デートはもっぱら、遙先輩の家だ。所謂、おうちデートとかいうやつ。
あたし自身デートにそんなこだわりはないし、憶測だけど人ごみとか遙先輩は苦手そうだし。
田舎の山はオレンジ色になりつつある、この肌寒い季節は特に家でゆっくりと過ごすのが一番。ということで特に服装を気にすることもなく(とは言っても少しはお洒落しつつ)、遙先輩宅の呼び鈴を鳴らす。
軽快な足音が聞こえてきて、がらりと玄関がスライドすると同時にがばりと抱きつかれた。
ちょっと、これがあたしじゃなかったらどうするんですか!


「久遠ってわかってたから」
「センサーでもついてるんですか、先輩!」
「女神検知センサー?」
「いやあたしに聞かれても・・・」


まああがれ、と柔らかく笑った遙先輩。その笑顔はいつになっても慣れない。だってかっこよすぎるから。ただでさえ整ったお顔をしてるのに、そんな笑顔を向けられたらひとたまりも無い!
俯きつつお邪魔しますと呟いて、履いてきた靴を脱いで居間に上がる。
既にご飯と、今日は秋刀魚の塩焼きが用意されていた。


「鯖じゃないんですね」
「鯖もいいけど、この季節は秋刀魚が旬だろ」
「秋刀魚も好きだから嬉しいです!」
「・・・そうか」


ゆるりと頭を撫でられながら座布団の上に鎮座する。手をあわせた遙先輩にならっていただきますと言えば、「おかわりもあるぞ」と彼はまた柔らかい笑みを浮かべた。ああもう、静まれ心臓!

■■□■

ご飯も食べ終わって、静かな空間を二人で過ごす。友人にデートの詳細を聞かれたときありのままを話せば「気まずくないの!?」と驚かれたけど、そんなことはない。
膝を立てて座る遙先輩は毎回、股の間にあたしを座らせて背後から抱きしめてくる。そしてあたしの耳たぶや髪の毛をいじったり、ぽつりぽつりと話題を振ってきたり。
付き合う前となんら変わらないなあなんて思いつつ、付き合ってからは変に意識してどきどきしっぱなしだけれど、心地いい。

だから、今日はすごく驚いた。


「あの・・・ええ?」


いつもどおり後ろからホールドされるかと思ったら、食器を片した遙先輩は何を思ったのかあたしの真正面に座り、首に腕を回して抱きしめてきた。そしてそのままゆっくりと畳の上に倒れるものだから、必然的に二人寝転ぶ形になるわけで。

破裂しそうである。なにがって、心臓に決まってる。

いつもは見えない遙先輩の顔が間近に迫ってる。蒼く澄んだ瞳はじっとあたしを見つめている。逸らそうにも逸らせない、そんな距離。ち、近い・・・!


「久遠」
「は、はひ!」
「好きだ」
「っあ、え、はい、あ、あたしも、・・・」


なんだこれ。
こくこくと頷くあたしに満足そうな表情を浮かべ、遙先輩はあたしの首に頭を押し付けてきた。
さらさらの髪の毛から、シャンプーと、塩素の香りがする。
どくどくどく、心臓は早鐘を打ったまま。


「・・・・・・久遠」
「は、はいっ」


またあたしの名前を呼んだ先輩が、首元から顔を上げて見つめてくる。
首の後ろの回っていた手はいつのまにか頬に添えられていて、今から何をされるのか、大体予想がついた。でも、待って、心の準備が・・・!!

どんどん近づいてくる遙先輩の顔。咄嗟に目を瞑れば、ふっと笑った気配とともに、唇に柔らかいものが押し当てられた。

・・・幸せだけど、とにかく心臓が持ちません。
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