変じゃないかな?いつもと違う髪形で、おかしくないかな。何度も何度もくくりなおしたり、少しお化粧もしてみたりして、春斗の部屋と自分の部屋を行き来した。すごく嫌がられたけど、こういうのってやっぱり男の目線から見てもらったほうがさ、いいと思うんだ。


「もうおかしくないって!ていうか時間大丈夫なわけ?」
「え?あ、あああ!」


いつもは着ないワンピースと、少し高めのハイヒールを履いて、階段を駆け下りた。橘先輩がやわく微笑んで、遙先輩は軽く手を上げてくれる。
すみません遅れましたと半ば悲鳴に近い声が出た。恥ずかしい。だけど先輩達は気にした様子もなく、遙先輩にいたってはさも同然のようにあたしの手を握って歩き出す。
どきどきが、手から伝わってなければいいけど。


「久遠ちゃん、ごめんね?急にお誘いしちゃって・・・友達と約束とかしてなかった?」


遙先輩の向こうから顔を出した橘先輩が、申し訳なさそうな顔をする。
咄嗟に首を横に振って、「大丈夫です!」と笑えば彼も安心したような笑みを見せてくれた。橘先輩はとても包容力がある。

毎年この時期に開催されるお祭りは、それなりに盛り上がるから好きだ。
友達と行ったり弟と行ったりしたことはあったけど・・・と思いながらちらりと遙先輩を見上げる。
どこかすっきりした表情の遙先輩と、それから水泳部のみんなは、リレーで見事に次の大会への切符を手にしたらしい。朝礼で前に出た彼らに、誇らしげな気持ちになったのはつい最近の話だ。


「あ、やっと来た!おっそいよー、三人とも!」
「こんばんは」


渚と怜くんは浴衣らしい。悔しいけどよく似合っていた。
そこで思い出したようにあたしを見下ろした遙先輩が、「久遠、その服似合ってる。久遠のためにつくられたみたいな、」「照れるからやめてください!」ほんっとにもう・・・!
ぷすぷすとにやついた笑みを浮かべる渚をいつものように軽く蹴っておいた。

▲▽▲

さて、なんというか、恒例のというか・・・はぐれた。慌てて家を出てきたせいでケータイは忘れてるし、まぁ地元だから右も左もわかんなくなるようなことはさすがにないけど。
食べ物を買ったときに自然と離してしまった手を、少し後悔した。
はあ、とため息をついて前に向き直る。なんとなくだけど、遙先輩ならあたしを見つけてくれる気がした。・・・って、いやいや、どんだけ自信過剰だよあたし。

じっとしてるわけにはいかない。あたしも足を動かして、彼らを探さないと!


「久遠」
「うおっ!?」


意気込んで歩き出そうとしたとき、ぐいんと腕を引っ張られた。いつものように首に腕が巻きついてきて、動けなくなる。
上を向くと、・・・ああ、やっぱり、遙先輩。
思わず口元が緩んだ。先輩は、何故かそんなあたしから目を逸らす。


「・・・いっつも、どこにいても、遙先輩はあたしを見つけてくれますね」


逞しい腕に手を乗せて、どきどきとうるさい心臓を抑え込んで。
遙先輩はきゅっと口元を引き結んだ。


「そんな顔、するな」
「え?」
「するな」
「な、なに言って―――」


プールの、匂い。つんとした、塩素の。
一瞬で離れていったそれと、思考が追いつかないまま、引っ張られる腕。

ばあん。

大きな音が鳴って、夜空に光が舞い散った。
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