一時間くらい走ってたどり着いたのは、八百屋さんだった。・・・八百屋って。新しくも古くもなさそうな看板を見上げて突っ立っていると、「久遠チャン、行くぜ」と高尾さんに背中を押される。
スライド式の扉をがらがらと開けて入っていく緑間の後について店に入ると、「おう」と低い声が聞こえた。緑間越しにその人を見る。坊主だ。えーっ、と・・・こんなキャラいたっけな?
自分の記憶力が低いのか、漫画では出てこなかったキャラなのか、できれば後者であってほしいけど。


「おっす木村サン!」
「おー、迎えお疲れさん。久しぶりだな緑間」
「お久しぶりです」


・・・木村って確か、たぶん、漫画ではスタメンだった人だ。私の記憶力が低かったのか・・・なんか悔しい。
目が合ったから軽く頭を下げると、木村さんは少しの間固まった。


「ほら、赤司が拾ったっつー子っすよ」
「楸久遠です。今日はよろしくお願いします」
「・・・あ、ああー!あんまりにも普通だから高尾の彼女かなんかかと思っちまった」
「だっは、なーに言ってんすか木村サン!」
「そこで緑間の彼女じゃなくて高尾さんの彼女って勘違いするあたり木村さんも普通の方っぽいですね」
「何故そこで俺の名前が出るのだよ」
「よっぽどの変人じゃないと緑間とは付き合えないよねって話」
「ぶっは!」
「笑うな高尾!あと何故呼び捨てなのだよ!」
「まーまー落ち着けお前ら。つーかアレだろ、俺らに恋人もなんもねーだろ、な」


木村さんの意味深な言葉に、高尾さんはにっと笑い緑間は顔を背けて眼鏡を押し上げた。
首からさげて服の中にしまったお守りを服越しに握る。なんとか平静を保ててられてるけど、八百屋に着く前から心臓は大袈裟なくらい暴れている。生と死の境にいるようなものだ。私だって緊張くらいする。


「奥に大坪と宮地がいるから、作戦の確認して来い」
「はいーっす」
「わかりました」


高尾さんと緑間がカウンターの奥ののれんをくぐって行く。その後についていこうとしたら、木村さんに声をかけられ、タッパに入ったパイナップルを持たされた。


「表向きだけの店だが味はけっこーイケるぜ。それ食ってリラックスしとけ」
「、ありがとうございます」


木村さん、いい人だ。

▲▽▲

案内された部屋に居たのは、がたいの良い男性二人だった。確か、大坪さんと宮地さん。
木村さんの時同様軽く頭を下げて、高尾さんの隣に座った。木村さんからもらったパイナップルも忘れずに台の上に置く。


「お前が楸久遠か」
「あ、はい」
「赤司の計らいか、今回の任務はあまり危険なものではないからな。安心していいぞ」
「え、そうなんですか」


微笑んで頷いた大坪さんに、安堵のため息を吐く。大坪さんの隣に座っていた宮地さんが、小さく舌打ちをした。


「なんだぁ?まじで一般人じゃねーか」
「何日か前に拾われたばっからしいっすよ!」
「あいつの考えてることは毎回わかんねーな。あー、楸だっけか?ヘマしたら殺すぞ」
「がんばります」
「宮地サン初対面の女の子にまで厳しっ」


じゃあ早速、と大坪さんがケータイを開きながら話を切り出す。たぶん、メモとか形に残るものに作戦は書いたりしないのだろう。おちゃらけていた高尾さんと、ハニワを見つめていた緑間の視線が彼に集まった。
聞き漏らさないように、意識を集中させよう。赤司が私にしかできない役割を与えると言ったのだから、それなりに重要なポジションに位置付けられるはずだ。


「今回の任務は、薬の取引現場を押さえること。もちろん公に事がバレないように、だ」


みんなに見えるようにケータイの画面を向けてきた大坪さんのそれに、誠実そうな顔の男の人が写っている。この人が主犯?世の中わかんないなー、まじで。


「どう接触すんだ?つーかこいつ誰だ」
「俺の調べではごく普通のサラリーマンっす。妻と子供二人いて」
「え」


思わず声が出た。妻と子供もいるの?そんな人が薬やってるの?え?
宮地さんの視線が飛んでくる。下を向けば、「こういう世の中なんだよ」と低い声。
・・・いきなりハードルが高そうだ。


「・・・で、こいつ自体は薬やってなくて、」
「手引きしてんのか」
「そっすねー。それで稼いだ金がたんまり。妻はこいつがそういうことしてんのは全然知んねー、と」
「薬もらってる奴らも押さえんのか?大坪」
「当たり前だ。なにかあってからじゃ遅いからな」


無言のままの緑間に視線をやると、大事そうにハニワを磨いていた。・・・こいつ、まじでぶれねーな。

さっきから押さえる、なんて言葉で表してはいるけれど、実際は殺す、ということだろうな。
赤司にも誰にも拳銃は渡されていない。直接殺すのは私じゃないことに、幾分か安心した。


「問題はどう接触するか。で、今まで宮地と話してて思いついた。楸」
「っはい」
「いきなりだが、お前の出番だ」


嘘だろ。
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