「おーにさーんこっちら!てんのなーるほうへ!」
「・・・・・・は?」
絶賛鬼ごっこ中である。
物陰に隠れながら鬼であるイタチから逃げて、冒頭の言葉を叫んだらイタチはぽかんと口を開けた。え、すごい可愛いけどなんでそんな顔してんの?可愛いけど!
「久遠、ズルしてタッチとかしないからもういちど言ってみろ」
「?なにを?」
「さっきの」
「おにさんこちら?」
「ああ」
なに!?イタチが催促してる!
興奮を抑えながら今度は手拍子をつけて歌ってみることにした。イタチは発言どおり、その場から動く気はないようだ。そんな律儀なところも萌えるゼ!!
「おーにさーんこっちら!てんのなるほうへ!」
「てん?」
「え?てん、・・・?」
「てんって、てんきのてんか?」
「うん」
珍しく何度も聞き返してくるイタチ。そのまま口元に手をやった彼は、破顔した。・・・ええ!?超可愛いんだけど!?なんなの!?
鬼ごっこ中なのも忘れてイタチに駆け寄る。がばっと両手を広げて抱きつけば、ぽんぽんとあたしの頭を優しく叩いてくれた。
「いっぱんじょうしき・・・までとはいかないが、覚えておくといい」
「んっ?なに?」
「なるのは手だ」
「・・・んっ?」
「おにさんこちら、てのなるほうへ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ほ、ほうほう。なるほど。そう来たか。
顔に熱が集まるのが分かる。今は子どもだけど、中身はもう高校生。あたしは十年と少し、ずっと勘違いをしていたということだ。・・・なんたることだ!!
ぽん、と背中にイタチの小さな手が添えられる。
「久遠のおにだぞ」
「えっ」
咄嗟のことで反応できないあたしからすばやく離れたイタチは、廊下へ駆けて行った。
っやられた!くそーーー!
「おにさんこちら、てんのなるほうへ」
「っかわいいけど・・・!!!」
しばらくネタにされそうだ。イタチだから許すけど!