「メモをよみあげよ!」
「よっしゃまかせろ!」
とある小さな八百屋。院の先生におつかいを頼まれたあたしと飛段は、嬉々としてお買い物袋を引っさげてここまでやってきた。
とはいっても院からあまり離れたところにないこの八百屋さんは、あたしたち孤児のためにいつもお野菜を提供してくれる優しいおじいちゃんとおばあちゃんが営んでいる。
そのお礼として、たまにこうやって院の子どもを派遣する(らしい。オビト情報だ)。大人たちの事情はいつでも複雑だなあなんて思いながら、横でメモに書かれた字を読み上げる飛段に耳を傾けた。
「だいこん三本」
「はいよ!!」
「にんじん四本」
「そいや!」
「たまねぎ二ふくろ」
「せ、せいやっ」
「キャベツ一玉」
「うっ・・・ぐぐ・・・!」
子どもになんて量を買わせるんだ!
馬鹿な飛段はあたしの今の状況を察していないのか、すらすらとまだメモを読み上げている。
ちょ、も、限界なんですけど飛段さん!
返事をしなくなったあたしを振り向いた飛段はやっと事を理解したのか、慌てながら買い物袋を支えてくれた。遅い、遅いよ飛段!
「きづかいができないおとこのこは、モテないんだよ!」
「わりーわりー」
「それにしてもいっぱい買うんだね」
「子どもおおいしなあー」
手渡されたお金をおじいちゃんに渡せば、顔をほころばせながら「少し待ってなさい」と奥に引っ込んでしまった。
飛段と顔を見合わせて首を傾げる。お金はたぶん、足りてるはずだ。
しばらくして出てきたおじいちゃんの手には、小さな飴玉がふたつ。
「!くれるの?」
「おーおー、大きい荷物持って帰らないとダメだろう?まかないだ!」
「せんきゅーじじい!」
「ちょっと飛段じじいとか言わない!ありがとうおじいちゃん!」
にこっと笑ったおじいちゃんはあたしと飛段の頭を優しく撫でて、手を振ってくれた。
すぐに口に入れた飴が、舌の上で甘く転がる。
「しまりのねぇ顔だなぁオイ。ゲハハ!」
「そういう飛段だっておいしいって顔してるしー!」
「まぁわるくねー味だしな」
「またおつかい行ったらもらえるかな?」
「今度はちがうやつらが行くんじゃねーの?」
「りっこうほしようよ!また飛段と行きたい!」
「かわいーこと言ってんじゃねーよバーカ!ゲハハッ」
荷物を片方ずつ持ちながら、院までの道のりを歩く。
たまにはこんな日があってもいいね、そうやって笑いながら。