「・・・いや〜、ダメっしょ!」


車の中でうとうとと首をもたげて寝ていたら、高尾さんの笑みを含んだ声が聞こえて思わず耳を傾ける。
ダメって、なにがだろう。今日の初任務についてだろうか。
いくらフレンドリーと言っても高尾さんに限らずこのメンバーと私は会ったばかりだ。私が寝ている間に私のことを何か言われるのは当たり前と言えば当たり前。・・・けど、今日の任務、初にも関わらず私は結構完璧にこなせたはずだ。ダメだしされるようなことはない、はず・・・


「ダメって、なにがだよ?」


宮地さんの訝しげな声。ちらりと薄く目を上げて見える範囲で宮地さんの方を見れば、彼は腕を組んでいるようだった。みんな、あんなことをしておいてよく疲れないな。まあ日常茶飯事なら慣れるわな。

ばっと高尾さんが振り向いた気がして、慌てて目を瞑る。車ががたんと揺れて思わず声を上げそうになった。道、悪いなここ。


「宮地サン見ました?楸チャンの顔」
「・・・・・・あー」


え?顔?
・・・待て待て待て、宮地さんも何か納得いった、みたいな反応してるし。え、そんな青ざめた顔してたのか、私。結構ポーカーフェイス保ててたと思うんだけど、死体を見た割には。


「あいつ、赤司に拾われる前からこういうことに慣れてんのか?」


・・・んん?


「んーにゃ、マジで一般人だったらしいっすけど、あの無表情さやばいっすよね」


・・・ええ?


「まあ、確かにあれで初めて死体見ましたって言われても納得しかねるな」


大坪さんまで。


「死体回収する時も無表情だったしなあ・・・」


き、木村さん。

この流れはもしかして、っていうか確実に、疑われてる。たぶん、スパイとかそういう類なのかどうかだ。
ぽ、ポーカーフェイス作ってたのが逆にあだになってしまったのか。これは失敗した。

ただひとつ言えるのは、私は本当にトリップしてきたってとこ以外ではマジで一般人だ。それゆえに、この世界にあまり頓着がないだけで、実際怖かったし。向こうに帰ったら、もう関係ないし。
・・・っていう考え方だから、いけないのか。

この世界の人間じゃない、イコールこっちで起こってることはすべて私には関係ない。けど死ぬのは嫌だから与えられたことは嫌でもしないといけない。
うーん、難しいところだ。わざとらしくてもいいから、おびえとけばよかったのかな。いや普通に怖かったけど、怖がったところで作戦を決行しないといけないのは変わらないしなあ。

目と閉じながら悶々と考えていると、高尾さんが話しを緑間に振った。


「なっ、真ちゃんはどう思うよ?」
「?何がなのだよ」
「今までの話の流れからしてわかっだろー!楸チャンだよ」
「・・・どうもなにも、俺は赤司の決めたことに異論を挟むことはしない」


・・・デスヨネー。緑間ってそういう人でしたよネー。
少しくらいフォローしてくれるかなって期待した私が馬鹿でしたよっと。


「それに、もし楸が怯えてなにもできないよりは、多少疑わしくとも作戦どおりに動いてくれたほうがスムーズに事が進むのだよ。それすらもわからないのか馬鹿め」
「馬鹿って酷ぇなオイ!それ先輩らにも言えることだかんなっ!?」
「ああん?緑間てめぇ言うようになったじゃねーか刺すぞ」
「高尾に馬鹿と言っただけで別に宮地さんには、っ・・・!」


ばしんといい音がした。叩かれたな、緑間。ついでに高尾さんも。

こらー車内で暴れるなー、と大坪さんの声が聞こえる。
あんな事をしたあとだってのに、なんか平和だなー。今度こそ寝る準備に入ろう。


「なんつーか、大丈夫なんかね楸チャン」


・・・まだ私の話するのかよ。


「お前、なんでそんなにこいつのこと考えてんの」
「いやー、真ちゃんの言うことももっともだけど、俺的にはもっと人間らしくてもよかったんじゃねーかなって」


もう高尾さん嫌い。痛いとこばっか突いてくる。今後秀徳と任務が一緒になったとしても、高尾さんからはなるべく近くに寄らないようにしとこう。


「もしあれが何かを押し殺した上での無表情なら、いつかこの子は壊れるような気ィしないっすか?」

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