、すぐに呆れた風な表情をされた。
だってせっかく料理しようとしたところを邪魔されたんだもん、割りにあったことをしてくれたっていいじゃないか。
むっと唇を突き出す。わがままな私の要求に呆れながらも応えてくれる凛が大好きだよ。


「・・・ん」


凛の大きな手が後頭部に回って、ふわっと唇が重なった。ふふ。
離れていった凛に笑いかければ、彼も少し口角を上げる。そのまま私の背後に回って、「包丁使うときは猫の手って言っただろ」と私に包丁を握らせた。
凛の男らしいごつごつした手が私の左手に被さって指を手のひらにつけるように誘導される。
でも、猫の手してると切りにくいんだもん。なんてことは怒られるから言わないけど。

とんとん、小気味いい音がキッチンに響いた。背中は温かいし、凛の手も温かいし、幸せな気分だ。
たまねぎが切り終わったところで、顔を上げてみる。ばっちりと目があった凛の目尻には涙が溜まっていて、同じように瞳を濡らす私を見た凛が「泣き虫」と言いながら涙をぬぐってくれた。
凛もじゃん。
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