「初めまして久遠ちゃん、俺は森山由孝。君に会える日を今か今かと楽しみにしてたんだ、なんたって君は俺の運命の」
「俺は小堀浩志だ。よろしくな」
「早川充洋っス!よ(ろ)しく久遠さん!」
「笠松、幸男」


なんとも個性的なメンバーだな。
名前は漫画読んで知ってたからいいとして、森山さんの女好きはここまで度を越したものだったっけ?と内心で首を傾げる。言葉を遮られた彼は「まだ俺途中だったんだけど!?」と小堀さんに詰め寄っていた。口説き方がなんというか古風だったな、運命なんて言葉遣う人、今時そうそういないよ?
そして笠松さんはやっぱり異性が苦手っぽい。さっきから全然目ぇ合わない。これ、任務で支障出たりしないんだろうか。あと早川さん声でかい。
・・・秀徳のほうが色々と安全な気がするのは気のせいでしょうか。

黄瀬の運転する車でこれまた一時間弱かかってやってきたのは警察署。なるほど、警察と連携している拠点がここなわけだ、もう何も信じられないね。なんて思ったのもつかの間、奥から顔を出した森山さんに手を引かれて冒頭に至る。


「楸久遠です。今日はよろしくお願いします」
「なんていうか、ホントに普通の女の子っスね!!」


早川さんの好奇心が混じった瞳。その言葉はもう言われ慣れた。けど、ぐいぐいと突っ込んでくるのには耐性がない。秀徳のメンバーはなんていうか、境界線をはっきり保ってたというか。
だから森山さんの言葉にも冗談だとわかっていても少し驚いてしまったし、小堀さんの物腰の柔らかさにも少し拍子抜けだ。
これが、この人たちが、裏で人を殺しているのだからなあ。なんていうかなあ。

黄瀬と目が合う。面白くなさそうな顔をして、すぐに逸らされた。・・・なんだってんだ。

ぱん、と笠松さんがかしわ手を打った。それによってぐっと雰囲気が締まって、一気にぴりぴりとした空気が纏い始める。ああ、本題に入るんだな。正座に座りなおしながら、私は全神経を耳に集中させた。


「今回の任務では、とりあえず、黄瀬と、あーっと・・・楸、さんに、恋人になってもらおうと思ってる」
「「っはぁ!?」」
「うっせー最後まで黙って聞け!」
「いだっ!なんで俺だけ・・・!」


黄瀬とハモってしまったことはともかく、笠松さんの言葉に驚いて思わず彼に詰め寄りながら「どういうことですか!」と叫んでしまった。いやだ。死んでもいやだ。イコール年齢な私の初お相手が、演技でも黄瀬だなんて泣く。


「・・・っ・・・っ!」
「あ、楸さんちょっと・・・笠松から離れてあげて」


苦笑しながら言った小堀さんに我に返って「すみません」と謝ってから座りなおした。
傍では森山さんが腹を抱えて笑っている。そんな彼を一発殴ってから、笠松さんは咳払いをして本題に話を戻した。


「あるホテルで開かれるパーティーの主催者と、その参加者らが今回のターゲットだ」
「そのパーティーの内容はなんスか?」
「奴隷密売」
「・・・っ!」


息を、呑んだ。奴隷。奴隷って。
その言葉を聞いた黄瀬に限らず、この場にいる全員の目が剣呑なものに変わる。


「パーティーに参加できるのは裏ルート事情を知ってるやつらだけだが、参加者は多いし人物チェックが入ることもねぇから怪しがられることはない。堂々と乗り込め」
「で、なんでこいつと恋人のフリやんないとダメなんスか?」
「カップルってのが探りに入るのに一番違和感ねぇから。野郎どもだけだと怪しまれる可能性はなきにしもあらずだしな」
「俺じゃなくてもいいじゃないっスかー!森山先輩とか」
「初対面の俺より黄瀬のほうが気心知れてるだろ?優しい森山さんは久遠ちゃんのために引き下がったんだぞ」
「気心知れてる・・・?」


森山さんの言葉に違和感を感じまくった私は黄瀬を見ながら眉を寄せる。向こうも同じような表情をしていて、そんな私たちを見た小堀さんが「仲いいんだな」となんとも見当違いなことを言ってきたから全力で否定した。


「お前ならやれるだろ、黄瀬」
「・・・はいっス」


黄瀬を信じきった笠松さんの目。渋々でも頷いた黄瀬に、私の意思はどこぞ・・・?と思う暇もなく作戦が伝えられた。
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