お腹が重いな、なんて思いながら目を開ければ、黄瀬が何を考えているのかわからない瞳で私を見下ろしていた。・・・待て、状況が飲み込めない。
とりあえず体にぐっと力を込めてみる。起き上がれない。ですよね、黄瀬が私の上に馬乗りになってるんですもん。誰か状況説明求む。
何も言えずに黙って黄瀬の瞳を見つめ返す。黄瀬は無表情のまま、胸の裏ポケットからがちゃりと嫌な音がするそれを取り出した。

彼は、一体、何を考えているのだろう。


「・・・・・・逃げないんスか」
「逃げれないじゃん」
「まあ、そっスね」


眉間に、冷たいそれが触れる。
引き金を引けば私はあっという間にあの世行きだろう。それでもどこか冷静な頭で、なんで黄瀬はこんなことをしてるんだろうと考えた。考えようとして、やめた。無機質な瞳が、少し揺れたから。彼は銃口を、引けないだろう。確信した。


「・・・ねえ、重いよ」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっと」


自由な右手で、黄瀬の太ももを叩く。
彼はゆっくりとした動作で拳銃を眉間から外し、指の力を抜いたのかそれはベッドから音を立てて床に落ちた。
黄瀬は、まだ私の上からどいてくれない。きっと今回のことは、黄瀬の独断だろう。今が何時かもわからないこの空間で、黄瀬はじっと私を見つめたまま。
そろそろ目のやり場に困るというか、上から退いてほしいんですけど。


「・・・あんたは、きっと後悔する」


初めて言葉を交わした時よりも柔らかい声音が、耳朶をくすぐる。
ぐっと顔を近づけてきた黄瀬は、唇と唇が触れそうな距離を保ちながら続けて呟いた。


「死にたいって、殺してくれって、もういやだって思う日が、来る」
「・・・・・・・」
「俺はそれを知ってる。それでもーーー」


言葉は続かなかった。
顔の距離が近すぎて焦点が合わない。けど、たぶん、黄瀬は泣きそうな顔をしてるんだろう、漠然とそう思った。

彼とわたしは、どこか似ていると思うから。


「思わない」
「・・・・・・!」
「そんな日は、来ない」


もしその日が来たとき、わたしはここには居ない。
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