オレにはひとつ上の姉がいる。
ほぼ関わりのない近所のお兄さんに鯖を分け与えて自分が叱られるくらいにはお人好しで、その癖短気で、思ったことはすぐ顔にでる、そんな人。
最近ねーちゃんは、なんだか楽しそうだ。
帰ってきて、いつもはしなかった夕飯の手伝いをしたり。遅くに帰ってくる父さんの肩揉みをしたり。元から仲は悪くなかったけど、オレの部屋にもよく来るようになったり。
よく見かける光景は、オレのベッドにダイブして枕に顔を埋め、うーだとかあーだとか何かしら唸っている。
今日も、ゲームをしていたら勢いよく開いた部屋の扉。またかと思いながら半目でそっちの方向を見て、少し驚いた。
「・・・なにその顔、めっちゃ真っ赤じゃん」
「別に!?なんでも!?ないけど!?」
夏祭りから帰って来たばかりなんだろう。ちなみにオレは今年も好きな子を誘うことはできなかった。ヘタレなのは自覚してる。野郎どもだけで祭りに行くことに楽しみを見出せないというか、ただむなしくなるだけだと思い友達からの誘いはお断りした所存である。
同じ高校に行くかは分からないんだから、やっぱり誘ってみればよかったなぁと、あの子の笑顔を思い出しながら思った。
ずかずかとオレの部屋に遠慮なく入ってきたねーちゃんは、いつものようにベッドにダイブして枕に顔を埋めてあろうことか今日はごろごろと転がりだした。実にうるさい。まったくもって迷惑な姉である。
「なに、なんかあったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・別になにもないけど」
「なにその棒読み具合、言っとくけどねーちゃんほんとわかりやすすぎるから」
「わかる!?そんなに顔に出てる!?」
「いや、だって、顔真っ赤だし耳も真っ赤だしタコみてぇ」
ずばずばと言ってやると、ねーちゃんは再び枕に顔を埋めて唸りだした。
・・・これは、今日一緒に祭りに行った人となんかあったな。その時に頭に浮かんだのは、何故か鯖がなくて絶望的な顔をしていた近所の七瀬さんだった。
「・・・春斗はさー・・・」
「なに?」
「・・・・・・・・・その、き、」
「は?木?」
「・・・・き、・・・・き、・・・す、とか、したこと・・・ある?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はァ!?」
キスって、その、キス?レモンの味がするやつ?え?キス?きす?ちゅー!?は!?
思わず持っていたゲームを落としてしまう。
呆然とねーちゃんの方を見ると、ねーちゃんは「やややややっぱ今のなし!なしだからね!」と何故かキレてきた。
そしてそのまま持っていた枕をオレに投げつけて(心の底から意味が分からない)、ばたばたと慌しく部屋を出て行った。嵐のような人とはまさにこのことだな。
一人残された部屋で、落ちたゲーム機を無言で拾う。
ゲームオーバーの文字が、黒い画面に浮かび上がっていた。