目に見えて、旦那はイラついていた。
ヒルコにこもってるから表情は読めないけど、話すときのトーンが若干低いのだ。
ツーマンセルを組んで、それなりに行動を共にしてきたから分かる。

原因は明白だ。


「・・・チィ、ここも抜け殻か」
「でもこれで全部だよな・・・うん」


かすかな希望を抱きながら大蛇丸のアジトをしらみつぶしに探すが、あいつの消息は全くと言っていいほど掴めなかった。
そして、今オイラ達が潜りこんだアジトで暁が持っているアジトの情報は最後だった。
当たり前か、いつまでもひとつのところにとどまるわけもないのだ。

旦那が近くの木をヒルコの尾で薙ぎ倒した。


「クソ、」


これは、本当にやばいかもしれない。
旦那の苛立ちは相当だ。だが、苛立ってるのは旦那だけじゃねぇ。オイラもだ。
いなくなればいいと思ってたあの変態が、いつの間にかいることが当たり前になっていたのだ。いや、いてくれなきゃ困るのだ。
とてつもなく不本意だが。

本当に、いつの間にか。
いつの間にかあいつはオレの胸のうちを占領して、離れないのだ。
いっそのこと、最初から全てなかったことにできたら楽なのに。

ふいに、白いなにかが視界の隅をかすめた。
気になって視線を向ける。


「・・・旦那」
「あ?」
「アレ。蛇の脱皮のあとだ」
「・・・、」


白い脱皮を終えた皮膚の残りは、かすかにチャクラを含んでいた。
罠だ。即座に浮かぶ大蛇丸のやり口。
それは旦那も同じだろう。しばらくの沈黙が流れた。


"・・・行くな、と言っても聞かんだろう"


リーダーの声が頭に響く。
ハン、と鼻で笑った旦那が当たり前だろと自信げに答えた。
声にこそ出さないものの、オイラだって気持ちは同じだ。


"イタチ達も向かわせる。なるべく穏便にすませ"
「オレとこいつだけで十分だ。飛段なんかよこしてみろ、それこそ穏便にすまされねぇぞ」
「・・・同感だ、うん」
"・・・いいだろう。だが、とりあえずイタチと鬼鮫には伝えておくぞ"
「ああ」


短く応答した旦那がヒルコを脱いで巻物にしまった。
地面を蹴った旦那に続き、オイラも走る。

ひとりの少女の無事を願って。

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