大体の作戦は頭に入れた。でも、主催者を殺せば当然騒がれるだろうし、そんな裏ルートを知ってる裏社会の人たちが護衛もなしにパーティーに来るとは思えない。
参加人数も多いらしいし乗り込むのが私と黄瀬だけで大丈夫なのだろうか。乗り込んでからどうやって彼らを殺すのだろうか。尽きない疑問を言葉にすることもできずに正座したまま拳をゆるく握っていると、ふいに小堀さんと目が合った。


「あ、そうだ楸さん」


ふわりと人の良い笑みを浮かべた小堀さんが、私の名前を呼ぶ。反射的に返事をすれば、さらに目を細められた。もう私小堀さんの恋人になりたい。ふりじゃなくてモノホンのほうね。


「パーティー会場で浮かないように、ドレスとか買って化粧もしないとなんだよね」
「ど、どれす」
「化粧は俺に任せろ!そういうの得意だからさ」


ばちこんっと星が飛んできそうな勢いでウィンクしてきた森山さんから目を逸らしつつ、自分のドレス姿を想像しようとしてやめた。モザイクかかるんですけど。っていうかドレスって七五三の時しか着たことないけど大丈夫なの。私ちゃんと着こなせる・・・!?
内心あわあわしていると、隣で黄瀬がふっと鼻で笑ってきたから無言で今朝と同じところをつねっておいた。


「ってぇな!あんたほんっと可愛くない!」
「黄瀬に可愛いと思われたって誰も得しないし」
「はァ!?」
「「「「ぶっは!」」」」
「ちょっと今吹いたの誰っスか!」
「もれなく全員だったよドンマイ」


海常のみなさんの黄瀬いびり見事。思わず親指を立てると、早川さんが白い歯を見せながら同じポーズを返してくれた。おお、なんか新鮮・・・


「あー、オフンッ!パーティーは今夜二十三時からだ」


また、笠松さんが空気を変える。口元に笑みを浮かべながらも真剣な雰囲気を出す森山さん、小堀さん。やる気に満ち溢れた様子の早川さん。むすっとしているけどきっと期待通り失敗はしないだろう黄瀬。
・・・私も、与えられた役目を全うしないと。


「それまで、各々準備しっかりしとけよ」


一人一人と目を合わせて、笠松さんが言い切る。私にも一瞬だけでも目を合わせてくれた。なんか勇気出てきた。

▲▽▲

パーティー会場に入ってからの作戦はまた後に伝えられるらしく。何故か森山さんに引っ張られて随分と高そうな店までやってきた。言わずもがな、ドレスを買うためである。
私は自分で言うのもなんだけど、顔が子どもっぽいのに・・・ほんとに着こなせるか心配だ。
ちなみに森山さんは「実際隣歩く奴も一緒にいないとな!」とかって言って無理矢理黄瀬も引っ張ってきた。なんだこれ悪夢。どうせダメ出ししかされないに決まってる。

私より俄然乗り気な森山さんに腕を引かれながら重いため息を吐き出す。


「ため息つきたいのこっちなんスけど」
「いちいちつっかかってこないでようるさいなぁ・・・」
「うぅぅううっっっざ!まじでうざいっスねあんた!ここまでうざい女に出会ったの生まれて初めて」
「そりゃどーも」
「褒めてねーけど」


いつものやり取り。
森山さんは「クッソ黄瀬の野郎仲良いですよアピールかよ・・・!」なんて歯軋りしてるけど全然違うから。むしろ黄瀬がここまで露骨に嫌悪を態度で表してるのに何故そこまですがすがしいほどに勘違いできるんですか。


「久遠ちゃん、こんなのどう?」


笑顔で森山さんが指したのは、黄色いドレス。嫌味かよ。即座に否定すれば、黄瀬にぎゅむっと足を踏まれた。
こいつ私に対して容赦なさすぎだろ!


「無難に黒でいいんじゃないですか?ほら、なんかぽいし。そんな華やかなのじゃなくても・・・」
「冷めてんなぁ久遠ちゃん。女の子ってもっとこういうのに興味ない?普通さ」
「時と場合によりますよね」


結婚式のドレスとかを選ぶんだったらまだしも、と続けた言葉に、森山さんは一瞬虚をつかれたような顔をして「そうだなっ」とからりと笑った。
なんだかその笑顔が痛々しく映った。
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