良好も良好、夏からやっと付き合い始めたハルちゃんと久遠ちゃんは、大きな問題に直面することもなく恋人という関係を続けている。
まだ二人が付き合いたての頃(付き合ってない時ももう付き合ってるようなもんだったけど)、いろんな話題を振っては久遠ちゃんをからかってたけど、最近は慣れたのかあまり面白い反応が返ってこない。つまんなーいの。
話題って、それこそ手繋いだ?ハグは?キスは?それ以上は?って、男子高校生ならではの質問攻め。
手を繋いだりハグをしたりすることに関してはハルちゃんの行き過ぎたスキンシップで付き合う前からやってたことだけど。


「なんか面白い話がないんですか久遠さん」
「・・・またその話ぃ?」


うんざりだ、とでも言いたげな表情が返ってくる。「二人の関係が良好ならいいじゃないですか」と、怜ちゃんも呆れていた。
だって、だってさあ!


「恋のキューピッド渚くんに、もっとこう、ぐあってくるような出来事があってそれを話してくれたっていいじゃんっ」
「いや恋のキューピッドは鯖だったけどね・・・」
「鯖・・・?そういえば、お二人の馴れ初めとか僕しらないです」
「っそれだあー!」


馴れ初め!怜ちゃんナイス!
エロ親父のごとく指をわきわきさせながら久遠ちゃんを見ると、「キモッ」と真面目な顔で言われたあと嫌そうな顔をされた。

そうだ、僕たちは重要なことを忘れていた。
知り合ってすぐ鯖の女神とか天使とか、いろいろと崇めるような呼び名で久遠ちゃんのことを呼んでいたハルちゃんはどうしてここまで彼女にゾッコンなのか!とても気になる!


「えー・・・そこは知らなくていいよ」


苦い顔をする久遠ちゃん。話してくれそうにない雰囲気だけど、こんなことで諦める僕じゃあないことはもう知ってるはずだ。
いくらお願いしても無理なときは、仕方ないけどお金に頼るしか術はない。
久遠ちゃんは結構頑固なのだ。


「ポッキー一箱!」
「お菓子で吊るんですか・・・」
「一箱?ケチくさっ」
「・・・二箱!!どうだ!」
「もう一声〜」
「久遠さんも意地が悪いですよ」
「久遠さんは成長期なんです〜」
「んんんー・・・!大マケにマケて、さ、三箱っ・・・!」
「お金を犠牲にしてまで聞きたいことなんですか、それ」
「なにさ!怜ちゃんは気になんないわけ?僕ばっかりにお金出してもらおうったってそうはいかないからね!怜ちゃんと割り勘だから!」
「聞いてないですよそんなこと!」
「だって今言ったもん」
「よっしゃポッキー三箱ゲット」


にやっと笑った久遠ちゃんは、遠慮なく笑う。ああ、僕のお金・・・
すぐに開封してポッキーを口に含みながら、久遠ちゃんが"その日"のことを喋りだす。
僕はしばらく、笑いが止まらなかった。

■■□■

「だから話すの嫌だったんですよ!渚の奴!」


帰り道。たまに部活を覗きに来る久遠を家まで送るのは言わずもがな俺の役目で、真琴も一緒に居る。
今日の昼休憩にあったことを話す久遠の顔は悔しそうで、でもその表情すらかわいくて、渚に対する少しの嫉妬心も吹き飛ばしてくれる。
渚のコミュニケーション力は異常だから。

何笑ってるんですか遙先輩!橘先輩も!

むっと膨れる頬を人差し指でつつけば、ぷしゅっと空気の抜ける音がして「っもー!!」とますます怒り出す。


「でも」
「?はい?」
「あの鯖が俺たちを引き合わせてくれたんだろうな」


至極真面目に思ったことを言えば、数秒後、真琴が吹き出した。


「・・・遙先輩ってほんと天然ですよね」


呆れた風な目を向けてくる久遠。
解せない。
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