結局、パイナップルを食べる暇なんてなかったな。
作戦を立てた部屋にそれを置いてきたまま、慌しくも赤司のいるアジトに戻ることになった。「赤司に報告をしといてくれ」と大坪さんにさわやかな笑みを向けられたら断るわけにもいかず、一見八百屋さんにしか見えない店の前で迎えの車を待つ。
ちなみに緑間は明日何も予定が入っていないため、ここに残るそうだ。私も残りたい。これからまた車に揺られるなんて確実に疲労が溜まってく。


「おい」
「え?」


目の前に止まった車から顔を出して声をかけてきたのは、見知らぬ男の人。え、もしかして今日の取引相手の仲間とか・・・いや、高尾さんは単独犯だって言ってたし・・・それにこの人見たことある、気がする。
後ずさりながらも窓の隙間から車内を除き見れば、後頭部座席で目を瞑っている青峰。あ、この人桐皇の人だ。確かーーー


「若松だ。赤司から話は聞いてるから、早く乗れ」
「あ、すみません」


くいくいと親指で後ろを指され、慌ててドアを開ける。うっすらと目を開けた青峰が私を捉えた。その眼光の鋭さに悟る。寝てるわけじゃなかったのか。
のそのそと体を動かして私が座るスペースを作ってくれた青峰に小さく礼を言って車に乗り込めば、すぐに発進した。
なんか、予想通りというか、荒々しい運転だな。


「ったくよー、こっちも任務帰りで疲れてんのに・・・青峰お前先輩に運転させるってどういうことだコラ」
「うっせーなじゃんけんで負けたのはそっちだろ」
「(じゃんけん)」


緑間と高尾さんかよ。
脳裏に浮かんだ変人コンビに、危うく吹き出しそうになる。小さく咳払いをして誤魔化せば、バックミラー越しに若松さんと目が合った。
青峰とはまた違う、ミラー越しでも迫力のある眼光だ。もうやだこの組織怖い人しかいないんだけど。

それにしても、今日のことがあったせいか青峰と会うのは随分久しぶりな感じがした。


「青峰久しぶり」
「は?あー・・・まあ、そうか」


一瞬訝しげな視線を寄越して、彼は大きな手で私の頭を二回、叩いた。
その行動に驚いたのは私だけじゃないらしい。ミラー越しの若松さんの目が見開いている。
頭を叩いてきた本人もまた、同じように驚いていた。・・・いやいやいや、青峰が驚いてどうすんの。

乱れた髪の毛を直しながら、何も言わずに窓の外を見る。
変に心臓がうるさくなってきた。どきどきとか、きゅんとしたとか、そんなんじゃない。
自分でもわからない。優しくしてくれるテツヤさんやさつきちゃんからも自分なりに一線引いた関わり方をしてきたのに、いきなり土足でその線を越えられたような感覚だった。

私はこちら側の人間じゃない。そうだ。思い出せ。常に心に留めておけ。だからこそ、私はどんなことでもやっていけるはずなんだから。
どんな、ことでもーーー

"は、待っ・・・自首する!するか、がっ・・・!?"

・・・どんな、ことでも。

"もっと人間らしくてもよかったんじゃねーかなって"

人間らしいって、なんだろう。

窓の外を睨む自分の眼から、なにか冷たいものがつたった気がした。それでも、気づかないフリをした。
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