《最近、ハルちゃんの様子が変なのって久遠ちゃんでしょ?》
「え゛」
《ハルちゃんを振り回せるのって久遠ちゃんくらいだし》
「そ、それは渚だっていっつも振り回してるじゃん・・・」
《物理的にはね。精神的にだよ、わかる?》


渚から電話がかかってきた時の嫌な予感は、見事に的中した。
遙先輩の気持ちも、自分の気持ちもわかってるのに、あと一歩が踏み出せないあたしに渚はとうとうおつむが切れたようだ。
夏休みという学校に出向かない期間、水泳部はよもやどの部活にも所属してないあたしは必然的に彼らと会う機会が減る。

歩けばすぐに会える距離にある遙先輩の家だけど、そんな勇気はなくて。
手付かずの距離を、放置していた。


《それってずるくない?》
「う・・・」
《ハルちゃんはさ、たぶん誰かを好きになるって初めてで、》


ーーー初めてで、だからわかんなくて色々ぶっとんだことしてきたけど、気持ちはちゃんとホンモノなんだよ、久遠ちゃん。

浮かんだのは、遙先輩の綺麗な横顔。それから、触れた唇の熱さと、塩素の匂い。
・・・伝えなくちゃ。って、何度思ったんだろう。でも、もう逃げたら駄目だ。今までたくさんもらったんだから。


「渚」
《ん?》
「あ、ありがと・・・」
《うん!明日もいつもどおりの時間に学校で練習してるからね》

■■□■

気づいたらしてた。そんな感じだった。
久遠がはにかみながら、俺にとって嬉しいことを言うから、抑えられなくなった。驚き赤く染まった頬を思い出して、心臓が苦しくなる。ずっと、水の中にいるみたいだ。
もう少しで夏休みも終わる。・・・もう少しで、大会の日が来る。
部活終わり、水面を見つめながらぼーっとしていると、心配性の真琴が眉尻を下げながら俺を見ているのが分かった。けど、反応する余裕も気力もなかった。

水だけで、それだけで全てだった頃は、こんな風に何かを一生懸命に追って一喜一憂することはなかったのに。
こんな感情は面倒くさいはずなのに、脳裏を支配して止まないのは久遠の笑った顔。驚いた顔。嬉しそうな顔。


「ハル」


・・・はにかんだ、赤い顔。細い指、黒い髪の毛、祭りの日の、丈の短いワンピース。飴の匂い。


「遙先輩」


闇に咲いた花火、繋がった手のひら。


「遙先輩っ」


触れた、くちびる・・・ーーー、


「ハルちゃん!」


我に返る。水面から顔を上げると、何故か嬉しそうな顔をしたメンバー全員が俺を見ていた。
その向こうに立っているのは。


「・・・・は、はる、遙先輩!」
「・・・・・・・・・・久遠?」


真っ赤な顔をした、久遠だった。
走ってきたのか、その首筋には汗がつたっていて、場違いにもやっぱり天使だとか女神だとかかわいいだとか、頭の中を支配するのはそんな単語だ。

いつもなら真っ先に駆けて行って抱きしめたりなんなりするのに、何故か一歩も動けない。
いつも、何も考えてなかった。どうやって、足を動かすんだったっけ。どうやって、触れてきた?俺は、久遠に。


「ーーーーーっ好きです!!」
「は・・・、」
「はるか、せんぱいが!」
「・・・久遠、」
「好き、だから!今度こそ、おうえっ、応援!行きますっ!」


これは、なんだ?
よく、わからない感情が、頭から足の先まで、体中を駆け巡って、溺れそうになる。
動けないまま、走ってきた久遠の伸ばす手を、反射的に握った。

俺より小さくて、温かい手。
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